生前対策

ペット信託とは?仕組みや費用、大切なペットを託す際の注意点を解説

仕事や家庭で日々神経をすり減らし様々なストレスと戦い続ける現代人。
日々の生活のストレスからくる大なり小なりの精神的なダメージを防ぐことはできず、ダメージが大きくなる前の対策として適切なストレス解消は必要不可欠です。

ストレス解消方法は人により様々です。
スポーツで汗を流す人もいれば、小旅行で精神を整える人もおり、ちょっとお高めのレストランでワインを楽しむ人もいます。
目に見えない精神的なダメージは本人もなかなか気づかないケースもあり、ストレス解消は今の時代を生きる上で必須事項と言えるでしょう。

そんな中、ペットを飼育する人が非常に多くなっています
かつては自宅の庭や駐車場に繋がれながら番犬としての役割を果たすことの多かったペット、特に犬ですが、今は人にとってより重要な心の拠り所という役割を果たしています。

ペットはもはや家族の一員、大切に世話して自分に懐いてくれる姿は本当に可愛い。
しかし、それだけにペットとのお別れは辛いものです。

家庭で飼われるペットの多くは犬や猫であり、寿命は概ね10〜15年ほど。
人よりもはるかに寿命は短く、そのため飼い主に必ず訪れるペットとの悲しいお別れは宿命と言ってもいいでしょう。

しかし、その逆、ペットよりも先に飼い主が亡くなってしまうという状況もあります
身寄りのない高齢者が寂しさを紛らわすためにペットを飼い始める場合、こういう状況が発生します。

飼い主を失ったペットはどうなるのか。
動物であるがゆえに個人としての権利を有さず、当然人間社会での生活力も知識もないペットたちは、飼い主の保護を失った後どのように生きていけばいいのか。

そのような状況で利用できるのがペット信託です。これは、その仕組みの内容からペットにかける生命保険とも言われています。

今回はそんなペット信託について解説いたします。

【目次】
1. ペット信託とは
2. ペット信託の仕組み
3. 負担付遺贈や負担付死因贈与との違い
4. ペット信託の料金相場
5. ペット信託を利用する際の流れ
6. ペット信託の選び方と注意点
7. まとめ

1. ペット信託とは

高齢者、特に晩年をおひとりさまとして過ごす方々にとってペットは掛け替えのない家族。
ペットは寂しさを紛らわしてくれる存在であり、残りの人生を共に過ごしてくれる大切なパートナーです。
ペットの存在により救われる高齢者もたくさんいらっしゃることでしょう。

ここである懸念が生じます。
それは自分が先に死んだ後、ペットはどうなるのか、ということです。
ペットが先に生涯を閉じることになれば、業者に依頼し適切に火葬するなどして手厚く葬ることもできますが、自分が先に死んでしまうとそれができない。
人である委託者が死んだ後については、葬儀や遺産整理などの死後事務を委任できる死後事務委任契約といった制度やサービスを活用することができますが、ペットの世話までお願いすることは出来ません。

仮に自分の死後、ペットの世話をお願いできる友人や知人が現れたとしても法的拘束力もなく、しかもペットの世話代と称して、相続人が相続財産から多額のお金を請求されてしまうことも考えられます。

ペットを飼育する人が多い今の世の中で懸念されるこれらの問題を解消するためにできた制度、それがペット信託です。

2. ペット信託の仕組み

ペット信託とは飼い主の不測の事態に備えるペットのための信託です。
これは、ペットの飼い主が怪我や病気などのトラブルでペットの面倒を見ることができなくなった時、あるいは飼い主が亡くなってしまった時、あらかじめ自身の財産の一部を信用できる人物や団体等に託し、その財産をペットの飼育費に充てることでペットが問題なく生活することができるという仕組みです。

委託者が元気なうちに、信頼できる友人や知人、あるいはペット信託を請け負う専門業者とペット信託契約を交わします。
その後、委託者が病気を患う、あるいは亡くなってしまう等でペットの世話ができない状況となった時に信託契約が始まり、受託者はペットの里親となります。
ペットの飼育に要する費用は委託者が負担することになります。

ペット信託は、飼い主である委託者にとって、そして何よりペットが安心して暮らすための数点のメリットがあります。

まずペット信託では、ペットを託された受託者は信託契約で定められた範囲、つまりペット飼育のための支出だけが可能となります。
委託者は、自身で信頼できる受託者を選択することができ、また信託内容についての綿密な打ち合わせをすることで、信託契約に自身の要望を盛り込むことができます。

例えば、委託されたペットが天寿を全うして信託契約が終了した後、残った遺産を委託者の家族や親族に相続させるという信託契約にすることもできます。

また受託者に対して信託監督人という第三者機関を設置することもできるため、委託者は安心して信託内容の実効性を確保することができます。

3. 負担付遺贈や負担付死因贈与との違い

ペット信託以外の方法で一般的に利用されているのは、負担付贈与負担付死因贈与と呼ばれる手続きです。
負担付遺贈が利用される場合もあります。

負担付贈与とは、贈与の代わりに債務の弁済をすることを条件とするなど、あるものを贈与する代わりに受贈者に一定の負担をさせる贈与のことです。

例えば、住宅ローンを組んだ住宅と土地を受贈者に贈与する際にマイナスの財産であるローンも負担させる、といったケースです。

ペットの世話を引き継ぐ際にもこの制度が利用されることがあります。
例えば、贈与者が受贈者に自身の財産を贈与する代償として、ペットの世話を引き受けさせるといったケースが当てはまります。

負担付贈与は、双方合意のもとで交わされる契約であり、当事者である受贈者はペットの世話をする義務を負うことになります。
しかし、義務が適正に遂行されるかどうかをチェックする機能はありません。

負担付死因贈与はどうか。
負担付死因贈与も財産を贈与する代わりに負担も課すという点、双方の合意で成立する点でよく似ていますが、そこに遺言という要素が加わります。

では、負担付遺贈とは何か。
財産を受け取る際にある種の義務も負担するという点では、負担付贈与や負担付死因贈与と同じです。
しかし、負担付遺贈の場合、遺贈者が遺言書に記載する内容によるものであるため双方の合意はありません。

つまり、負担付遺贈の場合、遺贈者(遺言で財産を贈与する人)が受贈者(その財産を受け取る人に対して一方的に義務を課すことになります。
とはいえ、負担付遺贈には受贈者への負担に上限が設けられており、必ずしも遺贈者の遺言通りにしなければならないというわけではありません。
また受贈者は、負担付遺贈を放棄することもできます。

上記3つの手続きは、あくまでも物である財産を主体としており、仮にペットの世話が契約や遺言に包含していたとしても、それは契約の1項目にすぎず、ペットの世話が適正に実施されているかどうかを監督する者もいません。

また、負担付贈与や負担付死因贈与は双方の合意の元で契約が交わされますが、託された財産が実際にペットのために使用される保証もありません。

ペット信託はペットの世話が主体となった手続きであり、その点で上記3つの手続きとは大きく異なります。

4. ペット信託の料金相場

では、ペット信託を始めるにはどの程度の資金が必要なのか。
ペット信託を始めるための方法として以下の2つの方法が考えられます。

  • 自分で管理会社を設立し、第三者に経営や運営を任せる
  • ペット信託専門業者に依頼する

どちらの方法でもペットを託すことは可能ですが、ここではより一般的な「ペット信託専門業者に依頼する」場合の費用についてお話いたします。

まず専門業者との契約締結時に約25万円のお金が必要になります。
もちろん、事業者によって差異はあります。

次に実際に世話に要する費用です。
獣医師にペットの健康診断を依頼し、おおよその余命を判断してもらいます。
専門業者やペットの種類などでも差異はありますが、犬だと1月当たりの飼育費は約2万円となり、年間で24万円。
仮に獣医師が余命10年と判断すれば、概ね240万円の費用が必要となります。

5. ペット信託を利用する際の流れ

では、実際にペット信託を利用するにはどのような手続きをすれば良いのか。以下に、その流れを記します。

まず、ペット信託を引き受けてくれるペット信託の専門業者を探します。
友人や知人から紹介してもらってもいいですし、ネットで専門業者のサイトを検索してもいいでしょう。
前述したように、「自分で管理会社を設立する」という手段もありますが、あまり一般的ではありません。
ここでは「ペット信託専門業者に依頼する」という手段を選択したと仮定しましょう。

ペット信託専門業者を決めたら信託契約書を作成し、専門業者と契約を交わします。
信託契約書には、ペットの世話をしてもらうこと、世話に要する費用を信託財産から支払うことなどを記載します。
その際、金融機関に信託専用の口座を作っておきます。
専門業者はこの口座からペットの世話に必要となるお金を引き出すことになります。

また委託者に相続人が存在する場合、遺言書も一緒に作成し、相続人に対してペット信託についてのことを遺言書に記しておきます。

ペット信託にかかる費用が相続財産から差し引かれ、相続人と争いになりやすいためです。

また、「信託監督人」も選任しておきましょう。
「信託監督人」とは、受託者が信託契約の内容をしっかりと守るかどうかを監督する人のことです。

多くの委託者は、里親となるペット信託の専門業者がちゃんと契約書通りの世話を遂行するかどうか心配に駆られます。
そのため信託監督人の存在は、委託者の安心材料として非常に重要です。

信託監督人に、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家士業を選任することで、法的に適切な監督が行われ、信託契約がきちんと守られることが期待できます。
信託監督人が、信託を受けた飼育費の管理人を見守ります。

6. ペット信託の選び方と注意点

では、どのような基準でペット信託専門業者を選択すれば良いのか。

実は日本にはペット信託業者の数が少なく、ネットで検索しても数百件もの業者がヒットするということはありません。
そのため選択の基準は少なく、ペット信託の実績や各業者の持つ特色や強みが委託者に合致するかどうかで選択すれば良いでしょう。

ただ、費用面では多少の差異はあるので、あらかじめおおよその相場を把握しておけば安心です。相場については前述した通りです。

注意点としては、家族がペット信託を反対するというケースが考えられます。
そういう時は、事前に委託者がペット信託の契約をする理由を家族に伝えて説得しておくか、ペット信託専門業者に家族への説得をお願いしても良いでしょう。

まずはネットでペット信託の専門業者のサイトを検索して、実績ある自分に合いそうな事業者を見つけて相談してみましょう。
自宅近くに専門業者の事務所があれば足を運んでみてもいいでしょう。
ペット飼育施設を見学することが出来れば大きな判断材料となるはずです。

7. まとめ

本来、民事信託(家族信託)契約では委託者、受託者、受益者の3人が登場人物となります。
信託契約は契約締結時から始まり、信託契約の内容に沿った受託者の活動により受益者の生活が保証されることになるのです。

しかし、委託者の家族ともいうべきペットは、動物であるがゆえにこの3者のいずれにもなることは出来ません。
つまり、飼い主である委託者に不測の事態が発生した場合、ペットはなすすべなく受託者の意のままとならざるを得ないのです。

そんな現状に一石を投じたのがペット信託です。
ペット信託は、信託の仕組みを活用しペットに実質受益者としての地位を与える制度であり、飼い主のペットに対する道徳的な責務を果たすものと言ってもいいでしょう。

負担付遺贈や負担付死因贈与といった制度でしかペットの存在が守られなかった現状に、ペット信託という救いの手が差し伸べられたのは素晴らしいことです。

しかし、ペット信託がベストの選択であるとは限りません。
どんなに素晴らしい制度であったとしてもメリットしかないなどということはあり得ず、やはりペット信託にもメリットもデメリットも存在します。
それらを加味した上で、ペットの飼い主はより慎重にペットの里親を見つける必要があります。

もし、飼い主自身が、親族や友人知人の中からペットの里親となってくれる人を見つけることが出来ればペット信託を利用する必要はありません。
ペット信託は、ペットの里親を見つけるための選択肢の1つとして認識しておけば良いと思います。

 

 

この記事を書いた人
まつだ りょうすけ
松田了介

司法書士(大阪司法書士会 第4902号、簡裁訴訟代理関係業務認定第1612053号)
司法書士法人ABC社員
行政書士有資格
大阪府堺市出身
桃山学院高等学校・同志社大学法学部卒業
世界最大手の国際物流サービス会社であるフェデックスに24年間勤務。グローバルセールスとして物流価値を創造するソリューションを提案、企業のグローバルビジネスをサポート。
以前より中小企業の事業承継や相続の仕事に携わりたいと考えており司法書士になることを決意。
平成28年に司法書士試験に合格し、フェデックス退職後、司法書士法人ABCへ入社。
日々寄せられる事業承継や相続の相談について丁寧に対応、現状を把握し、最適な解決方法を提案。
お客様にご納得いただける手続きを提供すべく、知識の研鑽に努めている。

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