相続放棄

相続放棄後も不動産の管理義務は残る?空き家の管理責任を免れる方法

 

【目次】
1.不動産の管理義務とは
2. 相続放棄後も不動産の管理義務が残る理由
3. 国や自治体への寄付は可能か
4. 不動産の管理責任を完全に免れる方法
5. 相続放棄後の管理義務を巡る典型的なトラブル事例
6. 相続放棄後の管理義務に関する問題の相談先
7. まとめ

 

1.不動産の管理義務とは

不動産の相続に関してこんな相談が多く寄せられています

 

亡き父親の遺言により、遺産の実家の一戸建て住宅と土地を息子である私が相続することになった。
他にも預貯金があったが、銀行に問い合わせるとすでに解約済みだった。
つまり財産は不動産のみであり、私に兄弟がいれば遺言の内容から分割協議になり共有の財産になるだろうが、他に兄弟はなく相続は私1人に対してのものである。
登記簿の名義変更を済ませれば、実家の一戸建て住宅と土地は私の所有物になる。
だがちょっと待て・・・一戸建て住宅と土地は確かに大きな財産に違いないが、有効利用できなければ無用の長物だ。
私自身は都市部にマンションを所有しており、仕事の関係もあるため移り住むつもりは毛頭ない。
売却するにも手間がかかりそうだし、他に利用手段もない。
いっその事相続放棄してしまった方がいいのではないか・・・

 

相談者は、父親が残した遺産である不動産をどう扱うかについて悩んでいます。
一般的な家庭に生まれ育った相談者にとって、実家は自身が青春時代を過ごした掛け替えのない住まいです。
それゆえ思い出とともにいつまでも所有しておきたいという気持ちがあるようです。

 

しかし、現実的には非常に困難です。
相続を承認し自身の所有になるということは、維持管理の責任や固定資産税のような納税義務も負担するということです。
相談者は会社での業務に対応するために都市部にマンションを所有しており、空き家となっている地方の実家の管理をすることは容易ではありません。

 

上記相談内容からすると、そのことは相談者もよく理解しているようで、解決のためには相続放棄の手続きをしたら良いということもよくお分かりのようです。

 

相続の開始から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きを済ませれば、相続人は父親の残した全ての資産の所有権を失う一方で、不動産に関しては固定資産税のような納税義務を免れることになります。

 

仮に亡き父親が生前に借金のような債務を残していたことが判明しても、相続放棄の手続きをすれば、その負担を負うこともありません。

 

相続放棄の大きなメリットと言えるでしょう。

 

ただし、そこには大きな落とし穴があることを相談者はご存知ないようです。
それは相続した不動産が空き家である場合、相続人が相続放棄をしても管理義務は残るということなのです。

2. 相続放棄後も不動産の管理義務が残る理由

相続放棄の手続きをすることによって、被相続人(ここでは父親)の残した全ての財産を放棄することになります。

 

相続放棄にはメリットとデメリットがあり、前述したように被相続人の残した債務を負担する義務を免れることができるのはメリット、そしてデメリットは預貯金や不動産といったプラスの財産の所有権を失うということです。

 

しかし、相続した不動産が空き家の場合、たとえ相続放棄しても空き家の管理義務は相続人が負わなければなりません
そのことは以下に示す法律、民法第940条第1項の規定に示されています。

 

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となったものが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」

 

上記相談内容の相談者が被相続人の遺産の相続放棄をした場合、相続権は次順位者に移ることになります。
仮に次順位者が相続放棄すればさらに次順位者に相続権が移ることになり、こうして次々と相続権が移ります。
次順位の相続人がいる場合には、その人に財産を引き渡せば管理義務はなくなります。
しかし、相続人が全員相続放棄してしまったら、次順位の相続人に託すことはできません。
その場合、相続放棄をした相続人が管理義務を免れるには家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要があります。
相続放棄した以上自分には一切関係ない、というわけにはいかないのです。

 

では、なぜこのような規定があるのか。
それは空き家というものの性質が大きく関係していると考えられます。

 

家は人が住んで管理して初めて生きるもの。
管理されず空き家となった家はすぐに老朽化し、害虫や野生動物の栖となってしまいます。

 

特に野生動物の栖となった場合は深刻です。
空き家の近隣住民に被害をもたらす可能性が高くなり、空き家を放置した相続人は損害賠償請求を提起されることになりかねないのです。

3. 国や自治体への寄付は可能か

不動産を相続すると固定資産税の支払い義務や管理義務がのしかかる上に売却もままならない、かといって相続放棄しても管理義務が残る・・・ならばいっそのこと譲渡もしくは寄付でもいいから手放したい、と考える人は多くいます。

 

逆に見れば無料で不動産が手に入るわけです。
それならばあっという間に手放すことができるはず、と考えがちですがそんなに簡単なことではありません。

 

買い手のつかない不動産は、やはり貰い手もなかなか現れないものです。
それは不動産を手に入れようとする人は、所有することによる管理義務や固定資産税の負担、そして贈与税がかかることを理解しているからです。

 

不動産を無料で譲渡する場合、貰い手に贈与税が課されることになります。
それを承知でその不動産の譲渡を受けるのは、不動産業者もしくは専門家がビジネスになると判断する場合です。
そもそもビジネスになるならば売却することも可能です。

 

たまたまその土地に家を建てようとしている人に巡り合えば、見事に互いの利害が一致する最も理想的な形ですが、そんな幸運をあてにするわけにもいきません。

 

では、どうすれば不動産を手放すことが出来るのか。

 

1つには対象となる不動産の隣人に売却もしくは譲渡することです。
隣人からすると、隣の家の土地が手に入れば自身の自宅の土地が広くなるという大きなメリットを享受することができます。

 

ただそれも隣人の都合次第であり、不要だと言われればどうしようもありません。

 

もう1つには国や自治体に寄付するという手段を取ることが出来る場合があります。
費用もほとんど発生しないため寄付が成立すれば手放す手段としては非常に理想的です。

 

ただ、自治体も不要な不動産の寄付を際限なく引き受けるわけにもいきません。
自治体にとって固定資産税は重要な税収であり、自治体が土地の寄付を引き受けるとその分税収が減ってしまうのです。
つまり、その不動産の使用の目的があれば寄付を受け付けますし、そうでなくては受け付けてくれません。

 

したがって、国や自治体への寄付という手段で不動産を手放そうと考えるならば、まずは自治体の担当窓口で不動産の寄付について相談しましょう。
その後、担当者による不動産の現地調査が行われ、審査が通れば担当者の指定する書類に必要事項を記載し提出します。

 

これが自治体へ寄付するための流れです。
これで自治体への不動産の寄付にかかる手続きは概ね終了、あとは担当者の指示に従いましょう。

4. 不動産の管理責任を完全に免れる方法

前述した不動産の売却や譲渡、寄付といった手段は、相続を承認し相続人の所有とした場合に限られるため、相続放棄の手続きをした場合はこれらの手段を使うことはできません。
つまり相続放棄の手続きをしても、基本的に不動産を放棄することはできないのです。

 

では、相続放棄した後の空き家の管理義務をどのようにして免れることが出来るのか。
以下、その方法について解説いたします。

 

空き家の管理義務を免れるためには、家庭裁判所で相続財産管理人を選任する必要があります。

 

相続財産管理人とは、被相続人の相続人が明らかでない場合に、代わりに相続財産を管理・処分する人のことです。

 

なお、「相続人が明らかでない」とは戸籍上相続人が存在しないように見える状態を指し、相続人の死亡を意味するのではありません。

 

相続財産管理人は家庭裁判所により選任されます。
一般的にはその地域を拠点とする弁護士事務所や司法書士事務所の弁護士、司法書士が選ばれます。

 

ただし、ここで大きな問題があります。それは相続財産管理人に業務を行ってもらうには費用が発生するということです。
つまり相続財産管理人への報酬です

 

相続財産が預貯金といったものの場合は問題ありませんが、建物や土地のような不動産の場合は管理が重要になり、そのための費用はどうしても発生します。

 

つまり、相続放棄した不動産の管理義務を免れるために家庭裁判所に申し立てて相続財産管理人を選任したにも関わらず、結局管理のための費用が発生してしまうのです。

 

相続放棄した上で相続人自ら管理責任を負うか、報酬を負担して相続財産管理人に管理と処分を依頼するか、結局はそのどちらかを選択しなくてはならないのです。

5. 相続放棄後の管理義務を巡る典型的なトラブル事例

相続財産である不動産を相続放棄したのだから自分とは一切関係ない、と考える方は多くいます。
しかし、前述したように相続放棄しても管理責任は相続人にあり、空き家を放置することによるトラブル事例も存在します。
以下にその事例をご紹介いたします。

 

事例1
亡き父親から庭付きの木造住宅を相続したが、都市部に家を持つ私にとってはまさに無用の長物。
父親には悪いが相続放棄しかなかった。
家庭裁判所に相続放棄を申し立てて手続きを済ませ、数週間後無事に受理された。
ホッと胸をなでおろし、とりあえず余計なものを背負い込まずに済んだことを喜んだ。
それから数ヶ月後、役所から一本の電話が入った。
話を聞くと、相続放棄した木造住宅の周辺住民から多くの苦情が寄せられているとのこと。
木造住宅にホームレスが住み着いて夜な夜などんちゃん騒ぎをしているのだという。
自分はその住宅について相続放棄しており、自分に責任はないということを話すと、相続放棄をしても管理責任は相続人に残る、ということらしい。
翌日、知り合いの弁護士に聞いてもやはり同じ答えが返ってきた。しかも早急になんらかの対策を打たないと、大変なことになると言われてしまった・・・

 

事例2
相続放棄の手続きを済ませ、相続財産である一戸建て住宅を半年ほど放置したある日、私のスマホに警察から着信があった。
なんと相続放棄した一戸建て住宅から火災が発生し、周囲の住宅にも延焼したとの連絡であった。
慌てて現地に向かうと、放置した住宅は全焼、東側と西側の住宅もそれぞれ半焼した状態であった。
幸いにも怪我人はいなかったが、警察によると相続放棄したとはいえ、管理責任は相続人である私にあるらしい。
後日事情を説明するために警察署に出頭することになった。

 

事例1では、空き家を放置してしまったためにホームレスに入られてしまい、近隣住民に迷惑をかけてしまった事例です。
家は誰かが管理しなければ必ず朽ち果ててしまうもの。
それによって近隣住民に迷惑をかけることは許されません。

 

事例2は、実際に火災という最悪の事態を引き起こしてしまった典型例です。
この事例は管理者としての重過失が問われ、延焼した周囲の住宅の所有者から損害賠償請求されるリスクが発生するでしょう。

6. 相続放棄後の管理義務に関する問題の相談先

「父親が残してくれた不動産ではあるが、使い道もないし身軽でいたいので相続放棄の手続きをしたのに管理責任が残るなど納得ができない。どうやったら完全にその不動産と縁が切れるのか。」

 

相続放棄を選択する相続人は概ねこのように思っています。
しかし、相続財産である不動産と完全に縁を切りたいのであれば、実は相続放棄すること自体が間違いである場合があります。

 

前述したように、相続放棄することによって不動産にかかる固定資産税の支払い義務は免れますが、不動産の管理責任は残ります。
管理責任を免れるには、家庭裁判所に申し立てて相続財産管理人を選任するしかありませんが、それにはどうしても高額な費用が発生するのです。

 

相続財産である不動産と完全に縁を切るならば、敢えて不動産を相続して自身の所有とします。
その上で売却や寄付の可能性を調べる方がより確実に縁を切ることができる可能性があるのです。

 

相続が始まった直後であるならば、まずは相続財産である不動産周辺の地域に詳しい不動産業者に相談しましょう。
売却できる可能性や売却できる場合は、換価分割についても説明してくれるはずです。

 

もし売却できる可能性が低いならば、その地域の自治体に相談し寄付できるかどうかについて相談しましょう。

 

相続放棄という選択肢を選ぶのはそれからでも決して遅くはありません。

 

相続放棄した後では、完全に縁を切ることは極めて困難と言わざるを得ませんが、相続を専門とする弁護士に相談すれば良いでしょう。
ベストではないがベターな手段について説明してくれるはずです。

7. まとめ

家や土地といった不動産を所有する者は、大きな責任を持つことになります。
一般に「家は人生最大の買い物」と言われるほど大きな支払いをして手に入れるものですが、そこには大きな責任ものしかかってくるのです。

 

責任とは日本の国土を汚さない責任、周りの景観を汚さない責任、そして近隣住民に迷惑をかけない責任です。

 

父親が残した相続財産である不動産を手放したい。
もちろん相続人にも様々な事情がありその結論に至ったことはよくわかります。

 

しかし、不動産を手放すならば、しっかりと次の所有者に承継することも責任の1つであるはずです。

 

不動産の相続放棄をすればもう自分とは一切関係がない、と勘違いしてしまいがちですが、その後の管理責任はどうなるのかということに想いを馳せないのは、責任のがれと言わざるを得ません。
たとえ相続放棄をしたとしても結局誰かが管理をしなくてはなりません。

 

我が国の民法では、それを相続人と定めただけのことなのです。

 

では改めて、責任を持って相続財産である不動産と縁を切る方法をまとめます。

 

1つには相続放棄をすること。管理責任は残りますが、不動産にかかる納税義務は免れます。

 

2つには敢えて相続を承認して不動産を自分の所有とし、売却や譲渡、寄付の可能性を探ること。完全に縁を切ることができ、うまくいけば売却益を得ることもできます。

 

もちろん相続人が1人で結論を出してはいけません。相続を専門とする弁護士や不動産業者、自治体の担当者に相談した上で決断しましょう。

 

 

この記事を書いた人
まつだ りょうすけ
松田了介

司法書士(大阪司法書士会 第4902号、簡裁訴訟代理関係業務認定第1612053号)
司法書士法人ABC社員
行政書士有資格
大阪府堺市出身
桃山学院高等学校・同志社大学法学部卒業
世界最大手の国際物流サービス会社であるフェデックスに24年間勤務。グローバルセールスとして物流価値を創造するソリューションを提案、企業のグローバルビジネスをサポート。
以前より中小企業の事業承継や相続の仕事に携わりたいと考えており司法書士になることを決意。
平成28年に司法書士試験に合格し、フェデックス退職後、司法書士法人ABCへ入社。
日々寄せられる事業承継や相続の相談について丁寧に対応、現状を把握し、最適な解決方法を提案。
お客様にご納得いただける手続きを提供すべく、知識の研鑽に努めている。

 

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