エンディングノートの法的効力と注意点

生前対策

エンディングノートの法的効力と注意点・遺言書が必要なケースは?

近年、終活の一環としてエンディングノートを作る方も増えています。エンディングノートには、死後の自分の資産の処分に関する希望を記述することも可能です。では、エンディングノートに遺産について書いておくことで、遺言書の代わりとすることは可能なのでしょうか。エンディングノートには遺言書のような法的効力があるのでしょうか。

今回は、エンディングノートの法律上の有効性、エンディングノートと遺言書の法的効力の違い、エンディングノートだけ作成すれば良いケース、遺言書が必要となるケース、遺言書に確実に法的効力を持たせる方法などについて解説します。

1.エンディングノートとは

エンディングノートは、終活という言葉が一般化された頃と同じ時期に登場しました。「終活ノート」と呼ばれることもあるようです。
エンディングノートには、自分にもしものことがあった時のために、医療や死後の希望、自分自身のことなどを記載します。
エンディングノートの様式や記載内容について特別なルールがあるわけではありませんが、一般的に以下のような事項を記述する方が多いようです。

  • 自分の基本情報
  • 預貯金や不動産などの資産について
  • 医療・介護について
  • 葬儀、お墓について
  • 相続について
  • 親族・友人等の連絡先一覧
  • 携帯、パソコンの情報(ログインID/パスワード)

他にもペットを飼育している方はペットのこと、家族や友人へのメッセージ、自分の人生の歴史などを記述する方もいらっしゃるようです。

エンディングノートの書き方と記載事項については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご興味のある方は併せてご参照ください。

参考記事:エンディングノートの書き方と記載事項を解説・ケース別の記載例も

2.エンディングノートの法律上の有効性

エンディングノートに財産や相続に関する事を記載する方は多いようですが、エンディングノートには法的な有効性はあるのでしょうか。

結論から申し上げると、エンディングノートには法的な有効性はありません
エンディングノートにいくら遺産の分け方などの相続への希望を綴った所で、相続人がその通りにする法的な義務は一切ないのです。
もちろん、エンディングノートを見た相続人が遺産分割協議を行う際に、エンディングノートを参考にしながら遺産分割を行うという可能性はあります。しかし、それはあくまで相続人の意思であって、一人の相続人がエンディングノートに記載されている通りに遺産を分けたいと言っても、他の相続人が納得しなければ不可能です。
また、エンディングノートは法的な有効性を持たないため、寄付や寄贈、法定相続人以外への相続に関する内容を記載しても無効となります。

3.エンディングノートと遺言書の法的効力の違い

前述した通り、エンディングノートに相続の希望を記述しても法的な効力はありません。
では、遺言書ではどうでしょうか。

遺言書という言葉自体はよく聞くものの、実際には見たことがないという方もいらっしゃるかと思います。遺言書と具体的にどのようなものなのか知りたいという方に向けて、まずは遺言書について簡潔に説明します。

(1)遺言書とは

遺言書は、死後、自分の遺産をどのように扱って欲しいかという意思を示すための文書です。つまり、遺言書に書かれる内容は、「死後の財産の取り扱い方」に限られるということです。そして、遺言書を作成する目的は、法的な効力を発生させることにあります。

(2)法的効力はあるがルールを守る必要がある

エンディングノートとは異なり、遺言書は法的な効力を持ちます。
ただし、法的な効力があるということは、法律上に明確なルールが定められているということであり、それを守らずに作成された遺言書は無効とされる可能性が高いという点には注意が必要です。

(3)遺言書の種類とルール

遺言書にはいくつかの種類がありますが、代表的なものとして、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言は、自分で作成する遺言書です。
遺言書を作ろうと思った時、真っ先に思いつく方法は自筆証書遺言なのではないでしょうか。
自筆証書遺言は、思い立った時にすぐに作成でき、費用もかからないというメリットがありますが、法律上の要件を満たしていないと法的に無効とみなされる可能性があるというリスクがあります。
自筆証書遺言を作成する際は、以下のルールに気を付ける必要があります。

  • 本人が自筆で記述する
  • 日付を記載する
  • 署名・捺印する

日付が正確でない場合や、署名捺印がない場合、本文がワープロ打ちである場合などは法的に無効とされる可能性があるため、注意が必要です。

公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。
公正証書遺言を作成するメリットは、ほぼ確実に法的に有効な遺言書が作成できるという点です。公証人によって作成されるため、要件の不備や本人の意思能力の有無が問題になる可能性が低いからです。また、元本は公証役場で管理されるため、紛失や改ざんの心配もありません。デメリットとしては、自筆叢書遺言に比べ、作成に時間と費用がかかることでしょう。

(4)エンディングノートと遺言書は役割が異なる

エンディングノートは遺言書の代用にはなりませんが、エンディングノートにはエンディングノートならではの役割があります。
そもそも、エンディングノートと遺言書は、記述する内容も役割も異なります。

遺言書は財産の分け方や処分方法について記述するものであるのに対し、エンディングノートは、遺言書に書かれることがない細かな個人情報や大切な人に対するメッセージなどを書くためのものです。
銀行や証券会社の情報、医療や葬儀などについての希望、パソコンやスマホの情報などは、死後に家族が知りたいと感じる事柄ですが、遺言書には記載されません。エンディングノートがなければ、遺言書があっても残された家族は困ることになるでしょう。
そのため、遺言書とエンディングノートは両方残すことが望ましいといえます。

4.エンディングノートだけ作成すればよいケース

前述したように、エンディングノートには法的効力はありません。しかし、だからといって誰もが全員法的に効力がある遺言書を残す必要があるというわけではないでしょう。
以下のような方は、エンディングノートだけ作成すれば問題ないと考えられます。

  • 相続遺産が一切ない場合
  • 遺産の分け方を相続人に任せたい場合
  • 法定相続人が一人であり、その一人に全ての財産を相続させる場合

相続遺産が一切ないということは考えにくいですが、不動産を所有しておらず、少額の預貯金のみであるケースなどでは、「わざわざ遺言を残す必要はない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
また、遺産の分け方について希望がない方や、死んだ後のことは相続人に任せたいとお考えの方の場合、遺言書は必要ないかもしれません。
法定相続人となる方が一人しかおらず、特に寄付や第三者への相続を希望しない場合は、遺言書がなくとも自動的にその相続人が全ての遺産を相続することになるため、エンディングノートだけでも問題ないでしょう。

5.遺言書が必要となるケース

逆に遺言書が必要となるのは、どのようなケースなのでしょうか。
以下のような方は、遺言書を作成しておいた方が良いと考えられます。

  • 遺産分配を巡る相続人同士のトラブルを未然に防ぎたい
  • 遺産相続に関する手間を減らしてあげたい
  • 法定相続人以外の人に財産を残したい
  • 財産を慈善団体等に寄付したい
  • 相続人の中で連絡が取れない人がいる
  • 相続人の中に認知症の人がいる
  • 相続人が誰もいない

遺言書を残すことにより遺産相続の手続きを簡略化できますし、被相続人の意思を示すことで余計なトラブルを防ぐという効果も期待できます
相続人の中に認知症を患っている方がいる場合は、遺産分割協議の際に成年後見人が必要となるなどの問題が起きやすいので、遺言書を残すことが望ましいでしょう。
また、寄付や法定相続人以外への相続など、イレギュラーな財産の処分方法を希望する場合も、遺言書は必要となります。

ただし、遺言書を残したからといって必ずその通りに遺産が処分されるとは限らないということも認識しておきましょう。
遺言書を残しても、相続人全員が了承した場合は、遺言書に記載されている以外の方法による遺産分割が可能です。また、一定範囲の相続人には遺留分といって最低限の財産を貰うことができる権利があります。そのため、あなたが「全ての財産を第三者に残す」と遺言書に記載したとしても、相続人は遺留分を請求することができるのです。

6.確実に法的効力を持たせるための注意事項

遺言書に確実に法的な効力を持たせたいと考える場合は、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言をおすすめします。あえて自筆証書遺言で作成したいという場合には、法律の専門家にチェックしてもらうと良いでしょう。

また、前述した通り、遺言書を残しても相続人が納得しなければその通りにならない可能性があります。
確実に遺言書通りに遺産を処分して欲しいと考える場合は、生前の内に相続人と話し合っておくことをおすすめします。理解が得られそうにない場合などは、生前の内に寄付や贈与を済ませておいた方が良いかもしれません。ただし、生前贈与を行う際には、遺留分に配慮するようにしましょう。生前贈与についても、遺留分を侵害すると判断された場合は、相続人に請求権があるとされているからです。

まとめ

今回は、エンディングノートの法律上の有効性、エンディングノートと遺言書の法的効力の違い、エンディングノートだけ作成すれば良いケース、遺言書が必要となるケース、遺言書に確実に法的効力を持たせる方法などについて解説しました。

エンディングノートには法的な効力はありません。そのため、財産の行方を自分で決めたいという方は遺言書を残した方が良いでしょう。法的に有効な遺言書を作成したい場合は、専門家に相談の上、公正証書遺言を作成することをおすすめします。
ただ、遺言書を残す場合でも、大切な家族や自分自身のためにもエンディングノートを作っておいた方が良いでしょう。遺言書は法律上のルールに沿って記す必要がある公的な書類ですが、エンディングノートは自由に自分の情報や家族へのメッセージを書くことができる私的な文書です。それは、自分が残す財産の行方を定める遺言書と同じくらいあなたの家族にとって重要な意味を持つのではないでしょうか。

この記事を書いた人
しいば もとふみ
椎葉基史

司法書士法人ABC
代表司法書士

司法書士(大阪司法書士会 第5096号、簡裁訴訟代理関係業務認定第612080号)
家族信託専門士 司法書士法人ABC代表社員
NPO法人相続アドバイザー協議会理事
株式会社アスクエスト代表取締役
株式会社負動産相談センター取締役

熊本県人吉市出身、熊本高校卒業。
大手司法書士法人で修行後、平成20年大阪市内で司法書士事務所(現 司法書士法人ABC)を開業。
負債相続の専門家が、量においても質においても完全に不足している状況に対し、「切実に困っている人たちにとってのセーフティネットとなるべき」と考え、平成23年に相続放棄専門の窓口「相続放棄相談センター」を立ち上げる。年々相談は増加しており、債務相続をめぐる問題の専門事務所として、年間1400件を超える相談を受ける。
業界でも取扱いの少ない相続の限定承認手続きにも積極的に取り組み、年間40件程度と圧倒的な取り組み実績を持つ。

【 TV(NHK・テレビ朝日・フジテレビ・関西テレビ・毎日放送)・ラジオ・経済紙等メディア出演多数 】

■書籍  『身内が亡くなってからでは遅い「相続放棄」が分かる本』(ポプラ社)
 ■DVD 『知っておくべき負債相続と生命保険活用術』(㈱セールス手帖社保険 FPS研究所)

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