相続放棄

空き家が相続財産に含まれる場合の問題点と解決方法

日本全国に増え続ける空き家。
誰も住むことのない家を相続し、所有することになった際の金銭的負担は、決して軽いものではありません。
特に、土地付き一軒家を相続した際にかかる税金や管理などは、個人で行なうにはあまりにも負担が大きく、相続人の家庭にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
そこで今回はこの相続財産の中に空き家が含まれる場合の問題点とその対処方法や解決方法について解説致します。

 

1.空き家の問題点

 相続財産に遠方にある実家不動産や空き家や空き地が含まれている場合、自宅とは別に税金や管理費が必要となり、費用面だけでなく管理をする手間もかかりますので大変な負担になります。
例えば、以下のような相談事例があります。
 

【空き家の相続事例:叔父名義の不動産】
父親が死亡してから10数年が過ぎたある日、聞いたこともない街の役所から通知が届いた。
中身を確認すると、幼い頃に1度顔を合わせただけの叔父が亡くなり、自分がその代襲相続人となった旨の内容だった。叔父に家族はおらず、また祖父母はすでに他界している。自分自身は一人っ子であるため他に相続人はいない。叔父から相続した財産は古い土地付き一軒家であるが、自分も家を所有しているためそこに移り住む予定はない。
相続放棄も考えたが、もし少しでもプラスの財産になるのであれば相続してもいい。

 
一般的に、土地付き一軒家は非常に大きな資産と思われがちです。家が古いのであれば自分好みにリフォームして移り住んでもいいし、趣味に使ってもいい。
古い家を解体して更地にして不動産として売却してもいいし、ビルを建ててもいい。
比較的大きな土地ならば敷地を分割し、借地にして賃料をとってもいい。
 
土地付き一軒家は使い方次第では大きな資産となり得ますし、売却すれば大きな収入を得ることができます。借地にすることで毎月賃料をとることもできるでしょう。
ただし、それは都心部のような土地の価格が高い地域に限ってのことです。都心部では土地価格は高騰しており、確かに土地付き一軒家は大きな資産となり得ます。
しかし、地方の土地価格は人口の減少、少子高齢化、経済不況など様々な要因で下落し続けています。
その結果、買い手のつかない空き家が全国各地に増え続けているのです。
 
では、空き家はどのように定義されるのか。
法律上の定義は、1年以上電気、ガス、水道の使用履歴がなく、人が住んでいない、使われていない住宅となっています。
また、そのまま放置すれば倒壊の恐れがあるもの、衛生上有害となるもの、景観を著しく損なうものは特定空き家と定義されます。
 上記相談事例では、相談者は独り身だった叔父の土地付き一軒家の相続を検討しています。
役所からの通知で自分が相続人になったことと叔父の死亡を知ったため、現段階で相続放棄できるか否かは法の専門家もしくは裁判所で確認する必要があります。
相続か相続放棄かはそれが判明してからになりますが、相談者は少しでもプラスの財産になるなら相続してもいいと相談者は考えているようです。
果たしてプラスの財産になり得るのか。
 
まずは、空き家を相続した場合に想定される問題点についてお話いたします。
  
空き家を相続する場合の問題点
空き家を相続する場合の問題点

(1)空き家の老朽化

空き家となっている家の多くは築年数が経過しているものが多く、相続した時点ですでに老朽化が始まっています。もちろん人が快適に暮らせるようにリフォームする場合もありますが、ほとんどはそのまま放置されます。放置された空き家はさらに老朽化が進み、やがて屋台骨や基礎部分をも腐らせてしまいます。

(2)犯罪に利用される

老朽化が進んだ空き家は、各所が大きく痛み燃えやすい状態になっています。
そこに放火されてしまうと火の回りは極めて早く全焼は免れません。この時近隣にも迷惑をかけてしまうことになります。
また、空き家は犯罪集団の溜まり場に利用される、振込詐欺の拠点になるといった事例もあるようです。
 

(3)地震による倒壊の恐れ

築年数の経過した空き家は、老朽化はもとより、そもそも現在の建築基準を満たしていない可能性があります。
中でも耐震構造の基準は極めて重要で、基準を満たしていない空き家は倒壊しやすい状態にあります。
空き家の倒壊は近隣へも影響を及ぼすことになり、空き家の相続人がその責任を負わされることになりかねません。
 

(4)野生動物や害虫の住処に

 
地域次第では、空き家は野生動物や害虫の格好の住処となってしまいます。
当然隣近所にも迷惑をかけることになり、最悪の場合訴訟に発展することも考えられます。
 

家は人が住み適切に管理してこそ生きるもの。人が住まない空き家を管理することは並大抵のことではありません。空き家の相続する場合、(1)から(4)の問題をしっかりと認識しておく必要があるでしょう。
もし、相続人が空き家を相続することで降りかかる(1)から(4)の問題の対処ができないと判断するならば、解決方法は2つ考えられます。
1つは相続した土地付き一軒家をそのまま売却すること、もう1つは相続放棄することです。
 
相続人には、相続しないことを選択する権利も与えられているのです。
 
 

2.空き家を相続する可能性がある場合に出来る対策と注意点

相続人が空き家を相続するという選択をする理由の1つは、土地付き一軒家という資産価値に期待するためと考えられます。
土地付き一軒家の資産価値は、土地の場所や築年数、周辺の状況などといった様々な条件を鑑みて割り出されるものなので一概には言えません。
前述したように、本来ならば土地付き一軒家は様々な使い方で利益を生み出すことができる大きな資産ですが、近年日本全国に空き家が増え続けている状況から、その資産価値は低いと考えざるを得ません。
 
近年の空き家の資産価値下落の原因はそれだけではありません。
空き家の供給過多に加えて、土地や家屋の売買を生業とする不動産業界の事情もその1つと考えられます。
不動産業界は、不動産の売買成立による仲介報酬で利益を出す完全成功報酬型のスタイルが基本です。つまり、売買成立して初めて利益を出すことができるのです。
 
 不動産業者が得る仲介報酬は、不動産取引額の3%に6万円がプラスされた金額になるので、資産価値の高い不動産取引の方が大きな利益を獲得することができます。
都心部の不動産価値は高騰しており、買い手も多いので利益を得ることは容易です。
ところが、地方の空き家は有り余っている地域が多いため買い手がつきづらい状況です。
売買が成立しないと不動産業者は利益を出すことができないのです。地方の不動産価値、特に老朽化した空き家の資産価値は、そういった事情からますます下落することになるのです。

では、空き家を相続する可能性がある場合、どのように対策すれば良いのか。
相続人自身が空き家をリフォームして居住するかもしくは趣味で使うセカンドハウスとして活用するならば別ですが、そうでないならば、空き家を処理する手段を考える必要があります。
処理の方法として真っ先に検討すべき手段は、相続した土地付き一軒家をそのまま売却することです。
土地付き一軒家に関する全ての権利とともに管理にかかる費用も責任も全て譲渡することができ、たとえ安価であったとしても売却益を得ることもできる。まさに理想的な手段です。
 
しかし、それが困難であることは前述したとおり。供給過多の地方の空き家は買い手がつかず、売却は困難です。
また不動産業者に相談したとしても、業者にも敬遠されかねません。そうなった場合は、結局相続人が管理するしかありません。
前述したように、空き家の管理は時間も手間も費用もかかり、また相続税や固定資産税等の税金も課されます。
つまり、売却以外の手段を検討しなくてはならないということになり、そのためにはできるだけ早急に優秀な不動産業者を見つけて相談した方が良いでしょう。
 
上記相談事例の相談者は、少しでもプラスの財産になるならば相続してもいいと考えています。
相続放棄の期限は相続開始から3ヶ月間ありますし、3ヶ月以上の期間が認められる特例が適用される場合もあります。相談者は相続するつもりであってもまずは不動産業者に相談し、その上で相続するか相続放棄するかを決めた方が良いでしょう。
  
空き家を売却できるか否か
空き家を売却できるか否か

3.相続が発生し、相続財産に空き家が含まれる場合

都心部のような土地価格が高騰しているような地域は別ですが、今のご時世に土地付き一軒家の空き家の売却は極めて難しいと考えざるを得ません。
かといって、相続後そのまま放置するわけにもいかず、また空き家にかかる税金も支払わなくてはなりません。

当然、いつまでも使い道のない空き家にかかる税金を納付し続けるわけにもいきませんし、管理し続けるわけにもいきません。
相続に関する選択肢の1つに相続放棄があります。
被相続人の財産すべての相続を放棄することで、相続人は空き家を所有せずに済みます。ところが、相続放棄の手続きをしても、空き家の管理責任は残ってしまいます。
空き家の管理責任を放棄するためには国に引き取ってもらわなければなりませんが、それまでに被相続人の残した相続財産全てを清算しなくてはなりません。
そのために相続人が不在となった相続財産を法人化し、相続財産管理人を選任して相続財産清算および管理を依頼します。
もちろん相続財産管理人には報酬を支払う必要があり、相続財産を国が引き取るまで払い続けなくてはなりません。
相続人個人にはあまりに大きな負担です。
となると、相続放棄して管理義務だけを負い続ける方が良いということになります。
 
では、相続した場合はどうしたらいいのか。
 
その時はできるだけ早急に空き家を処分する手段を考えなくてはなりません。そのためにはまずは相続する土地付き一軒家の市場価格を調べる必要があります。
相続した空き家の地域にある不動産業者に質問すればすぐに大まかな査定額を回答してくれるはずです。

査定額が1億円以下であれば、最大3000万円の特別控除を受けることができる制度を利用することができる可能性があります。
空き家を解体、更地にして建物滅失登記すれば、他に活用できる土地にすることができます。
更地にしておけば管理は容易ですし、ビルやマンション用地として売り出すこともできます。また、借地として貸し出しても良いでしょう。
 
なお、特別控除を受けるには物件的要件の2事項と適用要件の7事項を満たす必要があり、それらを簡単にまとめると以下のようになります。
 

相続した戸建てが、昭和56年5月31日以前に建てられたものであり、相続人が相続発生から3年以内に売却金1億円以下で、近しい親族関係以外の第三者に対して建物を解体して更地にした場合。
また、被相続人が1人で住んでいて、相続によって空き家になったこと。

 
これらの要件を満たしていれば、相続人は特別控除を受けることができる可能性があります。
上記相談者の状況を見てみると、相談者は叔父が1人で住んでいた戸建てを相続しています。築年数は不明ですが、昭和56年5月31日以前に建てられたものであるならば要件を満たすことになります。
また、売却金1億円を超えるような物件はなかなかあるものではないので、問題はないでしょう。
よって、相談者は特別控除を受けることができる可能性があり、早急に不動産業者や司法書士などの専門家に相談した方が良いでしょう。
 
このように、図らずも相続してしまった空き家であっても専門家に相談し、より適切に手続きを行なうことで処分できる可能性があります。

4.空き家を相続した場合のメリットとデメリット

さて、ここまで空き家の相続についてお話ししてきましたが、残念ながらデメリットが圧倒的に大きな割合を占めています。
しかし、考え方次第ではデメリットしかないわけではありません。
そこで、改めて空き家を相続した場合のメリットとデメリットについてお話いたします。

 まずはデメリットです。
昨今の社会情勢に影響を受けて地方の空き家は供給過多の状態であり、売却は困難です。つまり、相続人は空き家を所有せざるを得ませんが、所有することによる費用が大きなデメリットとなります。
空き家を相続する場合、空き家に相続税、固定資産税等が課せられます。
相続税については国の制度により控除の対象となる可能性がありますが、そのための書類の作成やその手続きを個人で行なうのは困難です。被相続人から相続人へ名義変更する必要もあるので、相続を専門とする税理士や司法書士に依頼しなくてはなりません。もちろん費用が発生します。
 
また、前述したとおり空き家の管理も大きなデメリットです。
空き家の近隣に迷惑をかけるわけにもいかず、相続後空き家を放置することはできません。
人が住まない家、建物は想像を絶するスピードで老朽化していきます。相続後の状態を維持するためにも相続人が管理する必要があるのです。

 では、空き家を相続することのメリットは何か。
確かにデメリットばかりが目立つ空き家ですが、同時に被相続人の他の財産、例えば預貯金や株券といったプラスの財産も相続することができることになります。
相続手続きには被相続人の出生から死亡までの戸籍と相続人の現在の戸籍等を取得し法務局に提出する必要がありますが、各地域の役所に請求すればすぐに入手可能です。
また、いくら安価で買い手がつかないとはいえ土地付き一軒家は資産です。
空き家の老朽化の程度にもよりますが、相続人が自由にリフォームし趣味に使ったり、セカンドハウスとして利用したり、起業して空き家を事務所にすることもできます。
趣味や事務所のために改めて土地や家を取得することを考えれば、空き家の相続は大きなメリットです。
 
以上が空き家を相続した場合のデメリットおよびメリットです。
相続人にとって何が最も適切かについて家族間でしっかりと協議し結論を出すことが非常に大事です。
相続放棄の期限までに専門家へ相談してどのように相続手続きを進めていくかをよく話し合い、相続手続きを進めると良いでしょう。

5.まとめ

 土地付き一軒家という資産が突然転がり込んできた時、多くの人は冷静な判断ができなくなります。あたかも大金を手に入れたかのような錯覚を感じてしまうためです。
確かに一昔前だと、土地付き一軒家は大きな資産であり、それなりの価値を有していました。
しかし、今の社会情勢化で地方における土地の価格は大きく下落し、戸建ては供給過多、使用されない空き家は増え続けています。
そのような今の社会情勢を注視し、親から受け継いだ実家をどう扱うかを冷静に判断する必要があります。
もちろん幼少期から慣れ親しんだ思い出の詰まった家である場合もあるし、親族から引き取った家である場合もある。
また、親の残した遺言書に家を守るよう厳命するよう記載されている場合もあるでしょう。
愛着を感じる我が家を処分するのは断腸の想いであることもよくわかります。
 
しかし、家を相続したものには大きな責任が課せられます。家の管理や納税の義務、そして何より優先すべき自分や家族の生活を守る大きな責任があるのです。
それらを承知で空き家を相続する覚悟があるならば別ですが、そこには相続放棄という選択をする余地も必要です。
 
相続人の生活を圧迫しかねない土地付き一軒家。
資産とはいえプラスの財産にはなり得ない空き家です。
相続人にとって何が最も大事なのか、相続した空き家は相続人にとってどんな意味を持つのか、本当に必要なのか。まずは司法書士や不動産業者などの専門家に相談してみてください。
相続人にとって、そして上記相談事例の相談者にとって、最適な対処方法がきっと見つかるはずです。
 

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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