相続放棄

相続放棄の撤回・取り消しが可能な場合、不可能な場合と理由を解説

相続財産に借金がある場合、相続放棄手続きを申立て認められると「始めから相続人ではなかった」と扱われるため負債を引き継がずにすみます。
相続放棄手続きをすることで借金などの負債を背負わずに済みますが、手続き後、さまざまな理由で「相続放棄を取り消したい」というケースもあるようです。
このような場合、一度認められた相続放棄手続きを撤回・取り消しをすることが可能なのでしょうか。
相続放棄を撤回・取り消しが可能なケース、不可能なケースとその理由について詳しく解説します。
 

1.相続放棄後に撤回を希望するケース

相続放棄の撤回は原則として認められません。
「相続放棄の撤回」とは、相続放棄の申立てをして認められたものの、その後相続放棄の効力を無かったことにしてほしい、というようなケースです。
例えば、
「兄に実家不動産を相続させるために相続放棄を行なったが、財産の中に相続したい財産が見つかったのでやはり撤回したい」
「借金のある可能性があるので相続放棄をしたが、プラスの財産があることが判明したので撤回したい」

このように、申立て当初は相続放棄を行う意思を持って手続きを開始し、その後認められた場合、撤回は認められません。
相続放棄の撤回について、民法では以下の通り規定されています。

 

民法第919条 第1項(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
“相続の承認及び放棄は,第915条第1項の期間内でも,撤回することができない”

相続放棄の熟慮期間内(自身が相続人であることを知ってから3ヶ月以内)であるとしても、一度認められた相続放棄については撤回をすることができないのです。

2.受理前なら申述の取り下げが可能

前述の通り、相続放棄の撤回はできませんが、申述の取り下げることは可能です。
相続放棄の申立て後、1〜2週間後に裁判所から照会書が届き、提出後、相続放棄が受理されますが、相続放棄受理前であれば、相続放棄申立てを取り下げることが可能です。
申し立て直後や、照会書が届く前であれば、通常は取り下げが可能ですが、稀に申立て後、照会書が届く前に相続放棄受理通知書が届くケースがあります。
相続放棄の受理は裁判官の判断によりますので、照会書で問うまでもなく相続放棄をする十分な理由がある場合や、相続放棄申立てについて疑義がないと裁判官が判断した場合、照会書の提出がなくても受理されるケースもあるのです。
そのため、相続放棄手続きを申し立て、受理通知書が届く前に相続放棄申述を取り下げたい場合は、早急に取り下げを希望する旨を電話で連絡をするか、または家庭裁判所へ直接出向いて伝えてください。

3.受理後に撤回が認められない理由

相続放棄手続きは、申述後、受理前であれば取り下げは可能ですが、受理後の撤回が認められません。
主な理由として以下のような点が挙げられます。

  • 相続放棄受理により、相続順位が移ることがある
  • 相続放棄受理により、相続割合が増える可能性がある
  • 相続放棄の撤回を容易に認めてしまうと、相続手続きが混乱する

このように、相続放棄手続きが認められることで相続人でなかったことになるため、他の相続人や周囲へ様々な形で影響が及びます。そのため、相続放棄の撤回は認められていないのです。
相続放棄手続き自体は比較的難しくない手続きのため、ご自身で手続きをされる方もいらっしゃいますが、一度認められると上記理由により撤回ができません。
そのため、相続放棄受理後どのようになるのかを把握した上で慎重に判断し、手続きを行う必要があります。

4.撤回は不可能だが取り消しが可能な場合はある

一度認められた相続放棄の撤回はできませんが、一定の事情により取り消しできる場合があります。
相続放棄の取り消しについて、民法では以下の通り規定されています。
 

民法第919条 第2項(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
前項の規定は,第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない

「相続放棄の取り消しができる一定の事情」とは、次のような場合です

  • 詐欺や脅迫により相続放棄が行われた場合
  • 錯誤によって相続放棄した場合
  • 法定代理人の同意なく未成年者が相続放棄を行なった場合
  • 成年被後見人が相続放棄を行なった場合
  • 被保佐人が保佐人の同意なく相続放棄を行なった場合
  • 後見監督人がいるのに後見人が単独で成年被後見人の相続放棄を行なった場合

1.詐欺や脅迫により相続放棄が行われた場合

親族や周囲の人に事実と異なる情報を聞かされ、その情報を信じて疑わず騙されて相続放棄をしたというケースがあります。
この場合、本来であれば相続放棄をするつもりはなかったが、事実でない情報を聞かされたことにより相続放棄をしたのであれば、詐欺による相続放棄であったことを主張することにより、相続放棄の取り消しが認められる可能性があります。
また、本来であれば相続する予定だったけれども、相続放棄をしなければ危害を加えられる可能性があるなど、脅迫による相続放棄申述をした場合も取り消しが認められる可能性があります。
いずれの場合も、相続放棄をする予定や必要がなかったにも関わらず、詐欺や脅迫によって相続放棄をした場合に取り消しが認められる可能性が高いです。

2.錯誤によって相続放棄した場合

相続放棄の錯誤とは、相続放棄をする意思を決定づける事情があったが、それが事実と異なっていた場合です。
例えば、被相続人に多額の負債があると周囲から聞いたことを理由に相続放棄をしたが、実際にはプラスの財産があり、相続放棄をする必要がなかったケースです。
正しい情報を聞いていれば相続放棄をしなかった、という場合は錯誤により相続放棄だとして、取り消しが認められるケースがあります。
錯誤による法律行為について、民法では以下のように規定されています。
 

民法第95条
1. 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2. 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3. 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4. 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

3.法定代理人の同意なく未成年者が相続放棄を行なった場合

未成年者は法律行為ができませんので、未成年者が単独で行なった相続放棄や、法定代理人である親権者の同意を得ずに相続放棄をした場合は取り消すことができます。
しかし、相続放棄の申述は家庭裁判所の手続き業務の担当者が戸籍謄本などで年齢を確認しますので、よほどのことがない限りは受理されることはありません。

4.成年被後見人・被補佐人・被補助人が規定以外の方法で相続放棄を行なった場合

認知症や障がいなどで判断能力が不十分な場合、単独で相続放棄をすることができません。
判断能力の度合いによる名称と同意・許可を得る対象は以下の通りです
 

 

名称 判断能力の度合い 同意・許可を得る対象
成年被後見人 判断能力が欠けている 成年後見人
被保佐人 判断能力が著しく欠けている 保佐人の同意・家庭裁判所の許可
被補助人 判断能力が不十分 補助人の同意・家庭裁判所の許可

5.後見監督人がいるのに後見人が成年被後見人の相続放棄を行なった場合

後見監督人が選任されている場合、後見人は後見監督人から監督される立場になります。契約行為や相続行為など一定の行為は後見監督人の同意を得る必要がありますので、後見監督人が選任されていながら後見人単独で相続行為などをすると取り消される場合があります。
なお、後見監督人は必ず選任されるわけではなく、家庭裁判所が後見人を監督する必要があると判断した場合に選任されます。

5.取り消しが認められる条件

1.取り消しが認められる条件とは

相続放棄の取り消しが可能なケースは前述の通りですが、必ず取り消しが可能ということではありません。
相続放棄の取り消しが認められる条件は以下の通りです。

  •  相続放棄申述をする時点で取り消しされるべき問題が発生していた
  •  相続放棄申述をした本人に重過失がなかった

相続放棄申述をした後や受理後に、やはり取り消しをしたい、などの理由では認められません。

2.相続放棄の取り消しができる期間

相続放棄の取り消しができる期間は以下の通り定められています。
相続放棄受理を取消す場合は家庭裁判所へ取下書を提出しますが、下記期日経過後は取消権が時効により消滅します。相続放棄の取り消しを行う際は、手続き可能な期間に注意しましょう。

  • 追認できる日から6ヶ月以内
  • 相続放棄受理日より10年以内

【  追認できる日とは  】

追認は、民法第124条に定められている通り、「取り消しの原因となる状況が消滅した」かつ「取消権を有することを知った後」に行うことで効力が生じます。
相続放棄を行なった理由が詐欺によるものだと理解したとき(知ったとき)、強迫により相続放棄を行なった場合は脅迫状態が終了した時など、「相続放棄の取り消しをすべきだと理解し行動できるようになった時」です。

6.取り消しの手続きと注意点

1.相続放棄の取り消しは家庭裁判所へ申立てる

相続放棄の取り消し手続きは、相続放棄申述と同様に家庭裁判所への申述が必要です。
被相続人の最後の居住地を管轄する家庭裁判所へ申立てます。

2.相続放棄自体が無効であるケース

相続放棄の撤回、相続放棄の取り消しについて述べてきましたが、その他に、相続放棄自体が無効となるケースがあります。
無効となった場合の手続きは複雑なので、専門家に依頼しましょう。

⑴本人に許可を得ず、相続放棄がされていたケース

本人の許可を得ていないということは、本人に相続放棄をするという意思がないため無効です。
第三者が委任契約を結ばずに書類を作成して署名・押印したということになりますので認められません。

⑵相続財産を利用・使用していたケース

相続財産を利用・使用していたケースは無効です。
相続財産を使用した時点「財産の処分行為」として単純承認事由に該当しますので、相続放棄手続きが認められません。

まとめ

今回は、相続放棄の撤回・取り消しが認められるケースと注意点について詳しく説明しました。
特段の事情がある場合や状況によっては相続放棄の取り消しが認められるケースがあり、また無効になるケースもあります。しかし、単なる勘違いなどの場合は、取り消しや無効が認められません。
「相続放棄申述をする時点で取り消しされるべき問題が発生しており、本人に重過失がなかった」
という条件を満たさないと相続放棄の取り消しは認められません。
相続放棄手続きはご自身でも申述可能な手続きですが手間と時間がかかり、3ヶ月の申立て期間を経過してしまう可能性もあります。また、原則として一度しか手続きをすることはできませんので、慎重に判断した上で手続きを進める必要があります。
さまざまな状況を把握し、相続放棄手続きを行うことでどのようなことが起こるのかを理解し、相続放棄手続きを行うか否かを慎重に判断しましょう。場合によっては、相続放棄ではなく、限定承認やその他の方法により解決できるケースもあります。
手続き後のトラブル防止のためにも、相続放棄手続きだけではなく、遺産相続に関する手続きについては、司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。

 

この記事を書いた人
まつだ りょうすけ
松田了介

司法書士(大阪司法書士会 第4902号、簡裁訴訟代理関係業務認定第1612053号)
司法書士法人ABC社員
行政書士有資格
大阪府堺市出身
桃山学院高等学校・同志社大学法学部卒業
世界最大手の国際物流サービス会社であるフェデックスに24年間勤務。グローバルセールスとして物流価値を創造するソリューションを提案、企業のグローバルビジネスをサポート。
以前より中小企業の事業承継や相続の仕事に携わりたいと考えており司法書士になることを決意。
平成28年に司法書士試験に合格し、フェデックス退職後、司法書士法人ABCへ入社。
日々寄せられる事業承継や相続の相談について丁寧に対応、現状を把握し、最適な解決方法を提案。
お客様にご納得いただける手続きを提供すべく、知識の研鑽に努めている。

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