生前対策

終活の進め方・やるべき事や始めるタイミングを解説

人はいつから死を意識するでしょうか。年齢で言えば、一般的に老後と言われる70代以上、あるいは病気で余命宣告を受けた時、勤めていた会社を定年で退職した時、自分の親が亡くなった年齢に達した時・・・・もちろん正解はありません。

死をプラスのイメージで捉える人はほとんどいないはずです。死とは生の対極、極めて縁起の悪いもの、最も忌避すべきものと考えるのが自然です。

ただし、死はいずれ誰の身にも起こるものであり、決して逃れることができない現実です。

ならば、死というものを前向きに捉えて生前のうちにその準備をして後悔することなく人生の終焉を迎えよう、という考え方が昨今終活という形で広まりつつあります。

終活とは、人生の終焉を現実のものとして考えそこに至るまでの残りの人生を充実させる活動をいいます。

死を現実と捉えず日常生活を送るか、死を意識して限られた時間を有意義なものにするか、もちろんどちらが正しいというわけではありません。ただ、死を意識することが、これまでの自分の人生を振り返る、そしてこれからの人生のことを考えるきっかけになるのは間違いはずです。

何よりも死を意識することは、自分の家族や親族、親しい友人知人のことを考え、感謝するきっかけにもなるのです。

「終わりよければすべてよし」ということわざもあるように、終活はどんな人生を歩んだ方でも自分の人生全てを肯定できるチャンスを与えてくれる活動でもあるのです。

今回は、そんな終活の進め方や流れ、始めるタイミングなどについて解説いたします。

1. 終活はいつから始めるべきか

人生をより充実させるための終活ですが、いつから始めるべきかについての明確な基準はありません。時期を決めるならばその基準はたった1つ、自分が元気なうちに始めるべきです。それは、病気で入院、もしくは怪我で体が思うように動かなくなってしまってからでは終活の実施は困難になってしまうという理由からです。

とはいえ、あまりに若いうちから終活を考えるのは現実的ではありません。

もちろん終活の開始時期に年齢的な基準を設定することに意味はありませんが、死を意識するような年齢に達した時が終活を始める1つの基準と考えて良いと思います。また、病院で病気の可能性を指摘されたが体は元気、といった状況も基準になるでしょう。

総じて言えば、終活の開始は早いに越したことはありません。

2. 終活の目的を明確にする

終活の目的は、人生の終焉を現実のものとして考えそこに至るまでの残りの人生を充実させることにある、とは前述した通りです。

ただしその目的があまりにも抽象的だと、終活を行なうためのモチベーションの維持が難しくなってしまいます。終活という活動は多岐に及ぶため、1日や2日で完結するものではありません。数ヶ月、数年もの期間をかけてじっくりと実施していくものです。

長期間にわたり終活実施のためのモチベーションを維持するためには、終活の実施者各自が明確で具体的な目的を持つ必要があるのです。

そして何よりも重要なのは、終活という活動自体を楽しんで行なうということです。終活は自分自身や家族のために行なうものであって、強制されるものではありません。

多岐にわたる1つ1つの活動にワクワク感を持ちながら実施する。時には、懐かしい思い出に浸り涙することもあるかもしれません。そんな至高のひとときを十分楽しみ、活動の先に待つ充実した人生、そして家族の笑顔を思い浮かべてみましょう。

3. エンディングノートの作成

終活において、その活動の中心的役割を果たすのがエンディングノートです。終活ノートとも言います。終活の活動内容は全てこのエンディングノートに記録することになります。

文具店で白紙の大学ノートを購入しそこに書き込んでもいいのですが、書店や文房具店に行けば終活ですべきことが項目毎に印字されているエンディンノートが市販されています。

各社がそれぞれ楽しくスムーズな終活ができるようにエンディングノートを製作し販売しています。中には終活における注意点が事細かに記載されたもの、終活の流れをわかりやすい言葉でサポートをしてくれるものもあり、終活の始め方や書き方がわからないという人には便利です。

さて、終活を始めるにあたり、まずはこのエンディングノートを用意することをおすすめしますが、そもそも終活ではまず何をしたらいいのか。市販のエンディングノートにも印字されている終活で実施すべき項目を以下に記します。参考にしてみてください。

・自分の基本情報について

氏名、生年月日、住所、連絡先、学歴、職歴といった履歴書に記載するような情報から、血液型や性格、信念、生き方、趣味、特技、好きな食べ物といったよりパーソナルな内容まで、思いつくままに自分のことを記載していきます。もちろん人生におけるクライマックスを自分史として記載してもいいでしょう。

・財産、資産について

自分名義の銀行口座にある預貯金やお金、その他金融資産、自分が管理する家や土地のような不動産、自動車、貴金属等を記載します。自分の財産全てを自分で把握しているとは限らないので時間をかけて確実に精査しましょう。それらは相続税に大きく影響を及ぼします。

自分の死後、それらの所有権を引き渡す相手、相続人について記載してもいいのですが、エンディングノート自体に法的効力は発生しません。法の力で確実に自分の希望を反映させるためには、遺言書の活用も検討しましょう。

・身の回りのこと

自分が所有するパソコンやスマホの中のデジタル情報には、クレジットカード番号や暗証番号のような秘匿性の高い情報が記録されている可能性があります。そういった情報をデジタル遺品と言います。あらかじめ不要な情報は削除しておいて、家族や親族が中身を確認できるように各種IDやパスワードを記載しておきましょう。

・家族、親族について

大切な家族や親族への思い出、そして感謝の気持ちを遺言として記載しましょう。遺品の形見分けリストの作成もおすすめです。

・親しい友人や知人について

普段はなかなか会えない友人、普段から会っている友人にもなかなか言い出せない感謝の言葉を記載しましょう。自分の死後、家族を通じて伝えてもらうと良いでしょう。

・ペットについて

ペットを飼っているならば、自分の仕事ペットの世話を誰に引き継ぐかについて記載しておきましょう。当然、引き継ぎ先の人にはあらかじめ了解をとっておく必要があります。

・医療、介護について

病気等で判断能力を失ってしまった場合、家族に面倒をみてもらうか、老人ホームのような施設に入ることになります。そうなってしまった場合の対策として、本人がその費用を捻出できるならば事前に用意をしておき、その旨を記載しておくと良いでしょう。

また、何らかの原因で意識不明の重体となってしまった場合、家族は延命治療を行なうか否かの極めて難しい判断を迫られることになります。そういった家族の精神的負担を和らげるために、そうなった場合の自分の意思を記載しておきましょう。

・葬儀、お墓について

昨今は密葬や家族葬など、お葬式のスタイルも多様化しています。自分の希望に沿った葬儀を記載しておけば、業者の選定や葬儀の手続きといった遺族の負担を軽減させることができます。

・相続、遺言書について

遺族同士の遺産相続をめぐる争いやトラブルは、近年も頻繁に発生しています。資産はもちろんのこと負債についても確認し、その相続人を記載しておきましょう。なお、相続財産についてはエンディングノートに記載するよりも、弁護士や司法書士のような方の専門家、もしくは公証役場の公証人に依頼し遺言書を作成しておく方が良いでしょう。

作成した遺言書を公正証書とすることで法的効力の発生する書類とすることができ、遺言書を公証役場や法律事務所で保管する契約を交わすこともできます。

・連絡先

自分が亡くなったことを誰に知らせるか、どの友人関係に連絡するかは、遺族にとって悩ましい問題です。遺族の負担を軽減するためにも、友人知人の連絡先リストを作成しておきましょう。

・自分からのメッセージ

その他自分自身のこれまでの人生について振り返り、後世に伝えたいことを自由に記載しましょう。これは残された家族へのメッセージでもありますが、何よりも残された人生をいかに充実させるかのヒントが過去の経験に隠されている場合があるためです。

4. 葬儀の準備

終活において、自分の葬儀の準備をしておくことは非常に重要です。喪主となる人が後で困らないように生前のうちに自分でできることは自分でしておくと、喪主をはじめとする遺族の負担を大きく軽減させることができます。生前に可能な葬儀の準備は以下の5項目です。

  • 参列者名簿の作成
  • 宗教、宗派の決定
  • 葬儀費用の準備
  • 遺影に使用する写真の準備
  • 棺に入れて欲しいものリストの作成

葬儀は基本的に故人の冥福を祈るための儀式であり、故人のパーソナルな部分が大いに反映されます。よって生前のうちにこれらの項目の準備ができれば、遺族の負担を軽減させることはもちろんですし、また自分の希望通りの葬儀にすることができます。

5. お墓の準備

かつては先祖代々の墓、親の墓に入ることが一般的でしたが、家族や親子のあり方の多様化により生前のうちに自分のお墓を準備しておこうという人が増えています。生前に建てるお墓を生前墓と言います。

生前墓のメリットは、自分の好きな場所、石材の種類、デザインを選び、自分の趣味趣向を存分に生かしたものにできる点です。

また、亡くなった個人を偲び悲しみに暮れる遺族がお墓を選ぶのは大変な労力ですし、遺族同士で考えがまとまらないことも考えられます。

生前墓ならば、自分の好きなお墓をデザインできるし、また遺族の負担の軽減にもなるのです。

近年では、由緒あるお寺がお墓を管理、永代供養してくれるサービスもあります。費用もリーズナブルでお手入れの必要もほとんどなく、そのため利用者が増えています。

6. 断捨離

遺族の負担の軽減という点では、不要な物を処分し身軽になることもまた非常に重要です。終活を始めるならばまずはこの不要な物の処分、つまり断捨離から初めても良いかもしれません。

自分の所有物全て見直し、断捨離してスッキリすることでこれからの人生について前向きに考えることができるようになりますし、遺族による遺品整理の負担を軽減することにもなります。

まずは普段使っていないもの、一年以上放置されているものをピックアップしましょう。もちろんその中には貴重が存在する可能性があるので、リサイクルショップに引き取ってもらうか、各地で開催されているフリーマーケットを利用してもいいでしょう。

7. まとめ

人は生を欲するものであり死を忌み嫌います。今元気で生活をしているほとんどの人が健康で長生きしたいと考えるはずですし、死ぬことなど考えたくもないはずです。

しかし、どんなに健康な人で病気1つしたことない人でも、どんなに死を忌み嫌っても、いずれは誰もが例外なく死を迎えます。

そんな時、死という現実を受け入れず背を向けて生きるか、死を現実のものとして受け入れ準備し、そこに至るまでの残りの人生を有意義なものとするか、どちらが人として理想的な姿かはいうまでもないでしょう。

人生いろいろ、と歌にもありますが、100人いれば100通りの人生があります。中には決して幸せとは言えない人生もあるかもしれません。

しかし、100通りの人生の行き着く先は死であり、誰もが同じです。死を前にして人生に貴賎の差はないはずです。

どんな人生も過ぎ去ってしまえば楽しい思い出、だったら自分の人生を笑い飛ばして楽しい人生にしてしまえばいい。そのために終活という活動は大きな役割を果たしてくれます。

もちろん、遺族の負担軽減、配慮という役割もありますが、まずは昔を思い出しながら終活という活動を楽しんでみましょう。その先にはきっと楽しく有意義な人生が待っているはずです。

終活についてさらに詳しく知りたいという人は、弁護士や司法書士といった法の専門家が在籍する法律事務所に相談しましょう。詳しく丁寧に教えてくれます。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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