相続

不動産の共有持分は相続放棄するべき?トラブル回避策を解説

世の中にある数々の商品の中でも非常に高額な不動産。
一軒家、マンション、事務所、土地などがそれに当たりますが、他の商品と比較しても非常に特殊なので、売買や使用では厳密な法律の遵守や納税の義務が課せられることになります。
 
また、不動産は使用だけでなく投機の対象としてもよく知られる商品の1つです。
不動産事業は大きな収益が見込める事業の1つであり、売買や賃貸、投資といった様々な事業形態に分類され、それぞれ多くの専門業者が存在します。
 
そのような特色を持つ不動産という商品であるがゆえに、相続財産としての不動産は大きな財産となり得ます。
同時に、納税や管理義務も課せられ、時には相続人同士のトラブルを生み出すことにもなります。
 
相続財産としての不動産をめぐるトラブルは多種に及びますが、中でも1つの不動産を複数人が共同で所有している状況は非常に複雑で、トラブルの原因になりやすいと言われています。
 
今回は、複数人が持分を共有する不動産の相続について、共有持分相続時のトラブル回避等について解説いたします。
 

1. 不動産の共有持分を相続するリスク

不動産の共有持分を相続するリスクは、共有者同士の意見の食い違いなどによるトラブルが考えられます。
以下そのリスクについてお話いたします。
 
本来、1つの物には1人の所有者しか存在しません。
それを民法では「一物一権主義」と規定しています。
不動産はその特殊性ゆえに1つの物件を複数人が共有持分という形で共有することが認められています。
しかし、それがトラブルになりやすいのです。
 
相続財産である不動産の共有者が赤の他人ということは非常に稀であり、法定相続人や血縁関係者である場合が大半を占めます。
とはいえ、不動産という相続財産の使用方法や処分等の考え方は様々であり、意見が一致せず同意が得られないことも十分考えられます。
 
ただでさえ建物や土地といった不動産の共有関係は複雑であるため、共有者同士のトラブルは避けて通れないと認識しておくべきかもしれません。

2. 不動産の共有持分を巡る典型的なトラブル事例

では、具体的にどういったトラブルが発生するか。以下に事例Aを紹介いたします。
 
事例A
数年前に90歳で他界した親父の残した遺産はわずかな預貯金と自宅。自宅はもともと母と2分の1ずつの共有の名義であったが、母はその2年前に他界しており、それを機会に親父は母の持分を相続し、自分に名義変更して親父の単独の財産となっていた。
子供は私と兄の2人。親父は遺言書を残さなかったため、法定相続人は兄と私の2人である。兄も私も相続放棄せずに相続を承認することになり、兄との遺産分割協議を実施。その結果遺産分割することとなり、私は親父の預貯金の2分の1を取得、自宅はそれぞれ2分の1ずつの共有持分となった。
最初は私もそれで納得していた。しかし、兄も私もそれぞれ家庭を持ち、家も所有していたため、相続した自宅は誰も住まないし、住所も遠方であるため使い道もない。親父が残してくれた自宅を処分するのは忍びないという理由で相続を承認したものの活用することもなく、管理義務と固定資産税がかかるだけの自宅ははっきり言って不要である。
ある日、私はそのことを兄に話して自宅を売却したいという意思表示を示したが、兄は所有しておきたいという。だったら自宅は兄の単独の財産にしたらいいと提案しても、今の状態がベストだと言ってラチがあかない。どうしたものか・・・

 
本来、不動産は単独所有が望ましいことは言うまでもありません。
しかし、事例Aの相談者は、相続を承認し、遺産分割協議で自宅の2分の1を共有持分の所有を決めました。
その後、自身の持分が煩わしくなり処分を検討したが、共有者である兄がそれを認めない。
 
不動産を共有の財産とした場合の典型的なトラブルです。
 
相談者は相続した自宅の処分を望んでいます。
この場合の考えられる解決手段は、兄を根気強く説得して自宅の処分を認めさせること、あるいは自宅を兄の単独の財産とすることを認めさせること等が考えられます。
 
こう言った種のトラブルは数年間もの長期にわたり話し合われることもありますが、あまり期間をかけるべきではありません。
話し合いの結論が出ず現状のまま時間だけが過ぎて、仮に兄が死亡してしまうと、兄の共有持分がさらに複数の相続人に分割され、さらに話し合いが複雑なものとなってしまう可能性があるためです。

3. 不動産の共有持分のみの相続放棄は可能?

被相続人が残した遺産である不動産を複数の相続人が共有持分として相続する場合、相続人は相続放棄という選択を取ることが出来ます。
 
では相続放棄した場合、その共有持分はどうなるのか。
基本的には相続放棄した人の法定相続人に権利が移転します。
仮にその法定相続人も相続放棄し、相続人がいなくなったらどうなるのか。
 
その時は、他の共有者へと権利が帰属することになります。
例えば、以下の事例Bを見てみましょう。
 
事例B
父親と母親、長男長女の4人家族。一家は持ち家を所有しており、父親と母親の2分の1ずつの共有持分となっている。ところが昨年父親が死亡、父親は遺言書を残しておらず、持ち家の所有権の共有持分は母親が2分の1のまま、父親の共有持分の2分の1は長男と長女がそれぞれ4分の1ずつ相続することになった。ところが、長男は相続放棄したため、母親が父親の共有持分の2分の1、長女が父親の共有持分の2分の1を相続することになった。その結果、母親は持ち家の4分の3、長女が4分の1の共有持分となったのである。

 
相続人が共有持分の相続を放棄すると、相続放棄した者の法定相続人に権利が移転することになりますが、法定相続人がいない場合は、事例Aのように他の共有者に権利が帰属することになります。

4. 相続放棄した場合のメリットとデメリット

前述したように、相続した不動産の共有持分の相続放棄は家庭裁判所に申立てることができます。
それによって不動産の共有名義が解消され、法定相続人同士の相続を巡る争いを回避できる可能性があります。
また、使用する予定も使い道もない、ただ管理義務と納税義務だけが課せられ、簡単に売却もできない不動産を相続放棄することは大きなメリットと言えるでしょう。
 
不動産の共有持分のみの相続放棄ができる制度は存在しません。
不動産の共有持分の相続放棄をする場合、最初から相続人でなかったとみなされることになるため、その他の預貯金や家財道具のような財産も相続することは出来ません。
ただ、その中には負債のようなマイナスの財産も含まれるため、必ずしもそれがデメリットとなるとは限りません。
 
相続人が相続を承認するか、相続放棄するかは、被相続人の相続財産の全容を把握した上で決断を下す必要があります。
預貯金や負債や家財道具はもちろんですが、不動産の評価や価格、自身の共有の割合、相続の手続きが完了するまでの労力、相続順位なども考慮に入れた上で決断したほうが良いでしょう。
 
相続放棄の熟慮期間でそこまでの調査ができないことも考えられますが、相続財産について調査しておきましょう。
この時専門家の力を借りることも非常に有効ですし、調査の一切を一任してもいいでしょう。

5. 相続後に共有名義を解消することは可能?

共有名義の不動産の相続を承認した後、共有名義を解消することは可能です。
共有名義の状況は様々ですが、単純に不動産をはじめとする相続財産全てを相続したくないだけであれば、相続の承認前に相続放棄をすれば容易です。
ただし、相続承認後でも共有名義の解消は可能であり、様々な方法の中から6つの方法を以下に紹介いたします。
 

(1)不動産を全て売却する

対象となる不動産を売却などで処分する方法です。
売却することができれば、売却益を得ることができ、また不動産管理義務も納税義務も逃れることができるので理想的と言えるでしょう。
ただし、共有者全員の了解が必要であり、また買い手を探す必要があるため容易ではありません。

(2)自身の共有持分を売却する

対象不動産の自身の持分を第三者に売却する方法です。
他の共有者の了解なく売却ができますが、買い手を探すのは極めて困難になると思われます。
また、安く買い叩かれることも考えられるので注意が必要です。

(3)自身の持分を移転する

自身の持分を他の共有者に有償で譲渡するという方法です。
他の共有者が了承すれば容易ですが、実際はスムーズに話が進むことはあまりありません。
価格の面で折り合いがつかないケースが多くあります。
その場合は、自身の持分を他の共有者に贈与するという手段もあります。

(4)他の共有持分を買い取る

自身に資金があり、他の共有者が了承すれば容易ですが、やはり価格の面で折り合いがつかないケースが多くあります。

(5)自身の持分を放棄する

とにかく不動産を手放したい、共有名義を解消したいという場合に有効です。
無償で放棄しなければならない、必要書類を揃えて他の共有者全員で法務局に申請しなければならないというデメリットがありますが、比較的容易に手続きが可能です。
ただ、他の共有者からすると、共有者が一人抜けることで固定資産税や相続税の問題が浮上してきますので、その点はしっかりと話し合う必要があるでしょう。
納税通知書がくるまで放置すると共有者の信頼を損ねることになりかねません。

(6)土地を分筆する

これは対象不動産が土地である場合に考えられる方法です。
他の共有者に土地の分割を提案し、同意を得た上で分筆登記を行います。
土地を分けることで単独の所有とすることができます。
単独の所有になれば権利関係もシンプルになるので、理想的と言えるでしょう。
ただし、共有者同士で敷地境界について十分に話し合う必要がありますし、測量等の作業が必要になるので費用が発生します。
 
対象となる不動産の形態が限定される、他の共有者の許可や了承が必要となるなどの制約はあるものの、なんらかの方法で不動産の共有名義を解消することは概ね可能です。
ただし、対象不動産や共有者の共有持分の状況が大きく関わってくるので、まずは専門家に相談することが非常に重要です。

6. 不動産の共有持分の相続に関する相談先

では、相続した不動産の共有持分の問題はどこに相談するのが最も適しているのか。
法律が関わってくることはもちろんですが、他にも不動産問題や税金問題が深く関わってきます。
 
そのため相談先は多岐に及びます。
弁護士、司法書士、行政書士、そして状況次第では不動産売買の専門家にも相談する必要が出てきます。
 
とはいえ、それだけ複数の相談先を持ってしまうとかなりの費用がかかってしまいます。
 
法律の専門家の中でも相続を専門とする弁護士、司法書士、行政書士が存在しますので、そこに相談すれば間違い無いでしょう。
不動産の専門家に相談する必要が出てきた時は、不動産業者を紹介してくれることもあります。
場合によっては相続手続きが全て終了するまでの期間、相続の専門家を選任してもいいかもしれません。

7. まとめ

前述しましたが、本来1つの物には1人の所有者しか存在せず、民法でもそれを「一物一権主義」と規定しています。
不動産はその特殊性ゆえに1つの物件を複数人が共有持分という形で共有することが認められていますが、不動産も「一物一権主義」が理想の形であることは言うまでもありません。
 
不動産の共有持分は、様々な場面で利用されています。
事業で必要なマンションを共同経営者との共有持分としそれをそのまま次世代へ事業を承継させる経営者もいれば、離婚時に夫に財産分与を請求して、土地の共有持分を受け取る人もいます。
 
いくら単独の所有が理想的とは言っても、不動産を他者と共有せざるを得ないことも多いのです。
 
被相続人から相続財産として不動産を相続する場合でも、それを複数の共有財産とするのはトラブルの原因となり得るため、単独の所有とし権利関係をシンプルにすべきです。
しかし、共有にせざるを得ない事情があるのです。
 
本来ならば被相続人が遺言書を作成し、そこに相続財産について明確に記載しておけば、余計なトラブルを避けることができる可能性がありますが、誰もが遺言書を残すとは限りません。そうなるとやはりトラブルを引き起こす可能性が出てきてしまうのです。
 
これまで毎年のように行事ごとに会っていた親類同士が、相続問題をきっかけに疎遠になってしまった、という事例も多く発生しています。
 
不動産の共有持分を相続する場合のリスクを知り、そしてそのリスクを回避したいと考えるならば、まずは相続の専門家に相談することが最も重要です。

 

この記事を書いた人
まつだ りょうすけ
松田了介

司法書士(大阪司法書士会 第4902号、簡裁訴訟代理関係業務認定第1612053号)
司法書士法人ABC社員
行政書士有資格
大阪府堺市出身
桃山学院高等学校・同志社大学法学部卒業
世界最大手の国際物流サービス会社であるフェデックスに24年間勤務。グローバルセールスとして物流価値を創造するソリューションを提案、企業のグローバルビジネスをサポート。
以前より中小企業の事業承継や相続の仕事に携わりたいと考えており司法書士になることを決意。
平成28年に司法書士試験に合格し、フェデックス退職後、司法書士法人ABCへ入社。
日々寄せられる事業承継や相続の相談について丁寧に対応、現状を把握し、最適な解決方法を提案。
お客様にご納得いただける手続きを提供すべく、知識の研鑽に努めている。

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