高齢者の身元保証サービスでのトラブル事例と選び方を解説

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高齢者の身元保証サービスでのトラブル事例と選び方を解説

老人ホームやサービス付高齢者住宅などへの入居の際には、身元保証人を求められるケースが少なくありません。身元保証を頼むことができる相手がいない場合、民間の身元保証サービスの利用を検討されることになるでしょう。
しかし、高齢者の身元保証サービスの契約を巡っては、トラブルも多く報告されています。なぜ、身元保証サービスを巡るトラブルが多いのでしょうか。また、安全に身元保証会社を利用するためには、どのような事に注意して選べば良いのでしょうか。

今回は、高齢者の身元保証サービスの概要、高齢者が身元保証サービスを必要とする理由、身元保証サービスのトラブル事例や問題点、身元保証サービスの安全な選び方などについて説明します。

1.高齢者の身元保証サービスとは

高齢者向けの身元保証サービスとはどのようなものなのでしょうか。まずは、高齢者の身元保証サービスの概要と、同時に行われることが多いサービスについて説明します。

(1)高齢者の身元保証を代行するサービス

入院や老人ホーム等の施設への入居の際には、ほとんどの場合、身元保証人が必要となります。しかし、近年核家族化が進んだことで高齢者の単身世帯も増えており、誰もが身元保証を頼める相手が身近にいるとは限りません。
身近に身元保証人を頼める相手がいない高齢者が身元保証人を必要とした時に、有償で身元保証を行うのが高齢者を対象とした身元保証代行会社です。

(2)同時に行われることが多いサービス

高齢者を対象とした身元保証代行会社の特徴として、身元保証の代行以外に以下のようなサービスを同時に行っていることが多いことが挙げられます。

①日常生活支援

身近に頼る方のいない高齢者の生活に必要なサポートを行います。主に以下のような内容が挙げられます。

  • 定期的に電話連絡や訪問をすることによる見守り
  • 入院や施設入居時の手続きや身の回りのサポート
  • 外出(通院・買い物等)への付き添い
  • 各種手続きの代行
  • 金銭管理、財産管理
②死後事務代行業務

本人の死後に必要となる事務作業を代行します。主に以下のような内容が挙げられます。

  • 医療機関や施設からの身柄引受
  • 医療機関や施設への未払い代金の清算
  • 葬儀や納骨の手配
  • 行政機関への各種届出
  • 遺品整理

2.高齢者が身元保証サービスを必要とする理由

現在、入院や手術の際には8割以上の医療機関が身元保証人を求めるといわれています。高齢者向けの施設に入居する際も同様です。
医療機関や施設側からすれば、本人にもしものことがあった時のことを考えると、身元保証人がいない方を預かることはリスクが高いので仕方ないことなのでしょう。
しかし、身元保証人を頼む当てがない高齢者からすると、必要な医療や介護サービスを受けることができないという困った事態になりかねません。
また、今まで苦も無く一人で身の回りのことをこなしていた方でも、高齢になると体力の衰えや健康上の問題などから、どうしても自力ではできないことが発生するため、周囲のサポートを必要とする機会が増えていきます。
こうした事情から、高齢者の身元保証や生活サポートのニーズが高まり、身元保証サービスが誕生したという背景があります。

3.高齢者の身元保証サービスのトラブル例

高齢者の一人世帯の増加に伴い、高齢者の身元保証サービスの需要は今後ますます増えていくことが予想されます。しかし、一方でトラブルの報告が多いのも事実です。
消費者庁の公式サイトでは、「身元保証等高齢者サポートサービスの利用に関する留意事項について」というタイトルで注意喚起されています。

参考URL:身元保証等高齢者サポートサービスの利用に関する留意事項について

国民生活センターに寄せられた高齢者の身元保証等サポートサービスに関する相談件数は、2013~2018年の間、年平均100件程と決して少なくありません。報告されているトラブルの内容は、主に以下のようなものです。

  • 見積りよりも高額な請求をされた
  • 契約したサービスが提供されない
  • 解約したいが方法がわからない
  • 途中でサービス内容が変更された
  • 高額な預託金を請求された

参考URL:https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20190530_1.html

4.高齢者の身元保証サービスの問題点

前章でトラブル事例を紹介しましたが、なぜ高齢者の身元保証ではトラブルが起きやすいのでしょうか。高齢者向けの身元保証等サポートサービスがトラブルになりやすい理由やサービスの問題点について説明します。

(1)会社によって内容や価格がさまざま

高齢者向けの身元保証を含めたサポートサービスは、医療のように一律で料金が決められているわけではない上、比較的新しい業種であることもあり、会社によってサポートの内容や価格にかなりばらつきがあります
数社を比較して、価格が手頃な方を選んだところ、当然含まれていると思っていたサービスが含まれていなかった、または別途料金が必要だったということもあり得ます。

(2)高額になりやすい

高齢者向けの身元保証サービスの内容には、法律の専門的な知識が必要な業務や契約が含まれていることがあります。
専門性の高い契約を同時に複数結べば、費用は自然とかさみます。
基本的な身元保証以外のサービスについてはオプションとして別料金を設けている会社が多いですが、勧められるがまま様々なオプションを加えた結果、恐ろしく高額になってしまうというケースは珍しくありません。

(3)法整備が追い付いていない

高齢者の身元保証や身の回りのサポートという業種自体、比較的新しいものであることもあり、法整備が追い付いていないという問題もあります。

そもそも身元保証会社は開業の際に行政の許可が必要なわけでもなく、現時点では監督省庁も定められていません。
実際に、2016年には高齢者を対象とした身元保証を提供していた日本ライフ協会が、ずさんな経営によって12億もの負債を抱えて破綻したという事例があります。日本ライフ協会は公益法人の認可を受けた事業者でしたが、内閣府の監視体制が機能していなかったためにこのような事件が起きてしまったといえます。
この事件の後、内閣府は事業者の実態把握や措置について検討を始めましたが、法的な措置はまだこれからというのが現状です。

5.身元保証サービスの安全な選び方

トラブルを回避して身元保証サービスを安全に利用するためには、どうすれば良いのでしょうか。身元保証サービスを安全に利用するための選び方について説明します。

(1)自分に必要なサービスを見極める

身元保証サービスの利用を検討する前に、自分がどのようなサポートを求めているか明確にすることが重要です。
具体的には、入院や施設への入居のための身元保証を必要としているのか、日常的な支援を必要としているのか、死後事務代行契約を希望するか、などです。
自分にどのようなサービスが必要か明確にしないまま契約してしまうと後からトラブルになりやすいので、契約前にしっかり考えておきましょう。

(2)評判や経営基盤を確認する

契約を締結する前に、候補として検討している事業者の評判や経営基盤をしっかり確認しましょう。公式サイトやパンフレット以外からも情報を集めることをおすすめします。実際の利用者の感想や、過去にトラブルや裁判などが起きていないかを調べると良いでしょう。

(3)自分の支払い能力に見合ったプランを組む

事業者やプランにもよりますが、利用の度に料金がかかるサービスも多いため、月々の支払いがおおよそいくらになるのかを確認しましょう。事前に見積りを取り、自分の資産状況に見合ったプランを組むことが大切です。

(4)不明点や要望を伝える

プランを組む際には、事業者に不明点や要望をしっかりと伝えましょう。
質問に対して曖昧な回答しか返ってこない場合や希望に合わない場合は、契約直前まで話が進んでいたとしても、別の事業者に変えることをおすすめします。

(5)破綻時の対応や解約方法について確認する

会社が破綻した場合や、解約方法、契約内容の変更方法などについても確認するようにしましょう。解約方法や契約内容の変更については、文書としてもらうようにしましょう。

(6)契約内容を把握する

契約前に契約書をしっかりと読み、理解するようにしましょう。文字が小さくて読みにくい、言葉が難しくてわかりにくいという場合には、事業者側に音読してもらう、分かりやすく説明してもらうなどして、内容をきちんと理解しないまま契約を締結するということは絶対に止めましょう。
契約を締結する際には、できれば一人ではなく信頼できる第三者に立ち会ってもらうことをおすすめします。

6.高齢者で身元保証が必要になった時の相談先

ご高齢で身元保証が必要となった時、慌てて身元保証会社と契約を結ぶことは、トラブルを避けるためにも止めた方が良いでしょう。
老人ホームや医療機関の中には、身元保証人がいなくても大丈夫な所もありますので、問い合わせてみましょう。
どこに相談すれば良いかわからない場合、身元保証やサポートサービスの契約で不明な点がある場合は、まずはお住まいの地域の地域包括センターに相談してもよいでしょう。

まとめ

今回は、高齢者の身元保証サービスの概要、高齢者が身元保証サービスを必要とする理由、身元保証サービスのトラブル事例や問題点、身元保証サービスの安全な選び方などについて説明しました。

近年の急速な高齢化や核家族化、生涯未婚者や離婚者の増加などの社会背景もあり、高齢者向けの身元保証や生活サポートなどのサービスの需要はさらに高まることが予想されます。しかし、高齢者向けのこうした支援業者の中には、孤独なお年寄りに付け込もうとする悪徳業者が潜んでいることも否めません。

被害に遭わないためにも、契約時には慎重に吟味するようにしましょう。自分にどのようなサポートが必要かわからない場合は、身元保証会社と契約を交わす前に信頼できる専門家に相談することをおすすめします。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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