生前対策

終活で不動産は売却するべき?スムーズな相続に向けた準備と注意点

「残された家族に迷惑をかけないためには、自宅を処分しておいた方がいいのだろうか」
「自宅を相続させる場合はどのような準備をしておけばいいのだろうか」
終活を始めた方の中には、遺産の中の不動産の扱いについて、このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、終活で不動産について考える重要性、不動産の終活方法、終活で不動産を売却するメリット、終活で不動産を売却する際の注意点、不動産を相続させる場合の準備と注意点、不動産相続の相談先などについて説明します。

1. 終活で不動産について考える重要性

日本の家計資産における不動産が占める割合は、諸外国に比べて高い傾向にあります。実際、預貯金や証券などの金融資産はほとんどないけれど、持ち家や先祖代々引き継いできた土地などの不動産資産は持っているというご家庭は少なくないのではないでしょうか。
終活の一環として不動産について考えることがなぜ大切なのか、説明します。

(1)相続人の間でトラブルが起こりやすい

不動産は売却してしまえば、現金という金融資産になります。現金であれば、老後資金として生前に利用することも可能ですし、相続の際も分配しやすいです。
しかし、売却しない場合は、以下の2つの理由からトラブルになりやすいといわれています。

  • 相続税が負担になる
  • 単純分割できない

それぞれの理由について説明します。

①相続税が負担になる

相続の際には相続税が発生します。金融資産の場合はそれ自体で相続税を賄うことができますが、不動産の場合は即時に現金化することができないため、相続人は相続税を自己資金から支払わなければいけない可能性があります。

②単純分割できない

複数の相続人が存在し、遺産を分配しなければならない場合、不動産は単純に分割することができないため、トラブルに発展しやすいです。
被相続人の子ども3人が相続人である場合、等価の不動産が3つあれば公平に分配できますが、そのようなケースは稀です。ほとんどの場合は公平な分割ができないため、相続人同士が揉める可能性があり、相続争いに発展するケースも珍しくはありません。

(2)不動産を相続した人の負担になる

相続人同士が話し合い、全員が納得できる相続が実現できたとしても、不動産を相続した相続人は、住む・貸す・売るという3つの選択肢から選択しなければいけません。しかし、いずれを選択した場合でも費用が掛かるため、相続人の負担になる可能性があります。
また、相続人が相続した不動産を空き家のまま放置した場合、以下のようなリスクが発生します。

  • 不法侵入による被害
  • 管理不足による近隣トラブル
  • 資産価値の下落

相続人の間のトラブルや、空き家として放置された場合のリスクを回避するためにも、終活で不動産について考えることは大切です。

2. 不動産の終活方法<

不動産の終活方法として、主に次の3つの方法があると考えられます。

  • 売却して現金化する
  • 相続に備えて遺言書を作成する
  • 生前贈与する

それぞれの詳細について説明します。

(1)売却して現金化する

不動産は売却してしまえば、現金という金融資産になります。現金であれば、老後資金として生前に利用することでもできますし、相続の際も分配しやすいです。

(2)遺言書を作成する

不動産を相続させたい場合は、遺言書を作成しておくことにより、相続時のトラブルを防ぐことができる可能性があります。ただし、あまりにも偏った内容(長男に全ての遺産を相続させる等)である場合や、金融資産が少ないために相続税が相続人の負担になる可能性がある場合は、対策を練っておく必要があります。

(3)生前贈与する

「不動産も生前贈与すれば節税になるのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、不動産についてはむしろ相続より税負担は高くなる可能性があります。
不動産を生前贈与した場合、不動産取得税と登録免許税が発生しますが、相続の際は原則、不動産取得税については非課税となります。登録免許税についても、贈与(2%)より相続の場合(0.4%)の方が低いのです。また、同居していた家族が住居を相続する際には、課税額を80%減額するという小規模宅地等の特例制度もありますが、これも生前贈与では利用できません。

上記のことから、不動産の生前贈与はおすすめできません。特定の家族に不動産を譲渡したい場合は遺言書を作成するとよいでしょう。また、生前に不動産の管理を任せたいような場合は、所有権はそのまま残し、家族信託を利用して管理権のみ委任することを検討してもよいでしょう。

3. 不動産を終活で売却するメリット

残された家族に迷惑をかけないためにも、終活の一環として不動産を売却しようと考える方もいらっしゃるかもしれません。不動産を売却することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

(1)資金調達ができる

不動産を売却して現金化しておくことで、急な出費があった時のための資金としてプールしておくことができます。また、投資に回して運用益を得ることも可能です。他にも、お墓の購入や老人ホームへの入居資金にするなど、他の終活に役立てることもできます。
お金が必要になった時に不動産を売却しようとすると、不動産価格が下がっている時に売らなければいけなくなる、不動産屋に足元を見られて安く買いたたかれてしまう等のリスクがあります。終活で不動産を売却する場合、特に急ぐ必要がないため、条件をじっくり比較する余裕があり、より有利に売却できる可能性が高いでしょう。

(2)相続のトラブルを防ぐことができる

不動産は単純分割できませんが、現金なら分けることができます。また、相続税の支払いについての心配もありません。そのため、相続の際にトラブルになりにくいでしょう。
また、不動産は生前贈与するメリットが低いですが、現金であれば非課税枠で贈与することも可能です。

4. 終活で不動産を売却する時の注意点

終活の一環として不動産を売却する際は、どのような点に注意が必要なのでしょうか。特に注意すべき点について説明します。

(1)住まいの確保をする必要がある

現在居住している不動産を売却する場合は、当然ですが別に住む場所を確保する必要があります。
この機会に介護付き有料老人ホームなどに移るのなら問題ないですが、賃貸に移ることを考えている場合は注意が必要です。夫婦で住む場合は特に問題はないと思われるかもしれませんが、片方の配偶者が亡くなった後、高齢者の一人暮らしは孤独死リスクなどから大家さんに嫌厭される傾向があるため、住む場所が見つからないという事態になりかねません。

今住んでいる住居に住み続けた状態で売却するリースバックという方法も終活には適しているといわれています。これは、居住している不動産を不動産会社へ売却し、そこから賃貸という形で現在の家に住み続けるというシステムです。
リースバックには、資産の調達と生きている間の住居の確保の両方が実現できるというメリットがある一方で、売却益が通常の売却より60~80%程度低い、家賃が高い等のデメリットもあるので、慎重に検討する必要があります。

(2)不動産価格は流動的

その他に、不動産を処分する際に注意が必要なこととしては、不動産の価格は流動的であるということが挙げられます。
特に今はコロナ禍で、不動産価格は下落傾向にあるといわれています。2~3年程待って景気が回復してからの方が、良い条件で不動産を売却できる可能性は高いです。ただし、予測不可能な事態が起こり、今よりさらに下がる可能性もあります。
将来のことを正確に予測することはできませんが、それだけに不動産の価格は変動が激しく、売却のタイミングは難しいということがいえます。

5. 不動産を相続させる場合の準備と注意点

不動産を売却するのではなく、家族に相続させたいという方もいらっしゃるでしょう。不動産を相続させる場合の準備や注意点について説明します。

(1)遺言書を作成する

不動産を相続させたい場合は、遺言書を作成しておくことをおすすめします。「遺産といっても相続税もかからないような自宅しかないのだから、遺言なんて残さなくても大丈夫だろう」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、相続人が一人しかいない場合を除き、争いが起きないとは限りません。
遺言書を残しても相続人同士の争いを回避できない場合もありますが、相続人の意思を明確に示しておくことはできます。

(2)税金対策を行っておく

不動産を相続させたい場合、相続人に負担をかけないためには、不動産の相続税をあらかじめ試算し、同程度の金融資産を同時に相続できるように手配しておく必要があります。
しかし、金融資産はほとんどない、または不動産を長男に相続させる代わりに金融資産は他の兄弟に残したいというような場合は、どうすればよいのでしょうか。
このような場合は、生命保険を活用することをおすすめします。不動産相続時にかかる相続税相当の保険金を、相続人を受取人としてかけておくという方法です。そうすれば、保険金から相続税を支払うことができるでしょう。

(3)相続人全員と話し合いを持つ

前述した通り、不動産は公平に分割することが難しい資産です。そのため、相続させたいと考えている場合は、生前に相続人全員とよく話し合っておくことをおすすめします。その際は、相続人だけでなく相続人の配偶者も同席させることが望ましいです。話し合いの場で相続人本人が納得しても、自宅に帰って配偶者と話し合ったことによって意見が変わるということは珍しくないからです。

6. 不動産相続に関する相談先

不動産の相続については、一般的には知られていない複雑なルールがたくさんあります。思い込みなどによるトラブルを防ぐためにも、不動産の相続を考えている場合は、あらかじめ相続問題に詳しい専門家に相談しておくことをおすすめします。また、遺言書を作成する場合も、法的な問題点や有効性を確認するためにも、専門家に相談することが望ましいでしょう。

まとめ

今回は、終活で不動産について考える必要性、不動産の終活方法、終活で不動産を売却するメリット、終活で不動産を売却する際の注意点、不動産を相続させる場合の準備と注意点、不動産相続の相談先などについて解説しました。

不動産は相続の際、トラブルにつながりやすい資産です。「うちは家くらいしか資産がないから相続でもめることなんてないだろう」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、家しかないからこそ相続人同士が揉めることもあるのです。
大切な家族が自分の死をきっかけに争うことがないように、終活の一環として不動産資産についてしっかり検討し、必要な対策を講じておくことをおすすめします。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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