尊厳死宣言公正証書とは?作成方法・費用・相談先を解説

生前対策

尊厳死宣言公正証書とは?作成方法・費用・相談先を解説

自分の終末期について考えた時、過剰な延命措置は望まないという方もいらっしゃるでしょう。しかし、延命措置に関する希望を家族に伝えておく、あるいはエンディングノートに記しておくという方法では、終末期に本人が意思表示できない状態の場合、尊厳死を選択できるか定かではありません。
「確実に尊厳死を選択したい」「自分の終末期の医療選択の意思を明確に示しておきたい」と考える場合、尊厳死宣言公正証書を作成しておくという方法があります。

今回は、尊厳死宣言公正証書の概要、尊厳死宣言公正証書の作成の流れ、尊厳死宣言公正証書の作成で必要な書類、尊厳死宣言公正証書の作成にかかる費用や注意点などについて説明します。

1.尊厳死宣言公正証書とは

まずは、尊厳死とはどのようなものなのか、尊厳死宣言公正証書の概要やリビングウィルとの違いなどについて説明します。

(1)尊厳死とは

尊厳死とは、回復の見込みのない終末期に苦痛を緩和するケアだけを行い、延命措置は行わずに自然な状態で死を迎えることをいいます。自然死や平穏死と呼ばれることもあります。
安楽死と混同されることもありますが、安楽死は基本的に回復の見込みがなく苦痛がある患者に対して人為的に死をもたらす行為を指します。延命措置は行わないものの死ぬ時期については自然に任せる尊厳死とは異なります。人為的に死期を早める安楽死は、現在の日本においては違法です。

尊厳死について詳しく知りたいという方は、以下の記事で解説していますので併せてご参照ください。

参考記事:尊厳死とは?安楽死との違いと尊厳死を選択するための方法を解説

(2)尊厳死宣言公正証書の概要

尊厳死宣言公正証書は、尊厳死を希望する旨を公正証書で作成するものです。
最近は、終末期の患者に対する過剰な延命措置は、いたずらに苦痛を長引かせ、医療費の負担を無駄に増やすだけであると考えて、過剰な延命措置は望まないという方も増えています。医療従事者の間でも同様の考えが広がりつつあります。しかし、回復の見込みがないか否かの医学的判断の難しさに加え、一度人工呼吸器などの延命装置につないでしまうと外すことは患者の死に直結するため、違法行為(刑法第202条)に抵触する難しい問題でもあります。
実際に、延命措置を行わなかったことや止めたことにより裁判に発展した事例も少なくありません。そのような事情から、完全に回復が見込めない状態でも本人の意識がなく家族の同意が得られない場合は、延命措置を止められないケースも珍しくありません。
尊厳死の難しさは、終末期の患者はほとんどの場合意識が喪失しているか、人工呼吸器につながれており言葉を発することができない状態にあるため、自分で医療を選択する意思表示が難しいという点にあります。

しかし、意思能力がはっきりしているうちに「回復が見込めないと判断された時に延命措置を望まない」という意思、すなわち尊厳死の希望を公正証書として作成しておけば、患者の意思表示が認められるため、医師が延命措置を止める決断を下しやすくなると考えられます。
実際、現在の医療現場では、リビングウィルや尊厳死宣言公正証書で意思表示があった場合、尊厳死を容認する確率は9割を超えているといわれています。

(3)リビングウィルとの違い

リビングウィルは、自分の終末期の医療やケアの希望などについて記述する文書です。主に、自力で意思表示ができなくなった時に回復の見込みがない場合において、延命措置を行わずに自然に任せて欲しいという意思を医療スタッフに伝えるための書類と考えられます。特に決まった形式はなく、遺言書のように全文手書きをしなければいけないというルールもありません。
しかし、リビングウィルが法的に有効かは不透明であり、リビングウィルを用意していても、状況によっては医師が判断を迷う可能性もあります。

尊厳死宣言公正証書の場合は、現時点で明確な法律上の規定があるわけではないですが、公正証書として作成されていることから、確実に本人の意思で作成されたことが示されるため、法的にも証拠として認められやすいと考えられます。そのため、医療機関側も尊厳死宣言公正証書が提示されることで、延命措置を止めることを躊躇せずに済むでしょう。

2.尊厳死宣言公正証書は自力で作成できるか

尊厳死宣言公正証書は、公正証書なので、公証役場で公証人に作成してもらうものです。そのため、自筆証書遺言のように完全に自分一人で作成することはできません。ただ、必ずしも法律の専門家に相談しなければいけないわけではなく、自分一人で公証人と打合せを行い、作成することは不可能ではありません。

しかし、尊厳死宣言公正証書は、遺言書のように法律上明確なルールがあるわけではなく、だからこそ法的に問題がなく有効性が認められる文書を作成するためには、法律の専門知識を持つ専門家のアドバイスを受けた方が良いとも考えられます。
また、公正証書の作成に不慣れな方の場合、公証人との打合せや作成に手間取ってしまう可能性もあるため、専門家のサポートを受けた方がスムーズに作成できるのは間違いないでしょう。

3.尊厳死宣言公正証書の作成の流れ

尊厳死宣言公正証書を作成する流れについて説明します。

(1)原案を作成する

公正役場に行く前に、尊厳死宣言公正証書の原案を作成します。原案はメモ書きでもかまいません。自分が尊厳死宣言公正証書に盛り込みたい内容についてまとめておきましょう。
原案をどのように作成すれば良いかわからない場合や記述する内容について悩む場合は、この時点で法律の専門家に相談すると良いでしょう。

(2)公証役場で打ち合わせを行う

最寄りの公証役場に連絡を入れて予約をした上で、公証役場で公証人と打ち合わせを行います。もし、病気などで公証役場に出向けない場合は、公証人に出張して来てもらうこともできますが、その際は出張費用(公正証書作成手数料×1.5倍、日当、交通費)が掛かります。弁護士や司法書士等に依頼した場合、公証人との打合せを代行してもらうことも可能です。

(3)公証人が文案を作成

打合せで決めた内容を元に、公証人が文案を作成します。完成した文案は、直接公証役場まで出向いて確認するか、郵送またはFAXで送ってもらうことも可能です。内容の修正が必要な場合は、再度打合せを行います。

(4)公証役場で最終確認して署名・捺印

公証役場にて最終確認を行い、問題がなければ署名・押印をして完成となります。完成した正本・謄本は本人に渡されますが、原本は公証役場に保管されます。

4.尊厳死宣言公正証書の作成で必要な書類

尊厳死宣言公正証書を作成する際は、本人であることを証明するために以下のいずれかが必要です。

  • 印鑑証明書(3カ月以内に発行されたもの)と実印
  • 運転免許証と認印
  • パスポートと認印
  • マイナンバーカードと認印
  • その他公的機関発行の写真付き身分証明書と認印

上記の書類は、打合せの際にはなくても問題ありませんが、完成日には必ず用意する必要があります。

5.尊厳死宣言公正証書を作成する際の費用

尊厳死宣言公正証書を作成するための費用は、以下のとおりです。

  • 基本手数料:11,000円
  • 正本・謄本正本:1,000~2,000円程度

その他、公証人に出張してもらう場合は別途出張費用(基本手数料11,000円×1.5、日当一日20,000円・半日10,000円、交通費)が掛かります。

また、法律の専門家に作成のサポートを依頼した場合、報酬が必要となります。その際の費用については、依頼する事務所によって異なりますので、問い合わせてみると良いでしょう。

6.尊厳死宣言公正証書を作成する際の注意点

尊厳死宣言公正証書を作成する際に注意すべきポイントについて説明します。

(1)家族に尊厳死の意思を伝えておく

尊厳死を希望する場合、家族に意思を伝えておくことが重要です。尊厳死宣言公正証書を作成しておいても、家族が延命措置を強く希望すれば、医療従事者側がトラブルを恐れて延命措置を行ってしまう可能性があります。
尊厳死宣言公正証書を作成する際には、必ず家族全員に自分の意思を伝え、同意を取り付けておくようにしましょう。

(2)先延ばしにしない

尊厳死宣言公正証書を作成するためには、本人の意思能力が十分であることが必須条件です。万一、認知機能が衰えてしまうことがあれば、作成することはできません。

また、尊厳死宣言公正証書を作りたいと考えているものの、実際に作成するのはまだ先でいいだろうと思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在若くて健康上に問題がなかったとしても、いつ何が起きるかは誰にもわかりません。いざという時に手遅れにならないためにも、尊厳死を希望するのであれば、先延ばしせずに思い立った時点で作成することをおすすめします。

(3)尊厳死宣言公正証書の保管について

尊厳死宣言公正証書を作成した後は、保管に注意が必要です。誰にも伝えずに保管していた場合、いざという時に発見されない恐れがあります。
信頼のおける家族に預けて必要になった時に医師に提示してもらうようお願いしておくことが望ましいでしょう。誰に預ければよいかわからない場合は、保険証など必ず見つけられる重要書類と一緒に保管しておくとよいでしょう。

まとめ

今回は、今回は、尊厳死宣言公正証書の概要、尊厳死宣言公正証書の作成の流れ、尊厳死宣言公正証書の作成で必要な書類、尊厳死宣言公正証書の作成にかかる費用や注意点などについて説明しました。

尊厳死を希望する場合、リビングウィルやエンディングノートに医療や介護についての希望を記述することなどで意思表明をしておくことも可能です。しかし、それだけでは人生の最後にお世話になった医療従事者や家族に迷惑をかけてしまう可能性も残ってしまいます。現在尊厳死を希望する際に、最も証明力の高い方法が尊厳死宣言公正証書です。終活を考えている方は、遺言書と同時に用意してもよいでしょう。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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