生前対策

エンディングノートと遺言書の違いとは?目的や法的効力の違いを解説

人は誰しも歳をとり、やがて死を迎えるもの。若い頃にあくせく働いてきた方も、趣味に没頭してきた方も、ヤンチャしていた方も年齢を重ねて老後を迎え、やがて死を目前にします。その時自分の人生を振り返って思うことはそれぞれあるでしょう。もちろん良い人生もあれば、悔やむことばかりの人生だってあるはずです。

どんな人の人生もきっと素晴らしい。長きにわたり積み重ねてきた想いや知識はかけがえのない財産。もちろんその中には預貯金や不動産といった資産も含まれることでしょう。とはいえ、それらをあの世に持っていくことはできません。

死を目の前にして想うことは人それぞれですが、自分の知識や経験、人生への想いを後世に残したいという気持ちはきっと誰もが持つ自然な気持ちではないでしょうか。

そして多くの場合、それを受け継ぐのは自分の家族です。

自分の残した様々な財産を家族に残し、受け継いだ家族がその財産を自分の人生の大きな糧とする。素晴らしい財産の継承です。

受け継いだ財産をどのように活用するかは受け継いだ者次第ですが、財産を引き継ぐまで、そしていかに引き継ぐかは、現所有者が責任を負うべきことです。

昨今では、終活という形でその引き継ぎが行われることが多く、終活の中で中心的役割を果たすのがエンディングノートや遺言書です。

遺言書は昔から利用される後世への引き継ぎ手法であり、名称はよく知られています。ではエンディングノートと遺言書は何が異なるのか。

今回は遺言書とエンディングノートの違いについて解説いたします。

1. エンディングノートとは

エンディングノートとは、自分の思うままに自分の想いを家族に残す言葉、そして自分の葬儀等における希望などを書き記すノートのことであり、書店や文房具店では専用のノートが市販されています。

自分の人生を振り返って嬉しかったこと、楽しかったこと、苦労したこと、人生最大の危機等々書くことはいくらでもある。書くことによって記憶が蘇ってくることもあるでしょう。また、自分のことだけでなく残された家族に向けての感謝の言葉やメッセージを書き記しても良いでしょう。

このように、エンディングノートに決まった様式はなく、自由な形式で自由に何でも書き記すことができます。

「そうはいっても何から書けばいいかわからない」

もちろんそんな方もいらっしゃるでしょう。そんな方々のために市販のエンディングノートには項目が設けられており、その項目に従って書けば完成度の高いエンディングノートに仕上げることができます。また、メーカーによっては作成をサポートするガイドが掲載されているものもあります。

近年では、音声ファイルや動画機能を使用する手法も誕生しており、ノートという媒体からさらに進化したエンディングノートを作成することも可能です。

どのような方式でも作成が可能、自由な発想で自分の財産を後世に残すことができます。

2. 遺言書とは

遺言書とは何か。遺言書は古来より使用されるものであり、遺族へのメッセージの手段としてはこちらが一般的です。これもまた死を前にした作成者の想いや残された家族へのメッセージを伝えるという点ではエンディングノートと同様です。ただし遺言書の場合は、エンディングノートとは異なり、形式や書式に規定が存在します。この規定に従って作成しなければ、遺言書としての機能を果たさない可能性があるのです。

そのため、遺言書作成は弁護士や司法書士、行政書士が在籍する専門事務所に相談、依頼して作成されることがほとんどです。

遺書とも混同されやすいのですが、遺書に法定様式が存在するわけではなく、また法的効力も発生しない点で大きく異なります。

3. エンディングノートと遺言書は目的が異なる

では、エンディングノートと遺言書は何が違うのか。それぞれの作成目的からお話いたします。

まずエンディングノートを作成する目的ですが、これは一概には言えません。確かに市販のエンディングノートというものは存在し、そこには項目ごとに書き記すべきことの記載はありますが、ルールはありません。

作成者が自分のタイミングで自分の人生を振り返り自由にその思いを書き綴る、そこに何の縛りもなく、だからこそ、エンディングノートを作成する目的も人それぞれ異なるのです。

もちろん家族に対して、自分の希望や指示などが書き記される場合もあるでしょうが、当の家族はエンディングノートの記載内容に従う義務が課せられるわけではないのです。従う必要があると考える人もいるとは思いますが、それはあくまでも倫理上の義務にすぎません。

次に遺言書です。遺言書はエンディングノートとは異なり、形式や書式が民法で明確に決められています。だからこそより重要性の高い書類となり、作成する目的も明確です。それは、残された家族に葬儀及び葬儀後の自分の希望を伝えること、そして家族同士による遺産を巡っての争い、その他トラブルがないように、遺産の取り扱いや管理方法、そして相続人を決定しておくことです。

4. 法的効力の違いにも注意

エンディングノートと遺言書の大きな違いは、法的効力があるかどうかです。

エンディングノートは、作成者が自由に書くことができ、自由な書式、自由な媒体で表現することができるという点で大きなメリットがありますが、法的効力が発生しないというデメリットもあります。残された家族や親族に自分の人生や想い、家族へのメッセージなどを残すことはできても、そこに法的根拠を持たせることはできないのです。

遺言書は作成者が自由に書くことはできず、多くの場合、法の専門家に依頼して作成することになります。自由度は極端に低くはなりますが、遺言書に法的効力を発生させることができます。

例えば、複数の相続人の中の1人が遺言書の内容に異議があったとしても、遺言書の持つ法的拘束力により従わせることができるのです。それでも法廷闘争にまで発展しないわけではありませんが、遺言書は裁判所の決定、問題解決に大きな影響を及ぼすことになります。

5. 記載内容の違いも

(1) 記載内容の違い

では、エンディングノートと遺言書、それぞれどのような内容になるのでしょうか。

まずエンディングノートは、作成者が自由に書き記すものであるため、作成者の人柄がよく表現されます。家族へのメッセージを書いてもいいし、自分の死後についての希望を書いてもいい。また、生涯取り組んだ趣味のことを書いてもいいでしょう。

とはいえ、一般的にエンディングノートにはこのようなことを書くことが望ましい、という項目もあります。市販のエンディングノートには、あらかじめその項目が印字されています。以下にその事例を記します。

  • 自分自身について
  • 身の回りのことについて
  • 介護や医療の希望について
  • 延命治療について
  • 葬儀について
  • 財産について
  • 家族へのメッセージ
  • 親戚・友人の連絡先

いくら自由に記載するものとは言っても、やはり事務的な内容は優先して記載しておく方が良いでしょう。そうすることによって遺品整理を行なう家族の手間を少しでも省くことになります。

必要なことは先に記載しておいてあとは自分の好きなように、自分の長きにわたる人生への想い、家族への想い等を書き綴る、そんなことができるのもエンディングノートならではと言えるでしょう。

一方の遺言書はどうか。明確に記載内容が規定されている遺言書ですが、そこに作成者の想いや希望を載せることはできます。記載事項と注意点について以下に記します。

①表題は「遺言書」

まずは作成する書類が遺言書であること、を示しておく必要があります。遺言書として作成されたものであれば、表題は「遺言書」です。

②作成日、署名、捺印

遺言書は、「いつ、誰が作成したものか」ということを明確に示しておくことが非常に重要です。

③遺産の内容

遺言書の記載内容で最も重要な項目といってもいいでしょう。相続人を誰にするか、遺言者の遺産相続をどうするか、遺産分割や遺留分、居宅をどうするか、所有する不動産の登記をどうするか等を具体的に示しておく必要があります。

④遺言執行者

遺言執行者とは、相続開始後、遺言の内容を執行するために必要な手続きを行なう者のことで、遺言書で指定しておくことができます。指定は必須ではなく、遺言執行者を指定しない場合は相続人全員で手続きを行なうことになります。

⑤厳重に封をしておく

完成した遺言書は封筒に入れて厳重に封印することをお勧めします。封をせずとも遺言書が無効になることはありませんが、第三者による改ざんや開封を防ぐためにも封印し、最適な場所にて保管しておいたほうが良いでしょう

このように作成者の意思や想いを文章に表し法的効力が発生するように作成されるものであり、遺族にとって非常に重要な書類となり得るのが遺言書です。

(2) 遺言書の種類について

なお遺言書は、手続きの内容で3つの種類に分けることができます。以下に説明いたします。

  • 自筆証書遺言

専門家に依頼するものではなく自分で作成する遺言書を言います。今時はネットの記事やコラム等で詳しく遺言書の書き方を調べることができ、また費用もかからないので昨今は最も多く利用されているタイプの遺言書です。

作成した遺言書に署名・捺印をしておけば自分が作成したということを内外に示すことができ、裁判所で検認の手続きをしておけば、遺言書の存在を確認してもらうことができます。

一連の手続き終了後、遺言書は封筒に入れて厳重に保管しておきましょう。第三者による改ざんや開封を防ぐためです。

ここで1つ注意点があります。先ほど、エンディングノートと遺言書の最も大きな違いは法的効力の有無と言いました。もちろんその通りですが、民法の規定から外れた形式のものは
法的効力が発生しない場合があります。検認はあくまでも遺言書の存在を確認してもらう手続きであって、法的効力を保証するものではないのです。

  • 公正証書遺言

では、確実に法的効力を発生させる遺言書を作成するためにはどうすれば良いか。そういう場合に作成されるのが公正証書遺言書です。

公正証書とは、公証人法に基づき法務大臣に任命された公証人が作成する公文書のことで、裁判における証明力を有します。つまり、遺言書の作成を公証人に依頼し作成してもらうことで、遺言書は非常に有効な証明力を有する公文書にすることができます。

もちろん費用は発生しますが、状況次第では遺言書を公正証書として作成しておくといいでしょう。

  • 秘密証書遺言

遺言書を作成する者の周囲の状況は千差万別、中には遺言の内容を絶対に他の人に知られたくないという場合があります。

そんな時は秘密証書遺言書の作成が適しています。

秘密証書遺言書とは何か。公正証書とする点は公正証書遺言書と同様ですが、遺言内容を秘匿にしておくことができます。作成の流れは以下の通りです。

まずは、遺言者自身が遺言書を作成します。これは自筆証書遺言と同様です。作成した遺言書に捺印して、封筒に入れて封をします。

その後、遺言者は公証役場に行きます。この時、証人を2人以上用意します。ただし、未成年者、家族、親族、その他関係者は証人になることができません。

公証役場では、公証人と証人の前で、封筒の中身は自分が作成した遺言書であることと氏名と住所を告げます。その後、公証人が遺言書の提出日と申述内容を封紙に記載し、遺言者と証人がそれぞれ署名と捺印します。それで手続きは完了です。

こうすることによって、遺言書の内容が誰にも知られず秘密を守ることができます。

6. 遺言書を作成するべきケース

では、どういった場合に遺言書を作成すべきでしょうか。そもそも遺言書は、作成者の想いを残された家族に伝えるために作成されるものです。ただ、もう1つ大きな役割があり、それは残された家族、相続人が作成者の遺産を巡る様々なトラブルへの対策のためです。

例えば、遺言書作成者が資産家であったり複数の会社を持つ経営者だったりすると、残された家族への影響も計り知れないものとなる可能性があります。莫大な遺産を誰が相続するか、会社は誰が引き継ぐか、作成者名義で所有する広大な土地は誰が所有するか・・これらの事案は早急に協議し決定しなくてはなりません。

しかし、相続人同士の協議だけでは決まらず、争いになる可能性が高くなり、場合によっては法廷闘争に発展してしまうこともあり得ます

そういう場合、財産の現所有者があらかじめ遺言書に遺産分割や遺留分について決めておけば、そういった争いを未然に防ぐことになるのです。

もちろん作成にあたり、信頼の置ける法の専門家のサービスを受けるべきことは言うまでもありません。

7. エンディングノートを作成するべきケース

エンディングノートは、遺言書のように法的効力を発生させる必要はありません。作成者が自由に記載することができるものであり、もちろん作成するもしないも作成者の自由です。遺言書のように法的に重要な書類となるわけではありませんが、やはり作成しておくべきケースがあります。それは、残された家族が行なう煩雑な葬儀の手配や遺産整理などの手間を可能な限り軽減させることができるケースです。一般には終活と言われることもあります。

家族が死亡した場合、その遺族は葬儀の準備や遺品の整理などの対応に追われることになり、ほとんどの場合それは大変な手間です。

しかし、あらかじめエンディングノートに葬儀における自分の希望や遺品の取り扱いについての自分の意思を記載しておけば、遺族はそれに従って準備を進めることができます。

また、自分の死亡を知らせるべき交友範囲についても記載しておけば、遺族は誰に葬儀の通知をするかについて迷うことなく連絡することができます。

8. まとめ

エンディングノートと遺言書、果たす役割は違っても故人の想いや希望を表現する点においてどちらも極めて重要な書類となり得ます。

もちろん遺言書は法的効力を発生させる重要書類でありますが、エンディングノートは制約がない分作成者の人柄が大いに表され、遺族が故人を偲ぶ時により故人を身近に感じることができるでしょう。

エンディングノートと遺言書、どちらも一長一短であり、両者のメリットを兼ね備えることはできません。

よって、どちらを作成するべきかと考えるのではなく、必要とあらば双方ともに作成するという選択肢をとってもいい。冒頭でも述べたように、どんな人の人生もきっと素晴らしいはずです。それを認識するためにもエンディングノートと遺言書の両方の作成を検討してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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