相続放棄

相続放棄の有無を確認するための照会方法・必要書類や所要期間も解説

相続財産に借金や税金の滞納など負債が含まれる場合、相続放棄手続きにより負債の相続を回避することができます。相続放棄が認められるとプラスの財産も含め全てを相続できなくなりますが、借金を引き継がずに済むことは大きなメリットです。ご自身の相続放棄手続きが認められると、次順位相続人へ相続権が移りますが、次順位相続人へ相続権が移ることを説明しなければならない義務はありません。
先順位相続人や親戚と普段から親しい間柄であれば、相続放棄をしたことや死亡したことを知ることができますが、疎遠・不仲な関係の場合や連絡先が不明などさまざまな理由で連絡がとれない場合、相続をしているのか相続放棄申述をしているのか、また、相続放棄申述が受理されたのか知ることができません。被相続人に負債が含まれる可能性がある場合、相続放棄手続きを検討するために、先順位相続人の相続放棄申述の有無を知る必要があります。
相続放棄申述の有無を知るためにはどのような手続きをするのでしょうか。照会方法や注意点について、詳しく解説します。

 

1.相続放棄申述の有無は家庭裁判所で照会可能

1.相続放棄申述の有無を知る必要性

同順位の相続人が相続放棄や死亡などにより全員存在しない場合、次順位に相続権が移ります。第一順位相続人は被相続人の死亡により自分自身が相続人となるため、相続の発生を知る機会は多いでしょう。しかし、第二・三順位相続人は、自身に相続権が移っていることを知らなければ、相続または相続放棄手続きができません。
よくある例として、借金を抱えた兄弟姉妹が死去し、先順位相続人である被相続人の子(第一順位)や親(第二順位)が相続放棄した場合に、兄弟姉妹(第三順位)に相続権が移るケースです。亡き兄弟姉妹の先順位相続人(子や親)が相続放棄または死亡などにより全員が存在しない場合に、兄弟姉妹であるご自身に相続権が移りますが、第一・第二順位相続人が相続放棄申立について受理され、第三順位相続人へ相続権が移ることを知らせない場合、第三順位相続人である兄弟姉妹は自身が相続人であることを知ることができません。被相続人に借金があるのであれば相続放棄の申し立て手続きを検討する必要があります。そのために、まずは、先順位相続人の相続放棄申述・受理の有無を知る必要があります。

【  相続順位と法定相続人  】

被相続人(亡くなった人)の遺産を引き継ぐ相続人の範囲と相続順位は民法第886条から895条に規定されており、第一順位から第三順位まであります。民法で定められている相続人である「法定相続人」には相続権があり、第一順位・第二順位・第三順位の順で相続権が発生します。配偶者は常に相続人であるため相続順はありません。

第一順位 子(被相続人より子が先に死亡している場合は孫など直系卑属)
第二順位 親(親が死亡している場合は祖父母など直系尊属)
第三順位 兄弟姉妹(被相続人より先に兄弟姉妹が死亡している場合は甥姪)

2.相続放棄申述の有無は家庭裁判所へ照会

相続放棄申述の有無は家庭裁判所に照会することが可能です。相続放棄手続きと同じく、被相続人死亡時の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ照会します。

2.照会の権限所持者

相続放棄申述の有無は誰でも照会できるわけではありません。相続放棄申述の照会ができる人は相続人または利害関係のある下記条件に当てはまる人に限定されています。下記条件に当てはまる人であれば家庭裁判所に先順位相続人の相続放棄申述の有無を照会することが可能です。

  • 相続人
  • 被相続人の利害関係人(債権者等)

3.家庭裁判所の管轄

相続放棄申述の照会は、被相続人が死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所へ照会します。相続放棄申述は被相続人の死亡した最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述するためです。なお、被相続人の死亡時の最後の住所地は戸籍の附票を取得することで確認できます。

【 戸籍の附票 】

戸籍の附票は、住所が記録される帳簿です。
戸籍の附票は、本籍地の市区町村で戸籍が作成される際に、その戸籍に記載されている人物それぞれの戸籍作成時から除籍されるまでの全住所とその住所を定めた年月日について記録された書類です。
引っ越し等で現在の住所から必要な住所まで遡り証明したい時や、相続放棄申立てする際に家庭裁判所へ提出する被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本を取得する際などに利用されます。

4.必要な書類

家庭裁判所に相続放棄申述の有無を照会する場合に必要な書類・資料は以下の通りです。請求者が、相続人であるのか利害関係者であるのかによって必要な書類は異なります。また、相続人・利害関係人が紹介する際に必要な共通する書類である「照会申請書」は、各家庭裁判所のHPよりダウンロードもできます。
「被相続人等目録」とは、照会対象者を特定するための書類で、被相続人の氏名・本籍地・最後の住所地・死亡年月日等を記入し、照会対象者の氏名を記入します。

1.相続人が照会する場合必要書類

  • 照会申請書
  • 被相続人等目録
  • 被相続人の住民票の除票(本籍地記載のもの)
  • 被相続人と相続人との関係が分かる戸籍謄本(または除籍謄本)
  • 相続人の本人確認書類(免許証・保険証・マイナンバーカードなど)
  •  返信用封筒・返信用切手(郵送で取得する場合)

2.利害関係人が照会する場合の必要書類

  • 照会申請書
  • 被相続人等目録
  • 被相続人の住民票の除票(本籍地記載のもの)または戸籍の附票の写し
  • 照会者の資格を証明する書類(法人は商業登記簿謄本または資格証明書、個人は本人確認書類)
  • 利害関係の存在を証明する書類のコピー(金銭消費貸借契約書、債務名義等)
  •  返信用封筒と返信用切手

3.相続放棄申述を照会する場合の注意点

①相続人・利害関係人が紹介する際に共通する書類である「照会申請書」は、各家庭裁判所により書式や書き方が異なるケースがありますので、照会する家庭裁判所へ問い合わせ取得しましょう。
②相続放棄の照会手続きの代理行為は弁護士にのみ認められています。また、照会手続の代理を委任する場合は委任状が必要です。
③相続関係図の提出を求められるケースがあります。手書きでも可能です。
④相続人が窓口まで出向く場合は本人確認書類(運転免許証、健康保険証等)と印鑑が必要です。

5.照会の方法

①照会先の家庭裁判所へ取りに行くか、HPよりダウンロードして照会申請書を作成
②被相続人目録の作成(照会対象者を特定するため)

※照会・対象者氏名・被相続人氏名・死亡時の最後の住所・死亡年月日を戸籍に記載されている通りに記入する(日本国籍を有しない場合には住民票の写し等)
※戸籍記載の通りに記入されていない場合、相続放棄申述または受理がないという照会結果になります。書き方に注意しましょう。

③戸籍謄本・住民票・本人確認書類・返信用封筒などの必要書類と①②を被相続人の死亡した最後の住所地の家庭裁判所へ提出します

6.照会にかかる手数料

家庭裁判所に照会する際に手数料はかかりません。無料です。
弁護士に相続放棄申述の照会を依頼するのであれば、依頼費用がかかります。

7.対象となる期間

1.相続放棄の照会可能な対象期間は決まっている

相続放棄申述の有無について照会可能な対象期間は原則として相続発生から3ヶ月以内に申述した手続きについてです。相続順位によりますが、以下期間内で相続放棄申述の有無を紹介することが可能です。

  • 被相続人の死亡より3ヶ月以内における相続放棄申述の有無
  • 先順位者の相続放棄受理日より3ヶ月以内における相続放棄申述の有無

3ヶ月の熟慮期間経過後に相続放棄申述をしている場合、申述されていないと回答されてしまうことがあります。

2.家庭裁判所によって相続放棄申述の照会可能期間が異なるケースがある

ただし、各家庭裁判所によって確認できる期間が異なるケースがあります。
例えば大阪家庭裁判所の場合は、1999年(平成11年)11月1日以降に相続放棄申述の有無を調査したい場合、3ヶ月でなく照会した前日までの相続放棄申述の有無について確認してもらえます。また、第二・第三順位相続人については、先順位相続人の死亡日より現在までに申述がなされているか否かの回答が得られる場合もあります。
このように、被相続人が最後に死亡した住所地の家庭裁判所(相続放棄申述提出する管轄裁判所)により照会可能期間は異なりますので、各家庭裁判所へ問い合わせましょう。

まとめ

今回は、相続放棄申述の照会の有無を確認する方法や必要書類、相続放棄申述の照会可能な期間などについて詳しく解説しました。
自身の親が死去した場合、疎遠な場合を除いて死をきっかけに相続が発生しますので、自身が相続人となることは明確です。しかし、第二・第三順位相続人の場合、第一順位の子や孫から相続放棄手続きをしたことを知らされておらず、自身が知らぬ間に相続人になっていた、というケースもあります。普段から連絡を取り合う関係であれば、相続権が移ることを知らせてくれる可能性はありますが、疎遠な場合や連絡が取れない場合、相続権が移ることを伝えることができない事態も起こり得ます。場合によっては被相続人が生前借金をしており、その債権者から督促状が届いたことにより被相続人の死亡や自身に相続権が移っていたことを知るケースがあります。これは特に第三順位相続人に多いケースですので、兄弟姉妹が死去した場合、先順位相続人が相続放棄をする可能性があるのであれば、受理後に連絡をもらえるように話をしておくと良いでしょう。また、家庭裁判所への申述の照会は相続放棄だけでなく、限定承認申述の有無についても同様に家庭裁判所に照会することができます。
このように、相続放棄手続きが受理されることにより次順位相続人へ相続権が移ることから様々な問題が発生します。相続財産に借金等負債が含まれる場合、自身は負債を逃れることができますが、一方で負債を含む相続財産を背負う相続人が発生する可能性もあるのです。そのため、相続放棄手続きは現状を把握し、適切に手続きを進めていく必要があります。専門的な知識が不足していると判断が難しい場合もあるため、専門家へ依頼すると安心です。
また、ご自身の状況によってどのような手続きが最適であるかは異なります。相続が発生した際は、専門家在籍の司法書士事務所へ相談・依頼をして、スムーズに手続きを進めると良いでしょう。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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