相続放棄

不動産の相続放棄の流れ・手続きに必要な書類や知っておくべき注意点

亡くなった親、両親から承継するものは様々あります。
時計だったり、骨董品だったり、車だったり・・・
もちろんお金にはならなくとも親から承継した唯一無二の形見は子によって宝物となることもあるでしょう。

ただし、承継するものの中には、いくら形見といっても、思い出が詰まっていたとしても、所有しているだけで固定資産税等の課税対象となったり、管理を要したりするものがあります。
それが家や土地といった不動産です。

もちろん自分の両親から承継した家や土地ならば、子供である自分が相続することは承知していますし、事前に様々な対策を講ずることもできます。

ところが、不動産は、たとえ被相続人に法定相続人に該当する者がいなくても、親族が相続しなくてはなりません。

そのため名前だけは知っているが一度も顔すら知らない親族の土地を相続することになった、という事態も起こり得るのです。

ただ納税し管理するだけのために不動産を所有するわけにはいきません。
相続してしまうと長期に渡り納税義務と管理義務を負うことになります。
しかもその税額は、相続人の生活すら逼迫させてしまうほどの額になることもあります。

もちろん不動産の承継をきっかけに独立し事業の事務所を構えたり、賃貸貸しで家賃のような不労所得を獲得したりする計画があるなど活用する手段があるならば話は別です。

不動産のような多くの相続人にとって必要のない財産の相続を放棄するための手続きを相続放棄といいます。以下、その詳細や手続きについてお話いたします。

 

【目次】
1.不動産の相続放棄の前に知っておくべき注意点
2. 法定相続人の確認方法
3. 必要な書類の準備
4. 相続放棄申述書の記載
5. 家庭裁判所に書類を提出
6. 照会書の返送
7. 相続放棄申述受理通知書の確認
8. 完了後に行うべきこと
9. 不動産の相続放棄に関する相談先
10. まとめ

 

1.不動産の相続放棄の前に知っておくべき注意点

相続放棄の注意点

まずは、相続そして遺産という言葉の法的な意味を説明しておきましょう。
相続とは、ある人が死亡した時にその人(被相続人)の遺産を特定の人(相続人)が引き継ぐことを言います。
そして遺産とは、預貯金や家財道具のようなプラスの財産だけでなく借金や納税義務のようなマイナスの財産も含めた、被相続人が残した権利や義務のすべてを言います。

つまり、相続放棄は被相続人の遺産すべてを放棄することを意味し、不動産だけでなく相続人にとって大きな価値を持つであろう預貯金も放棄することになるのです。

そのため相続人は、被相続人が多くの遺産を持つ場合、それらすべてを相続するか放棄するか時間をかけて調査し熟考しなくてはなりません。

そしてその判断のポイントは、プラスの財産がマイナスの財産を上回るか否かということです。

なお、被相続人の死亡で下りる生命保険は、相続放棄をしても受け取ることができます。
もちろんそれが相続人であるとは限りませんが。

2. 法定相続人の確認方法

被相続人が遺書で相続人を指定していない場合、遺産は法定相続人が相続することになります。
法定相続人とは民法で定められた相続人のことを言い、相続人となる優先順位は配偶者、第一順位、第二順位、第三順位と決められています。

配偶者とは婚姻関係にある者をいい、常に相続人となります。
第一順位の相続人とは被相続人の子が該当し、被相続人に配偶者がいない場合は優先的に相続人となります。

第二順位の相続人とは被相続人の直系尊属、つまり父母や祖父母が該当し、被相続人に配偶者も子もいない場合は優先的に相続人となります。

第三順位の相続人とは被相続人の兄弟や姉妹が該当し、直系尊属に次いで相続人となります。

もちろん各法定相続人は1人とは限りません。
例えば、第三順位の兄弟や姉妹が複数人いる場合は、遺産が何らかの形で分配されることになります。
分配ができない遺産を相続した場合は共有財産となります。

3. 必要な書類の準備

さて、遺産の相続について検討した上で相続放棄という結論に至ったとします。
手続きは家庭裁判所に対して行なう必要があり、そこに提出しなくてはならない書類が決められています。
以下の通りです。

  • 亡くなった方(被相続人)の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票
  • 相続放棄する人(相続人)の戸籍謄本
  • 相続放棄申述書
  • 収入印紙800円

いずれも一般的な公的書類ですが、相続放棄申述書だけは聞いたこともない、という人が多いはずです。
相続放棄の手続きに必ず必要な書類で、この内容をもとに裁判所で審査が行われます。
では、相続放棄申述書について詳しくお話しましょう。

4. 相続放棄申述書の記載

まずは申述書の理由の欄です。
ここには相続の開始日を記載しますが、相続の開始日は相続人それぞれの状況により異なります。
例えば、被相続人が相続人の父親だった場合は父親が死亡した日が相続の開始日となりますが、被相続人が会ったこともない親類だった場合、納税義務承継通知書のような書類を受け取って相続を知るということもあり得ます。
その時は、相続を知った日が相続の開始日ということになります。

次に放棄の理由です。
相続人の状況次第で様々な理由が考えられますが、理由如何で裁判所が受理しないということはありません。
具体的に理由を記載しましょう。

相続財産の概略は、相続人が放棄する遺産の内容です。
農地や宅地、山林のような不動産だったり、預貯金だったりと遺産は様々ですが、書類記載時点で判明しているもので問題ありません。
また、負債の総額を記載する箇所もありますが、これも同様です。

5. 家庭裁判所に書類を提出

さて、書類がそろったらいよいよ家庭裁判所に提出ですが、ここでも注意点はあります。

まず、裁判所への提出は相続開始から3ヶ月以内に行わなければなりません。
3ヶ月を経過すると相続放棄が受理されず、そのまま相続することになってしまいます。
相続の開始から3ヶ月間かけて入念に遺産の調査をし、相続するか放棄するかを熟慮して結論を出さなくてはなりません。
相続放棄の状況は人により、過程により様々ですが、場合によっては過去の事例が参考になることもあります。

また、相続放棄の書類を提出する裁判所は、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所になります。
裁判所ならどこでもいいというわけではありません。

なお、書類の書き方を誤ると受理されない可能性があります。
期間的に少し余裕を持って提出して裁判所でチェックしてもらうか、弁護士や司法書士、行政書士に相談し場合によってはサポートをしてもらいましょう。

6. 照会書の返送

家庭裁判所に必要書類を提出してから一定期間をおいて、裁判所から照会書という書類が送付されます。
照会書というのは、裁判所からの質問書です。
この質問書に回答し再び裁判所に送付するのですが、照会書の内容次第では相続放棄が却下されてしまうこともあります。

なぜこの照会書が送られてくるのか。
家庭裁判所が相続放棄照会書や回答書を送ってくるのは、相続放棄の申述を本当に相続人が自分の意思で行ったか確認するのが主な目的です。
他にも、相続放棄についての申述の理由や、3ヶ月の申述期限(熟慮期間)に遅れた場合にはその理由等を、家庭裁判所は慎重に吟味します。

家庭裁判所は照会書に複数の照会事項を設け、回答書を使って申述者に回答させることで相続放棄が認めるかどうかの判断を下すので、申述人は書類の記入を不備なく行わなくてはなりません。
こういった類の書類作成の経験がない相続人が1人で作成するのは非常に困難で手間もかかります。

そのため司法書士や行政書士に依頼する方が無難でしょう。

7. 相続放棄申述受理通知書の確認

相続放棄が無事受理されると、相続放棄受理通知書という書類が届きます。
この通知により相続放棄が認められ、被相続人の遺産に関する一切の権利、義務から逃れることができるようになります。

似たような書類に相続放棄申述受理証明書があります。
内容も遺産に対する効果も同じですが、相続放棄申述受理証明書は裁判所で交付申請をしてはじめて発行される書類です。

相続放棄受理通知書をコピーして使用することもできますが、正式な書類が必要となる場面では相続放棄申述受理証明書を提出しなくてはなりません。

では、相続放棄が受理されたことを証明する必要が生じるのはどんな状況でしょうか。
考えられる状況について以下に説明します。

 

  • 相続放棄後に被相続人の債権者から債務の返済を求められた場合

被相続人に債務があり、債権者が相続人に対して債務の返済を求めたとしても、相続放棄が受理された以上相続人の返済義務がなくなります。
この時、債権者に対して相続放棄申述受理証明書を提示して返済を拒むことができます。

相続放棄申述受理証明書は裁判所で交付申請をすれば何度でも発行されるので、債権者が複数人いる場合に有効です。

 

  • 被相続人が滞納していた税金の納税通知書が届いた場合

被相続人が税金を滞納していた場合、法定相続人のもとに納税通知書が届く場合があります。
また被相続人が不動産を所有していた場合、固定資産税や都市計画税の納税通知書が法定相続人のもとに届くことがあります。

相続人が相続放棄をしているならば納税の義務はありませんが、役所に対して相続放棄したことを証明しなくてはなりません。
この時、相続放棄申述受理証明書が必要になります。

8. 完了後に行うべきこと

相続放棄受理通知書が届けば、家庭裁判所で相続放棄が受理されたことになります。
相続放棄の手続きが終わったと考えて問題ありません。
ただし、これはあくまでも家庭裁判所での手続きが済んだだけに過ぎず、実務上は他にもやるべきことがあります。

被相続人が多額の債務を負っていた場合、当然債権者が存在することになります。
先ほども債権者に対して返済を拒むことができるというお話がありましたが、事前に債権者全員に対して相続放棄受理通知書のコピーもしくは相続放棄申述受理証明書を送付し、自分には返済義務がないことを証明した方が良いでしょう。

仮に債権者から債務の返済について裁判を起こされていれば、必ず裁判上で相続放棄が完了している旨を立証しなくてはなりません。

相続放棄が完了しているから自分には返済義務がない、とばかりに裁判を欠席してしまうと敗訴し返済義務が生じてしまう可能性があります。

相続放棄が完了していても実務上はやることがあります。
弁護士や司法書士に相談し、相続放棄完了後にすべきことについて確認しておきましょう。

9. 不動産の相続放棄に関する相談先

相続放棄する主要な理由は多額の借金などの負債ですが、不動産も実質負債となってしまうケースが多くあります。

もちろん相続放棄が完了すれば、相続した不動産に関しての納税義務を負うことはありません。
しかし、例えば幼い頃住んだ実家のような建物を相続した場合、相続放棄が完了しても建物の管理義務は負わなければなりません。
建物周辺の景観を損ねる恐れがあるためです。

会社から毎月の給与を受けて生活している場合、自分の住まいとは別の実家の管理まで手が回らないのが現状でしょう。
そこまで資金があって時間的にも余裕のある人はごく少数です。

不動産の相続放棄については、不動産の仲介業者の中でも相続関連の業務を専門にしている業者に相談することをお勧めします。
もちろん弁護士や司法書士に相談しても的確なアドバイスを提供してくれるはずですが、不動産業者は実際の実務に沿った形でのアドバイスを提供してくれる可能性が高いので、手間が省けます。

例えば、相続放棄を検討している不動産をあえて相続放棄せず、土地を売却もしくは譲渡するという手段を選びます。
そうすれば、納税義務はもちろんのこと不動産の管理義務をも免れることにもなります。
売却する場合も相続人が受け取れる売却益は、一般的な価額と比べると著しく低くなる可能性が高くなりますが、管理義務から解放されることを考えればその価値は十分にあるはずです。

ただし、相続放棄に詳しく経験も豊富な不動産業者を選定する必要があります。
分からなければ、弁護士や司法書士に紹介してもらいましょう。

10. まとめ

自分の両親や祖父母から承継したものを放棄しなければならない事情は各家庭で様々です。
もちろん、会ったこともない親類の相続が自分に回ってくる可能性もありますが、本来ならば故人の思い出をしっかりと次世代へと承継していきたいものです。

しかし、現代を生きる者たちにとって承継したものが必ずしも有益なものとは限りません。
むしろ自分の生活を大きく圧迫してしまうものも多々あるのです。

借金のような負債がその代表例です。
親が作った借金であってもやはり自分がちゃんと返済しなければならない、という責任感は素晴らしいと思いますが、それで自分の生活が破綻してしまっては元も子もありません。

もちろん実家や土地のような思い出の詰まった遺産も同様です。
確かに幼い頃過ごした実家の思い出はすごく大事ですが、納税義務や管理義務を負ってまで相続すべきものかどうかはよく検討すべきでしょう。

そして相続放棄という手段を選択した以上、いかに滞りなくスムーズに手続きを進めるかが非常に重要です。

手続きに不手際やミスがあると、最悪の場合、相続放棄が受理されず思惑に反して相続することになってしまいます。
相続した遺産が多額の借金だった場合などは相続人の日常生活が木っ端微塵に砕け散ってしまうこともあり得るのです。

相続放棄の手続きは、状況次第では困難を伴うことがあり、その判断は法的知識も経験もない相続人個人ができることではありません。

相続放棄の手続きをしなければならない事案が出てきたら、まずは弁護士や司法書士、行政書士に相談し、不動産に関しては不動産業者に相談しましょう。
もちろんそのまま手続きを一任することも想定しておきましょう。

 

 

この記事を書いた人
まつだ りょうすけ
松田了介

司法書士(大阪司法書士会 第4902号、簡裁訴訟代理関係業務認定第1612053号)
司法書士法人ABC社員
行政書士有資格
大阪府堺市出身
桃山学院高等学校・同志社大学法学部卒業
世界最大手の国際物流サービス会社であるフェデックスに24年間勤務。グローバルセールスとして物流価値を創造するソリューションを提案、企業のグローバルビジネスをサポート。
以前より中小企業の事業承継や相続の仕事に携わりたいと考えており司法書士になることを決意。
平成28年に司法書士試験に合格し、フェデックス退職後、司法書士法人ABCへ入社。
日々寄せられる事業承継や相続の相談について丁寧に対応、現状を把握し、最適な解決方法を提案。
お客様にご納得いただける手続きを提供すべく、知識の研鑽に努めている。

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