身寄りがない方の老後の対策・安心をサポートする契約とは

生前対策

身寄りがない方の老後の対策・安心をサポートする契約とは

近年、日本では独身のまま老後を迎える方や、少子核家族で配偶者・子どもの死亡により一人世帯になってしまう方が増えています。厚生労働省が発表している「2019年国民生活基礎調査の概況」によると、65歳以上の人がいる世帯のうち単独世帯の割合は、28.8%でした。2017年は26.4%、2018年は27.4%と、年々この割合は増えています。単身世帯の方でも、近所に住んでいる兄弟姉妹や甥姪などの親族と日常的に交流がある方もいらっしゃるかと思います。しかし、頼れる親族が身近にいなくて身寄りがないことを不安に感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、身寄りがない人の老後に生じるリスク、老後の対策、老後の安心をサポートする契約、死後の対策などについて解説します。

1.身寄りがない人の老後に生じるリスク

(1)入院や介護施設入居時の身元保証人がいない

現在、国内の病院に入院する際、多くの病院が以下のような必要性から身元保証人を求めています。

  • 緊急時の連絡
  • 医療費支払いの保証
  • ご逝去の場合の対応
  • 治療方針や手術の際の同意

このように入院患者の身元保証人が必要となる場面は多いため、医療機関側としては入院患者を受け入れる際、身元保証人を確保しておきたいのです。
しかし、身元保証人になってもらえる身近な家族がいないと、医療機関を受診して急に入院することになり身元保証人を求められた際、困ってしまうのではないでしょうか。
また、介護施設等への入居の際も、医療機関に入院する際と同様に身元保証人を求められます。

(2)日常生活のサポートが受けられない

進行速度には個人差があるものの、加齢による身体機能や認知機能の衰えに伴って、今まで普通にこなしてきた日常生活がだんだん不自由になってくることはあるかと思います。足腰の衰えにより歩行が困難になり、スーパーやデパートなどに自由に買い物に行くことができなくなることもあるでしょう。
身近に頼れる家族や友人がいる場合は、日用品や食品の買い物などを頼めますが、そのような人がいない場合は不便に感じることが多いのではないでしょうか。最近は、高齢者向けの買い物代行や付き添いのサービスも増えてきましたが、サービスを利用する度に料金の支払いが必要なため、費用がかかり過ぎてしまうことが懸念されます。

(3)認知機能が低下した場合のリスク

加齢により認知機能が低下した場合はどのようなリスクがあるのでしょうか。
家族と一緒に暮らしている場合は早い段階で家族の誰かに気づいてもらうことができますが、一人暮らしで他人と触れ合うことが少ない場合は、周囲に気づかれないまま、認知症が進行してしまうことがあります。認知症は早期に発見して適切な治療を受けることができれば、進行を抑制することが可能ですが、認知症の発症に気づけなければ治療を受けることもできません。
また、認知機能が低下すると、高齢者を狙う悪質な詐欺の被害に遇い、金銭を騙し取られてしまうなどのリスクが高くなります。認知症が進行すると、食事を取ることを忘れてしまう、同じものを食べ続けるなど、栄養面に悪影響が生じる可能性もあります。

2.身寄りがない人の老後の対策

(1)介護保険制度のサービスを利用

加齢による身体機能の低下に伴い、家事や買い物などの日常生活が困難になった場合、まずは国の介護保険制度のサービスを利用することを検討するとよいでしょう。

65歳以上の方は、市区町村が実施する要介護認定で認定された場合、介護保険制度のサービスを利用できます。寝たきりや認知症などで介護を必要とする要介護状態だけではなく、家事や買い物など日常生活に支援が必要な要支援状態と認定された場合も、家事援助などのサービスを利用することが可能です。
介護保険制度のサービスを利用したい方は、現在お住まいの市町村の地域包括支援センターに相談してください。インターネットで、お住まいの市町村名と「地域包括支援センター」というキーワードで検索すると、連絡先が表示されるかと思います。(キーワード例:川崎市 地域包括支援センター)

介護保険制度のサービスを利用する際の流れについては、厚生労働省が公開しているこちらのページを参考にしてください。

参考URL:介護予防・日常生活支援総合事業のサービス利用の流れ(厚生労働省公式サイト)

(2)施設への入所

身寄りがない方が老後のリスクに備えるためには、早めに施設への入居を検討してもよいでしょう。最近は、サービス付き高齢者向け住宅など、健康なうちから入所できる高齢者向け住宅が増えています。そのため、身寄りがないことを不安に感じていらっしゃるご高齢の方の中には、比較的早くから、老後の安心に備えて施設への入居を検討されている方もいらっしゃいます。また、一人暮らしの高齢者の中には、ちょっとした病気や怪我などをきっかけに、施設へ入居される方も多いようです。
心身ともに健康なうちに施設への入居を検討すると、自分に合う施設をじっくりと選べる、他の入居者やスタッフの方々と十分なコミュニケーションを取れるなどのメリットがあります。

3.老後の安心をサポートする契約

(1)財産管理契約

財産管理契約は、日用品の買い物、銀行での預金の預け入れや引き出しなど、日常生活に不自由を感じるようになった際、信頼できる身近な人に継続的にお金の処理、医療、介護関係の手続きを代行してもらうための契約です。一人暮らしで身寄りのない方が老後を迎える際に大きな安心につながる契約なので、元気なうちから依頼する相手(受任者)の候補者を考えておくとよいでしょう。「信頼できる身近な人にお願いするなら契約など堅苦しいことは不要なのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、単なる口約束では、お互いが自分の都合の良いように解釈するなど、認識のズレが生じてしまうかもしれません。契約を締結することにより、双方の役割と責任の範囲が明確になるというメリットがあります。
ただし、本人の判断力が十分にあることが前提となるので、認知症により判断力が低下した場合は、この契約は無効になるという点には注意が必要です。

参考記事:財産管理委任契約とは?典型的なトラブルと回避策も解説

(2)任意後見契約

任意後見契約は、ご自身の判断力が低下した時に、財産管理や必要な契約締結等を信頼できる人物(任意後見人)に代行してもらうための契約です。

契約自体は、本人の判断力が十分にあることが前提となりますが、契約の効力が発生するのは、本人の判断力が低下した後となります。本人の判断力が低下した際、家庭裁判所に申し立てることにより契約の効力が発生します。家庭裁判所への申し立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人です。

財産管理契約の受任者と任意後見契約の任意後見人は同じ人物が選ばれるケースが多いため、財産管理委任契約を締結する際は任意後見契約もセットで締結することが推奨されています。セットで締結することにより、本人が認知症を発症して判断力が低下した際に任意後見人が早期に気づき、財産管理委任契約から任意後見契約への移行をスムーズに行うことができます。信頼できる人物に財産管理契約の受任者と任意後見契約の任意後見人を引き受けてもらえれば、判断力が低下した後も、安心して自分らしい生活を送ることが可能となります。

4.身寄りがない方の死後の対策

(1)遺言の準備

ご自身が亡くなった後の対策として、判断力が低下する前に、相続の問題について考えておくことは大切です。ご自身は身寄りがないと思っていても、法定相続人が存在する可能性はあるので、まずは自分の遺産を受け継ぐ法定相続人が存在するか調べましょう。法定相続人が存在しない場合、ご自身が残した遺産は原則として国庫に帰属し、国が所有することになります。お世話になった人や慈善団体などに自分の財産を残したい場合、遺言書に遺贈に関する条項を記載する必要があります。また、受遺者がスムーズに遺産を引き継げるよう、遺産として残す財産を全て把握して、財産目録を作成しておくとよいでしょう。

遺言書の作成方法などについては、以下の記事を参考にしていただければと思います。

参考記事:遺言書の書き方とケース別の記載例・預け先を選ぶ際の注意点も解説

(2)エンディングノートの作成

遺言書を作成するのと同時に、エンディングノートも作成しておくとよいでしょう。エンディングノートは、主に、自分が死亡した際の葬儀に関する希望や、連絡してほしい方の連絡先などを記載するためのノートです。終活の一貫として、エンディングノートに大切な人へのメッセージや自分の人生の歴史などを記載する方も増えています。
判断力が低下する前に、遺言を作成してエンディングノートを書く。それは自分の人生を自分らしく締めくくるための幸福で豊かな時間を持つことです。いずれ訪れる旅立ちへの準備をしっかり行うことは、安心して死ねることにもつながるのではないでしょうか。
エンディングノートの作成方法などについては、以下の記事を参考にしていただければと思います。

参考記事:エンディングノートの書き方と記載事項を解説・ケース別の記載例も

(3)死後事務委任契約

人が亡くなると、葬儀、埋葬、納骨、住居の片づけなど、さまざまな事務手続きや作業が発生します。身寄りがない場合は、死後事務委任契約を締結しておくと、死後の事務手続きを過不足なくスムーズに行ってもらうことができます。
死後事務委任契約について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。

参考記事:死後事務委任契約書の記載内容・締結の手順や注意点も解説

4.まとめ

今回は、身寄りがない人の老後に生じるリスク、老後の対策、老後の安心をサポートする契約、死後の対策などについて解説しました。

身寄りがないことを不安に感じている方もいらっしゃるかと思いますが、心身ともに元気なうちに必要な対策をしておくことにより、安心して老後を迎えることが可能です。

ご自身に必要な対策について相談したいという方は、終活や老後の対策に精通した法律の専門家に相談してアドバイスを受けながら進めるとよいでしょう。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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