死後事務

独身が終活ですべきこと|生前にできる準備と相談先を解説

多様化、情報化が進む今の時代、選択肢が極端に狭かったかつての時代とは違い、何人にも様々な選択肢が提供される時代となりました。

仕事や趣味、遊びはもちろんのこと、生活様式にも変化の波は押し寄せ、今や結婚すら選択肢に入れない方がいます。あえて結婚せず、生涯自由を謳歌しようと決意した方々です。

もちろん結婚しない方すべてがそうとは限らず、結果的に結婚に至らなかった、結婚したいけどできなかったという方もいらっしゃるでしょうが、確実に言えることは、ひと昔と比べても生涯独身でいる、いわゆる「おひとりさま」が増えているということです。

配偶者やパートナーに縛られない自由な生活は確かに魅力的であり、既婚者の中には、独身生活を謳歌する方々を羨ましいと感じる方も多くいらっしゃると思います。

しかし、そのような自由は寂しさとも表裏一体であり、年齢を重ねれば重ねるほど、人生を共にするパートナーがいないことに辛さを感じることも少なくはないでしょう。独り身の精神的辛さは認知症のリスクも伴います。

特に、人生の終焉間近になるとその思いは大きくなり、また現実的な問題も浮上します。それは、たった1人の老後をいかに過ごし、たった1人の死後の後処理をどうするか、ということです。

「自分が死んだ後のことなど知るか、どうにかなるもんだ」

と考える剛胆な方はさておき、やはり後腐れなく出来るだけ周囲に迷惑をかけないように死を迎えたいと思う1人身の方も多くいらっしゃいます。

人生の終焉を迎える準備を終活という言い方をしますが、今回は、生涯独身を貫いた方の終活について解説いたします。

 

1.独身の終活ですべきこと

生涯独身を貫いたとしても、完全に孤立無縁な人は存在しません。疎遠であっても兄弟姉妹の世帯が遠方で生活している場合もあるし、親族がいる場合もあります。また、気心の知れた友人の存在も考えられます。病気を患ってしまった場合は介護の必要が生じるため、身の回りの世話のような介護サービスを受けることもあるでしょう。

そんな方々に恥ずかしく無いように、負担をかけないように後腐れなく美しく人生の終焉を迎えたいもの。

そのためには何をすべきで、どんな準備をし、どんな手続きをしておくことが理想かについて以下にお話いたします。独身の就活ですべき活動は概ね5つの項目に分けることができます。

(1)断捨離

急いで実施するのではなく、できるところから少しずつ実施していけば、負担は最小限に抑えることができます。そこで、まずは自身の所有物をすべて把握し、不要なものは処分する、いわゆる断捨離をしましょう。

普段から、物を持つ習慣がない方ならば問題ありませんが、なかなか物を捨てることができない、収集癖のある方はすぐにでも実施した方が良いでしょう。年齢を重ねると捨てることが億劫になり、部屋に物をためがちです。

所有者が亡くなった後、それらを処分するにはかなりの手間と時間、そして費用がかかり、やがて周囲に迷惑をかけることになってしまいます。生活のために最低限必要な物を除いて、少しずつでも処分すること、今ある以上に物を増やさないことを心がけましょう。

(2)お金の整理

トラブルの原因といえば、やはりお金です。いくら独身だからといっても、やはりお金のトラブルはつきもので、自身の遺産が兄弟姉妹や親族同士のトラブルの原因になるということも考えられます。

そこで、所有の財産をできるだけシンプルにまとめましょう。クレジットカードや銀行口座も1つの場所にまとめて管理しやすいようにしておけば安心です。

また、光熱費や通信費、保険などの引き落としがあるならば、それらをリストアップしておくと良いでしょう。

株などの有価証券や不動産、貴金属についても同様です。わかりやすいようにリストアップしておきましょう。

作業が煩雑で難しい場合は、自治体のサポートや業者のサービスを利用することができます。費用はかかりますが、しっかりとわかりやすいように整理してくれるのは大きなメリットです。

(3)遺言書の作成

独身の方に遺言書の作成、と言ってもピンとこないかもしれません。誰に向けての遺言かも不明と思われがちなので無理もありません。

しかし、独身の身であっても、兄弟姉妹や親族への相続を考えるならば、遺言書は作成しておいた方が良いでしょう。自身の財布や銀行口座、資産のありかをすべて記し、誰にどのような財産を渡すかを示します。さらに、葬儀やお墓の形式も書いておくと、遺族が対応しやすいのでおすすめです。

また、相続に関するトラブルを避けるためにも、作成した遺言書は法的に有効な書類としておく必要があります。弁護士や司法書士、行政書士に依頼して、遺言書を公正証書として認めてもらう手筈を整えておくと良いでしょう。

(4)エンディングノートの作成

エンディングノートは、遺言書とは異なり法的効力は発生しませんが、形式に縛られることなく自由闊達に遺言作成者が自身の思いや遺言を後世に遺すために作成する物です。

遺言書と同様に独身だと誰に向けて書けばいいのか、と思われがちですが、自身の死後処理を担う者、親族や友人に向けて書くことになると思われます。

エンディングノートに決まった書き方などはありません。自身の死後の処理を担う者のために、遺産相続や死後の希望、または銀行口座や個人情報などを記しておいても良いでしょう。

(5)葬儀やお墓の準備

独身の方は、葬儀やお墓の準備も自身で済ませる必要があります。もちろん親族に依頼することもできますが、親族と疎遠で交流がほとんどない方や親族に手間をかけたくないと考える方もいらっしゃいます。

事前に葬儀社に予約し、支払いを済ませておけば、お葬式は問題なく執り行われるので安心です。

また独身の方、中でも身寄りのない方はお葬式の後のお墓の手配、永代供養の相談もしておくと良いでしょう。

身寄りのない方や親族に手間をかけさせたくない方は、事前に葬儀社へ依頼して、お葬式の準備や支払いを済ませておくとよいでしょう。永代供養を取り扱っている葬儀社なら親族に代わってお墓の管理の依頼も可能です。先代からお墓を継いでいる場合、永代供養墓への改葬による「墓じまい」も考えるのもひとつの方法です。

2.独身の終活を始めるタイミング

では、独身の方が終活を始める場合の適切なタイミングとはいつになるのか。実は、明確に適切なタイミングがあるわけではありません。ただ早ければ早いほど、理想的な終活ができることは間違いないでしょう。

ある調査によると、50代、60代から終活を意識される方が大半ですが、早い方では30代から終活を始める方もいらっしゃいます。各年代の就活取り組みと注意点についてお話いたします。

まず30代です。極めて少数ながら30代で終活を始める方がいらっしゃいますが、一般的には早すぎるかもしれません。仮に30代で終活するのであれば、老後を安心して暮らせるように自宅の購入や貯金といった準備をしておくと良いでしょう。とはいえ、30代だとまだ結婚し夫婦となる可能性があるため、おひとりさまという前提がなくなるかもしれません。

次に40代です。40代でもまだ結婚の可能性はありますが、30代よりは終活への意識が高まるでしょう。40代でも老後に備えた貯金は必要ですが、他にも保険の見直しや遺品整理などに手がけ始めると良いでしょう。また、老後は年金暮らしというイメージをされている方も多いかもしれませんが、年金をめぐる様々な問題が報じられている昨今、年金に頼らない生活体制の構築をしていく必要があります。そのために資産運用や不労所得の準備をして必要な知識を蓄えておくことも重要です。

そして50代です。老後に備えた貯金が必要であることに変わりはありませんが、いよいよ具体的に終活の準備を始める時期に差し掛かります。老後を豊かに過ごすために生活習慣を見直し、病気の予防に努めましょう。遺言書やエンディングノートの作成を検討するか、作成し始めても良い時期です。

さらに年齢を重ねると、自分の体に異変を感じる方も多くなってきます。そのまま放置してしまうと医療機関へ行くこともできなくなり、そのまま孤独死という最後を迎えてしまうことにもなりかねません。

そこで、自分の体に異変を感じた段階で、医療機関で検査してもらい、その結果を元にこれからの対策を立てる必要があります。例えば、体を動かせなくなってしまう、また認知症を患ってしまうなどのリスクを想定して任意後見の制度の利用を検討しても良いでしょう。

3.生前整理の必要性

生前整理は終活の中でも最重要項目に該当し、終活を行なう本人にとっても、また死後処理を担う者や親族にとっても大きなメリットがあります。ここでは、独身の方の終活をテーマとしているので、終活を実施する本人にとってのメリットについてお話いたします。

まず「自分の死後の希望が叶う」ということです。死後の希望とは、つまり「家族葬にしたい」「どこのお墓に入りたい」という希望のことを意味します。人によっては火葬される地域や埋葬される場所の希望を持つ場合もあります。

それは終活を開始することで初めて意識するものであり、生前整理することによって頭の中も整理される効果が働き、その結果自分の希望が明確になります。自分の希望が明確になれば、死後処理を依頼する方へ自分の言葉で伝えることができます。

また、残りの人生を前向きに生きることができるようになります。生前整理は、人に否応なく死というものを強く意識させ、死を前にして残りの人生をいかにして有意義に過ごすか、ということを考え始めるきっかけを与えます。

「もし今日が人生の最後の日だったら、あなたはどう生きるか」

たった1日をいかにして大切に生きるか、ということを考えるきっかけを与えてくれるわけです。

4.ペットがいる場合の注意点

独身の方が寂しさを紛らわすためにペットを飼うことは、決して珍しいことではありません。いつ何時でも、その可愛らしい姿で慰めてくれるペットたちは、独身の方にとって家族といってもいいでしょう。

ただ、自身が長期入院するか、もしくは突然亡くなってしまうということがあれば、誰がペットの世話をしてくれるのか。ご自身のためにも、そして当のペットのためにも考えておかなくてはなりません。

まずはペットを飼う前に、ペットの寿命を確認しておきましょう。犬であれば平均寿命は12歳〜16歳、猫であれば15歳〜18歳と言われています。

ご自身の年齢とこれから飼い始めるペットの寿命を考慮に入れて、飼うかどうかの決断をした方が良いでしょう。

とはいえ、入院も死もある日突然に降りかかることがあります。ペットを家に放置したまま長期入院に入ってしまうと、帰宅後部屋は見る影もなく荒らされ、ペットは部屋の隅で冷たくなっている、などということもあり得ます。ではどうすればいいのか。

親族や友人にペットを預けることができれば問題ありませんが、なかなかそうはいきません。

そこでペットのための信託契約を交わすという方法があります。自分が長期入院したり、死亡してしまった場合にペットを預かってくれるサービスで、その契約が、ペットのための信託契約です。

ペットのための生命保険のようなものです。一般に生命保険は、自身が亡くなった時に、残された家族に保険金がおりますが、ペットはお金を使うことができません。そこで、保険金の代わりにペットの世話をしてもらう契約を交わすのです。

こうしておけば、自分に万が一のことがあってもペットは安心、というわけです。

費用は決して安くはありませんが、あらかじめ専門業者に問い合わせて契約する場合の価格の相場を聞いておき、その上で検討すると良いでしょう。

5.死後事務委任契約も検討しよう

「今日までおひとりさまを貫いてきた自分には親族も友人もなく、死後のことを頼める人が誰1人としていない」

超高齢化社会と言われる昨今、そんな方も決して珍しくはありません。かといって終活することなく死を迎えると、周囲に迷惑をかけることになってしまいます。

そこで「死後事務委任契約」という制度を利用することができます。これは、葬式や納骨、役所への届けなどの自分の死後の様々な事務処理を任せることができる契約であり、死後事務に精通している知人や友人に依頼することができます。とはいえ、死後事務は比較的煩雑であり、精通している人を見つけることは困難です。

一般的には弁護士や司法書士、行政書士のような専門家を受託者として正式に依頼するのが最も適切だということになります。

6.独身の終活に関する相談先

では、独身の終活についてどこに相談すればいいのか。弁護士事務所のような専門業者や自治体に相談すれば適切に回答してくれますが、民間業者や社団法人が終活の相談を請け負ってくれることもあります。

ネットで検索すればそういった業者がヒットしますが、自治体に相談すれば業者を紹介してくれる場合もあります。

まずは相談してみましょう。そこで信頼できる業者を見極めていきましょう。

7.まとめ

終活を始めるタイミングについては前述した通りです。まだまだ人生を謳歌できる30代の若者が終活を始める、ということに首をかしげる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、常日頃から死を意識することは、決して不自然なことではなく、むしろ健全なことと考えます。その理由は、ある日突然死を迎えることもあり得るためです。

日常生活にも常に死の危険は存在します。事件や事故、病気や感染症など、私たちは常に死の危険と隣り合わせで暮らしているのです。

もちろん共に生活する家族は、生きていく上で心の支えになり、万が一の時にはすべてを任せることができる存在でもあります。

しかし、独身を貫く「おひとりさま」にそのような存在はいません。1人で気ままに人生を謳歌できる自由と1人で人生の幕を閉じる寂しさは表裏一体、それは自然の理です。

そんなおひとりさまだからこそ、常日頃から死を意識し、悔いなく有意義な人生を送らなくてはなりません。終活は、決して死を間近に控えた高齢者だけが行なうものではなく、独身を貫く方すべてが意識し、行なっていくものであると考えます

誰もが悔いなく有意義に人生を謳歌したいもの。終活はそのために極めて重要な役割を果たすのです。

 

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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