生前対策

相続で生前にできること・生前対策の手順とポイントを解説

ご自身が亡くなった後、家族や親族が遺産を巡ってトラブルとなることを望む者などおそらく1人もいないでしょう。「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるように、家族や親族に遺恨を残すことなく綺麗さっぱりとあの世に旅立ちたい。残された家族や親族が手を取り合って仲良く暮らしていくことは、死を前にしたものにとって大きな望みではないでしょうか。
 
また、遺族が幸せに暮らしていけるようにできるだけ多くの財産を残してやりたい、と考える方も多いはずです。
 
そのような思いとは裏腹に、遺族間の遺産を巡るトラブルは年々増えています。もちろん財産を残したまま死亡した者に責任がある、ということではありません。もともと家族間でなんらかのトラブルを抱えていた、という場合もあるでしょう。
 
遺族間のトラブルだけではありません。遺族は葬儀の手配やお墓の準備など煩雑な事務作業に追われることになり、それらに多額の費用が発生する場合があります。
 
また、相続した遺産の申告手続きや納税をしなければならず、遺産にかかる相続税の負担も決して軽くはありません。
 
ただ、そのような家族や親族間の遺産を巡るトラブルを未然に防ぎ、また遺族の葬儀後の様々な負担を軽減することができるのは、被相続人である当人だけです。
 
今回は遺族間の様々なトラブルを防ぎ、葬儀後の煩雑な事務作業、納税の負担を軽減するために相続における生前対策について解説いたします。

 

1. 相続の生前対策としてできること

相続の生前対策とは、自分の死後、遺族間のトラブルを防ぐために、また遺族に余計な負担をかけないように行なうものです。しかし、それは同時に自分のこれまでの人生を振り返る機会でもあります。
 
自分の人生を振り返り過去に想いを馳せる。そしてその想いを残された家族に伝え、財産を託し、家族の幸せを願う。
 
相続の生前対策は、ご自身の人生の集大成ともいうべき崇高な活動といってもいいでしょう。
 
では具体的に、相続の生前対策として何をすれば良いのか。主な対策5つについてお話いたします。

(1) 財産の目録を作成する

相続財産がどれだけあるのか、把握しておくことは極めて重要です。もちろん預貯金だけではありません。ご自身が名義となっている自宅や土地、車、各種コレクション、株などの有価証券、ゴルフ会員権、貴金属類等経済的価値のあるものすべてリストアップし、目録を作成しましょう
 
もし借金や住宅ローンのような負債もあるならば、それも忘れず目録に入れましょう
 
そうすることによって遺産を整理する遺族の負担を軽減することができ、また家族と相談して不要なものがあればご自身で処分して金銭に変える余裕も生まれます。
 
仮に負債があったとしても、事前にわかっていればそれなりの対策を取ることも可能です。資産以上に負債が大きければ、相続放棄という選択を検討することもできます。
 
目録は最低でも1年に1回は更新するようにしましょう。

(2) 相続人を確認する

相続財産の目録を作成したら、法定相続人を確認します。
 
法定相続人が誰になるのか、順位はどうなるのか等についてしっかり検討するために家系図の取得をおすすめします。
 
被相続人が、独自に相続人を決めても問題ありません。例えば、老後の面倒を見てくれた長男に相続財産の6割を相続させる、と決めることもできます。その旨を遺言書に記し捺印して正式な書類としておけば、相続開始後、その遺言内容は執行されることになります。
 
ただし、特定の相続人1人に全財産を相続させたとしても、後々他の相続人が遺留分を請求することがあります。そこから法廷騒動に発展してしまうこともあるので、要注意です。

(3) 財産を分割しやすい状態にする

相続人が複数人存在する場合、遺産分割が問題となります。例えば、相続財産に土地があった場合です。土地を人数分で割って、相続人全員がそれで納得すればいいのですが、どうしても不公平感は発生してしまいます。まして家などは分けることができません。
 
そこで財産を分割しやすい状態にしておけば、つまり売却するなどして現金化しておけば、容易に分けることができます
 
また現金は、相続税の納税資金としても使うことができます。現金での相続は、相続人に取ってメリットになるのです。

(4) 遺言書やエンディングノートを作成する

相続における各種のトラブルを防ぐためには、被相続人の思いを遺言として遺族、相続人に明確に伝えることが非常に重要です
 
遺言書エンディングノートはその手段として最適です。
 
一般的に知られているのは遺言書です。堅苦しい文書のイメージの遺言書ですが、その分遺族や相続人に与える影響は大きく、民法で規定された通りに作成すれば、法的効力を発生させることもできます。
 
そこまで大袈裟なものではなく、自分のこれまでの人生を振り返り、自分の思いをもっと自由に書き記したい、遺産だけでなく自分の思いや希望を遺族に伝えたい、と願うならばエンディングノートが適しています。
 
エンディングノートとは、人生の終末期に迎える死に備えて自分の思いや希望を書き記すノートです。遺言書のように決まった形式のものではなく、自由になんでも書き記すことができます。無地の大学ノートでも、市販のエンディングノートを活用してもいい。パソコンを使ってもいいでしょう。ただ、遺言書のように法的効力はありませんので、そこは要注意です。

2. 相続の生前対策を行うメリット

では、相続の生前対策を行なうことでどういったメリットがあるのか。以下にまとめます。
 

  • 遺族間や相続人同士のトラブルを防ぐ
  • 煩雑な役所での手続きや相続手続き、遺産整理の負担が軽くなる
  • 相続税の負担が軽くなる

 
相続の生前対策を行なうメリットは遺族や相続人に対するものであり、ご自身に対するメリットではありません。しかし、ご自身の死後、ご家族が抱く不安や心配を少しでも和らげることは、きっとご自身にとっても大きなメリットとなるはずです。また前述したように、ご自身のこれまでの人生を振り返る絶好の機会にもなります。

3. 相続の生前対策を始めるタイミング

死はある日突然やってくるものです。年齢を重ねれば重ねるほどその可能性は大きくなりますが、死は年齢に関係なく誰にでも必ず訪れるものです。
 
よって、誰もが死の準備を整えることができるわけではありません。例えば、不慮の事故により突然死を迎えてしまった方は、遺族にメッセージを残すこともできません。
 
つまり、相続の生前対策を始めるタイミングは早いに越したことはありません。思い立った時が適切なタイミング、と言ってもいいでしょう。

4. 家族の争いを回避するためには家族会議が大切

相続の生前対策は様々ありますが、家族会議は最も重要な対策のうちの1つです。家族の争いの原因で最も多い事例は遺産を巡る争いです。現所有者が存命のうちに家族会議を行ない、遺族や相続人の全員が納得する結論を出すことができれば、余計な争いを回避することができます
 
では、家族会議では何を協議すれば良いのか。数ある議題の中でも特に重要な議題3つをご紹介します。

(1) 現状把握と情報共有

被相続人が所有する財産の収支状況を知り、それをしっかりと把握、相続人全員がその情報を共有することが重要です。
 
例えば、被相続人の持つ財産が預貯金や現金のようなプラスの財産ばかりとは限りません。負債を抱えている可能性もあります。事前にその収支と金額を調べ、相続人同士がその扱いについて話し合いをしておけば、遺産相続時の争いを未然に防ぐことができます。

(2) 介護について

家族会議は、被相続人の死後に備えるためのものとは限りません。被相続人が病気により要介護の状態となった場合、家族の対応や介護サービスの利用についても話し合う必要があります。
 
誰が、どこで面倒を見るのか、介護施設に移り住むならばその資金をどうするのか、居住していた自宅はどうするか、などについて家族会議で話し合い決定します。もちろんその決定は、介護される本人の意思や希望も反映されたものでなくてはなりません。

(3) 家族信託・財産管理委任契約

例えば、ご自身が投資用の不動産を所有している場合、信託の制度を利用して家族である配偶者や子どもに不動産管理の権限を渡す契約を交わすことができます。これを家族信託と言います。この時、不動産の所有権移転登記が必要になるなど、煩雑な手続きが必要になりますが、信頼できる家族に管理を信託できるメリットは計り知れません。
 
また、財産を所有する者の判断能力が減退してしまった場合、財産管理委任契約を利用することができます。これは、判断能力が著しく減退した本人の代わりに信頼できる家族や第三者が、財産を管理する権利を引き継ぎ、財産管理や生活の事務を行なうというものです。
 
成年後見人制度と似ていますが、事前に信頼できる契約者を指定することができるという点で大きな違いがあります。

5. 自分の希望を伝えるために遺言書を作成

前述しましたが、ご自身の意思や希望を遺族や相続人に明確に伝えるためには、遺言書が最も適していると言えるでしょう。
 
遺言書は、主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類がよく利用されます。自筆証書遺言は、遺言書の全文と日付を自筆で記し捺印するだけで作るものであり、手軽に作ることができます。公正証書遺言は、公証役場で作成を依頼する遺言書であり、それなりの費用が発生しますが、遺言書を法的効力があるものにすることができます。

6. 相続税の節税対策

相続の生前対策において最も重要な対策のうちの1つとして家族会議についてお話ししましたが、家族会議の議題の中も相続税の節税対策は重要項目の1つです。
 
負担が大きいとされる相続税、遺族や相続人であれば、少しでもその負担を軽くしたいと考えるのは当然です。
 
では、どうすれば相続税の負担を軽くすることができるのか。数ある方法の中から代表的なものをご紹介します。
 

(1) 生前贈与で相続財産を減らす

生前贈与とは、生存しているうちに個人から別の個人へ財産を無償で渡すことを言います。当事者同士が贈与契約を交わすことで成立します。相続税は、相続開始後の相続財産が課税対象となるため、相続財産を減らすことで節税が可能となります。
 
例えば、結婚を控えている子や孫を受贈者として財産を贈与すれば、その意義は節税以上に大きなものとなるでしょう。
 
ただし、注意すべきは贈与税です。財産を無償で贈与しても贈与税がかかってしまいます。そこで、暦年贈与を利用します。贈与税には110万円の基礎控除があるので、毎年110万円ずつ贈与すれば非課税にすることができます。つまり、相続税対策が早ければ早いほど、有利に対策を進めることができます

(2) 生命保険等の非課税枠を利用

被相続人の死亡後に支払われる生命保険金には非課税枠があります。生命保険金が3000万円支払われたとすれば、【3000万円−500万円×法定相続人の数】が非課税枠です。法定相続人が3人いれば1500万円が非課税枠となり、残りの1500万円に相続税が課税されることになります。
 
つまり、生命保険金が少なければ、また法定相続人が多ければ、それだけ税負担が少なくなります。

(3) 墓地や仏具を生前に購入しておく

被相続人の死亡、葬儀後、必ず必要になるのが墓地です。先祖代々のお墓に入るのであれば、高額な費用の必要はありませんが、新たに墓地を購入または契約する場合、それなりの費用な発生します。
 
墓地や墓跡、仏壇仏具には相続税は課税されないため、生前にそれらを購入しておけば、相続財産が減り、結果相続税の負担を軽くすることができます。

(4) 相続時精算課税制度の利用

贈与税の特別控除に1つに相続時精算課税制度があります。これは生前贈与で2500万円までなら贈与税がかからないという制度です。特例であるため計算式は少し複雑で、【(課税価格−特別控除額)×税率】となります。

7. 相続の生前対策に関する相談先

相続の生前対策だけでなく、相続には様々な法的知識が必要となってきます。どの法を適用するか、また法の改正などもあるので、専門家以外の方が独自で調べるのは非常に困難です。被相続人自身が法律の専門家でない限り、相続の相談は必ず専門家、もしくは専門家を擁する法律事務所に相談すべきでしょう。
 
弁護士や司法書士、行政書士への相談が適切ですが、相続の生前対策に関しては税金の知識が必要となるため、税理士への相談も必要でしょう。
 
ネットで「相続」を検索すれば、多くの相続の専門家がヒットします。その中から最寄りの地域で活動する専門家に問い合わせても良いのですが、周りの方々や役所に紹介してもらうという手段もあります。
 
相談先が決まれば、まずは相続の生前対策について、具体的な流れ、メリットやデメリットについても説明してもらいましょう。
 
相談先の専門家の選択は慎重にした方良いでしょう。

8. まとめ

相続の生前対策は、数十年にもわたる人生の終焉を迎える前の最後の大仕事です。全ての準備を終えて、遺族に何ら遺恨や迷惑を残すことなくあの世へと旅立つ。人として理想的な死に様ではないでしょうか。
 
中には病気やけが、不慮の事故により、遺族に何ら意思を伝えることなく死を迎えてしまう方も大勢いらっしゃいます。
 
ご自身のこれまでの人生を想い、出会ってきた人たちを想い、大切な家族を想い、そして先にあの世へと旅立った友人との再会を想う。死を迎える準備を整えた者に与えられた人生最後の至福の時です。
 
家族や親族のためにも、そして何よりご自身のためにも、相続の生前対策の実施を検討してみてください。
 
 

 

この記事を書いた人
まつだ りょうすけ
松田了介

司法書士(大阪司法書士会 第4902号、簡裁訴訟代理関係業務認定第1612053号)
司法書士法人ABC社員
行政書士有資格
大阪府堺市出身
桃山学院高等学校・同志社大学法学部卒業
世界最大手の国際物流サービス会社であるフェデックスに24年間勤務。グローバルセールスとして物流価値を創造するソリューションを提案、企業のグローバルビジネスをサポート。
以前より中小企業の事業承継や相続の仕事に携わりたいと考えており司法書士になることを決意。
平成28年に司法書士試験に合格し、フェデックス退職後、司法書士法人ABCへ入社。
日々寄せられる事業承継や相続の相談について丁寧に対応、現状を把握し、最適な解決方法を提案。
お客様にご納得いただける手続きを提供すべく、知識の研鑽に努めている。

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