相続放棄

絶縁状態の親族の相続放棄・手続きをしない場合のリスクとは

どんな状況においても、決して偽ることのない血縁関係。
特に親兄弟は他のどんな人よりも近い間柄であり、その言葉通り良好な関係を築いている家族も多いことでしょう。

とはいえ、すべての家族に当てはまるとは限りません。
最初は良好な関係を築いていた家族もたった1人の自分勝手な行動により家族関係が崩壊する事例もありますし、最初から関係性に隙間風が吹き荒ぶような間柄の家族もあります。

問題の解決が極めて難しいケースの親子間の対立も決して珍しいことではありません。

そんな家族の行くつく先の多くは別居です。
離れて住めば顔を合わせることもなく、ストレスが溜まることもありません。

別居後、その家族はどうなってゆくのか。
何かしらの出来事がきかっけとなって本当の家族間の絆に目覚めた・・・などとドラマのような展開があれば別ですが、そうでなければ互いに長期間顔をあわせることもなく、中にはそのまま一生を終える家族もいるはずです。

ここで1つの問題が生じます。
絶縁後、数十年も互いに顔を合わせていない家族の誰かが死亡した場合の相続手続きはどうなるのか、ということです。
 
たとえ死亡した家族が莫大な遺産を持っていようとも、心理心情的には「あの人の遺産相続などしたくない」と考える相続人もいるでしょう。
その場合相続放棄という制度の利用が可能ですが、その手続きはどうしたらいいのか。
 
事実上は赤の他人と同様の家族。
しかし、法的には親子関係が存在し相続問題から背を向けることは出来ない。
 
今回はそのような家族の相続対策について解説いたします。
 

【目次】
1. 絶縁状を送っていても相続放棄は必要か
2. 絶縁状態の親族の生前に相続放棄することは可能か
3. 相続放棄の起算日
4. 絶縁状態の親族の死亡を知る方法
5. 絶縁状態の親族の相続放棄の手順と注意点
6. 相続放棄の手続きをしない場合のリスク
7. まとめ

 

1. 絶縁状を送っていても相続放棄は必要か

顔も見たくない、完全に縁を断ち切りたいとすら思うほどこじらした関係性の家族、親から子供へ「お前など勘当だ」と言い放たれる場面を想像するのではないでしょうか。
実際に親と子の縁を切る、つまり勘当する手段として、「絶縁状」という書類が作成される場合があります。この絶縁状を持ってお前と俺は親でも子でもなくなったということであり、送る側にとってそれは、極めて重い決意であることに間違いはないでしょう。
 
しかし、この「絶縁状」に法的効力はなく、法的に血縁関係を断ち切る方法は存在しないのです。
 
例えば、一方的に「絶縁状」を送りつけてきた父親が死亡し、その父親に莫大な借金があることことが判明したとします。
この時、子供は「絶縁状」を楯に取り、債権者に対して、父親と自分はこの「絶縁状」により親子が切られたのだから自分に借金返済の義務はない、という主張をすることはできません。
 
「絶縁状」はあくまでも意思表示の手段であり、法的には血縁関係は保持されることになります。
 
つまり上記の場合、父親の死亡と借金の存在、そして自分が法定相続人となった事実が判明し、父親が残した借金の返済義務を免れるためには、相続人である子供は家庭裁判所に相続放棄の申立てをする必要があるのです。

2. 絶縁状態の親族の生前に相続放棄することは可能か

いくら実質上絶縁状態であっても、絶縁状が存在していたとしても家族と血縁関係が切れることはありません。
それならば、自身が被相続人の借金の被害を被らないように、被相続人が生きているうちに相続放棄の申し立てをしておけばいい、と相続人は考えるかもしれません。
果たして、被相続人が存命のうちの相続放棄は可能でしょうか。
 
結論から言うと、被相続人が存命である場合、相続人は相続放棄の申し立てをすることはできません。
これは相続人と被相続人が絶縁状態であるかどうかは関係なく、です。
なぜなら家庭裁判所は、被相続人が存命のうちの相続放棄を受け付けないためです。
 
相続人が被相続人の借金返済の義務を負わないための対処法として、被相続人と相続人の関係性が良好であれば、被相続人は自身の債務整理処理をしておくことで債務を削減し、相続人の負担を軽くしておくことはできます。
 
では、両者が絶縁状態であるならばどうか。
前述したように、絶縁状に法的効力はなく、絶縁状態が相続手続きにおいて何かしらの効果をもたらすことはありません。
繰り返しますが、絶縁状態の親や親族が存命であった場合も、相続人は相続放棄することはできないということになります。
 
ただし例外的に、被相続人が存命のうちに相続人から相続権を剥奪することが可能な場合があります。
それを「廃除」と言います。

 
廃除とは、相続人から虐待や侮辱行為を受けた被相続人が家庭裁判所に申立を行うことで相続人から相続権を剥奪することです。
廃除は被相続人の意思と申立により相続人から相続権が剥奪されます。
なお、相続廃除は遺言によって行うことも可能です。
 
ただ、廃除を受けた相続人に子供がいた場合、その子どもが代襲相続人となって相続権を取得することになります。

3. 相続放棄の起算日

絶縁状態の親や親族が存命のうちの相続放棄はできない、ならば死亡を確認してから相続放棄をすれば良いわけです。
ただ、ここで1つ問題が生じます。
 
絶縁状態というほど関係性が悪化している家族は、多くの場合遠方に住んでいます。
そのため、互いに近況も把握できず、生死すらわからないということが往々にしてあり得るのです。
 
民法では、相続放棄の申立ての期限は相続の開始から3ヶ月と定められています。
相続人が相続放棄申立ての意思を固めているのであれば、被相続人の死亡後、速やかに家庭裁判所に申立てすれば問題ありません。
 
ところが、前述したように絶縁状態にある家族が互いの状況を把握することは容易でなく、死亡すら知らされないことも多くあります。
何も知らされないまま被相続人が死亡し、何も知らされないまま相続人となり、そのことを知った時にはすでに被相続人の死亡から数年が経過していたということもあり得るのです。
 
そうなると相続人は相続放棄の申立てが認められず、被相続人の財産相続を単純承認したとみなされることになってしまいます。
 
では、どうすれば良いのか。
 
相続放棄の申立ての期限は、「相続の開始を知ってから3ヶ月」と定められています。
通常であれば、被相続人の死亡時が相続の開始と考えて間違いありません。
ただ、死亡が知らされない状態で相続の開始とは言えないと解釈もできます。
 
絶縁状態で疎遠となってしまった被相続人の死亡を相続人が知り得ない状況であった場合、相続人が被相続人の死亡をなんらかの形で知り得た時点を相続放棄の起算日として認められる可能性があります。
 
つまり、その時点から相続放棄の申立てを行えば受理される可能性があるということになるのです。

4. 絶縁状態の親族の死亡を知る方法

相続人が絶縁状態の家族の死亡をいち早く確認し、相続放棄の申立てを行なって受理されればなんら問題ありません。
被相続人である親や親族が抱えていた借金の返済義務を免れることもできます。
 
では、どのようにして絶縁状態の家族の死亡を知れば良いのか。
 
絶縁状態である以上電話やメールといった方法での連絡は困難です。
配偶者や共通の知り合いを通しての確認もできない状態にあるとも考えられます。
住所が判明しているのであれば、手紙を送るという手段もあります。
しかし、仮に送り先の相手が存命であったとしても、絶縁状態にある相手に返信を寄越すとも思えず、結局、死亡は判明しません。
 
最も簡単に死亡を確認する方法は、本籍地の役所に戸籍謄本を請求することです。
そこの記載内容から絶縁状態の親や親族の死亡を確認することができます。
 
自分が相続人となることと絶縁状態にある被相続人の死亡をいち早く知ることができれば、相続放棄の手続きを開始することで被相続人の負債を抱えずに済む可能性が高くなります。
 
仮に上記の方法でも死亡の確認ができず、相続人の元に被相続人の借金の督促状が届くことで死亡が判明する事態になったとしても、その時点から早急に相続放棄の申立てを行えば、相続放棄が受理される可能性があります。
 
まずは、家庭裁判所もしくは司法書士や弁護士のような相続の専門家に相談するか、もしくは費用を支払って一連の手続きを依頼しても良いでしょう。

5. 絶縁状態の親族の相続放棄の手順と注意点

実際に、絶縁状態の両親や親族の死亡により相続事案が発生した場合、どのような流れで相続放棄の申立てを行えばよいのか。
 
前述した通り、絶縁状態にあるがゆえに被相続人の死亡を容易に確認できない、という状況が考えられます。
 
被相続人の借金の督促状が届くことで死亡が判明することもありますが、ここでは本籍地の役所に戸籍を請求し、記載内容を確認することで被相続人の死亡が判明したと仮定しましょう。
 
まずは、現時点で相続放棄が可能かどうかを家庭裁判所もしくは相続問題を取り扱う法律事務所に相談しましょう。
相続放棄の申立てを行なうことのメリット、デメリットなどについても詳しく聞くことができます。
その他、その状況に応じた相続放棄の方法を教えてくれるはずです。
 
相続放棄の申立てが受理される可能性があると分かれば、以下の書類を揃え、家庭裁判所に提出します。
 
【申述人が,被相続人の子の場合】

           

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
  • 被相続人の住民票除票(または戸籍附票)
  • 申述人(相続放棄する方)の戸籍謄本
  • 収入印紙(800円)
  • 切手(80円を5枚程度)

 
上記の書類が足りていなければ、当然書類の不備とみなされます。
また、申立てはどの地域の家庭裁判所でもいいわけではなく、被相続人の最後の住所地に存在する家庭裁判所と決まっています。
 
他にも続放棄申述書 の記載内容の不備の指摘がなされることがあり、その時はできるだけ早急に対応し、記載内容の修正を行わなければならない点もまた要注意です。
 
相続放棄申述書の提出後、裁判所から「相続放棄の照会書」という通知が届きます。
この照会書に対して「回答書」を作成し、裁判所に送付しなければなりません。
回答書に記載する内容は以下の通りです。
 

       

  • 被相続人の死亡を知った日
  • 把握している相続財産の内容
  • 生前の被相続人とのかかわり
  • 相続放棄が自分の真意にもとづくかどうか

 
これらを回答書に記載し、再度裁判所に送付します。
相続放棄が受理されれば、裁判所から「相続放棄の受理通知書」が送付され、これで相続放棄が受理されたことになります。
 
その後、家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」を請求、取得しそれを持って被相続人の債権者に相続放棄したことを連絡すれば、それ以降債権者から相続人に督促状が届くことはなくなるでしょう。
 
なお、相続財産に家や土地のような不動産がある場合も要注意です。
相続放棄が受理されれば、不動産の所有権が失われると同時に、それにかかる固定資産税のような納税義務も無くなりますが、不動産の管理義務は相続人に残ります。
 
このように相続放棄に関する書類作成には法的な知識が求められること、そして注意点も多くあるので、相続の手続きに詳しい弁護士や司法書士に質問や相談するべきでしょう。

6. 相続放棄の手続きをしない場合のリスク

上記の通り、絶縁状態の家族の相続財産を放棄する場合、通常の相続放棄の手続きよりもトラブルが多く、また相続放棄の可能性や被相続人の遺言、相続税などについても十分調査する必要があります。
 
相続放棄の手続きをしない場合、どういったリスクが考えられるでしょうか。
 
これは絶縁状態にある場合に限りませんが、相続人は被相続人の相続財産すべてを単純承認したとみなされることになります。
被相続人が預貯金のようなプラスの財産を保有していれば、それらを相続することができますが、逆に借金のようなマイナスの財産、つまり負債を抱えていた場合、それらを返済する義務を抱えることになってしまいます。
 
負債の額にもよりますが、相続人にとってこれは非常に大きなリスクです。
 
また、絶縁状態にあった親や親族の相続財産を相続しなければならないという心理的負担も大きなリスクとなるでしょう。
 
なんらかの理由で被相続人と絶縁関係にならざるを得なかかった相続人が、有無を言わさず相続という形で関係を持つことになってしまったことに対する心理的負担は計り知れません。

7. まとめ

家族は良好な関係を保つ方が良い。
誰もがそう思うでしょうし、それに異論を唱える者はおそらくいないでしょう。
しかし、日常生活面でも仕事の面でも遊びでもこれほど多様化されると、人それぞれの価値観もまた多様化されます。
 
いくら血を分けた家族だからと言っても価値観は人それぞれ。
そのような中で家族だから良好な関係を保つべき、と考えるのは無理があるのかもしれません。
 
もはや家族間の不仲はあるべきものと考えざるを得ませんし、修復も極めて困難な家族関係もあり得ると考えなくてはなりません。
 
とはいえ、事実上は赤の他人同然の家族であっても法的にはれっきとした家族です。
それを断ち切ることはできません。
そのことが最もはっきり現れる場面の1つが相続案件と言ってもいいでしょう。
 
関わりたくないから、と相続手続きを放置すれば、相続人は単純承認したものとみなされるので、相続放棄の手続きのために家族と関わらざるを得ません。
もちろん家族と話すこと、顔を合わせることが大きな心理的負担になることはよくわかります。
 
しかし、相続放棄の各種手続きを完了させるためには、どうしても家族と関わらざるを得ないのです。
 
家族は良好な関係を保つ方が良い。
それは当たり前です。
しかし、それが叶わないのであれば、そして相続人が相続手続きに関わりたくないと願うならば、正しい方法で確実に相続放棄の申立てを行なうことが極めて重要なのです。
 

 

この記事を書いた人
まつだ りょうすけ
松田了介

司法書士(大阪司法書士会 第4902号、簡裁訴訟代理関係業務認定第1612053号)
司法書士法人ABC社員
行政書士有資格
大阪府堺市出身
桃山学院高等学校・同志社大学法学部卒業
世界最大手の国際物流サービス会社であるフェデックスに24年間勤務。グローバルセールスとして物流価値を創造するソリューションを提案、企業のグローバルビジネスをサポート。
以前より中小企業の事業承継や相続の仕事に携わりたいと考えており司法書士になることを決意。
平成28年に司法書士試験に合格し、フェデックス退職後、司法書士法人ABCへ入社。
日々寄せられる事業承継や相続の相談について丁寧に対応、現状を把握し、最適な解決方法を提案。
お客様にご納得いただける手続きを提供すべく、知識の研鑽に努めている。

 

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