人は自分や家族の将来の希望に向かって生きるもの、生涯の夢に向かって挑戦し続けるものです。それが生きていく上での大きなモチベーションとなります。
もちろん、中には具体的な夢も目標もなくダラダラと人生を全うする人もいるでしょうが、それでも生を全うしていることに違いはありません。
夢や希望、目標を持って生きること、それは素晴らしい財産であり、人はどれだけ年齢を重ねてもそうありたいものです。
一方で、自分の死について考える人はどれだけいるでしょうか。死を考えるなど縁起でもない、と思われるかもしれません。しかし、死は例外なく誰にでも訪れるもの、確かに縁起でもないことではありますが、決して逃れられない現実です。
いずれ自分の身に訪れる死というものをしっかりと見据えることによって、そこに至るまでの生をより充実したものにしよう、悔いのないように生きようという前向きな思考を生み出すことにもなると考えられるはずです。
特に、長年生きてこられた高齢の方にとって死は目の前に迫った現実。生前にその準備をしておくことは、残りの人生を悔いなく生きようとするご自身にとっても、ご家族にとっても非常に有意義なことであると考えます。
死を迎えるまでの限られた時間で自分はどう生きるべきか、何を成すべきか。この深淵たるテーマの答えを導き出し言葉にすることは容易ではありません。ただ、残された家族や親族のために、生前のうちに自分の葬儀の準備や手続きをしておくことができます。
「後に残る者に迷惑をかけることなく逝きたい」
心からそう願う方が愛する家族のために最期にできること、それこそが葬儀の生前準備であるはずなのです。
そこで、今回は葬儀の生前準備やその注意点等について解説いたします。
【 目次 】
1. 葬儀の生前準備でできること
葬儀とは遺族が行なうものではありますが、本人が生前のうちにできる準備があります。以下、生前のうちにできる内容についてお話いたします。
(1) 葬儀の形式
葬儀は、故人や遺族の意向次第で様々な形式を選択することができます。例えば、以下の通りです。
- 僧侶を呼んで、自宅や葬儀場などで儀式通りの葬儀を行なう
- 家族、親族だけを集めて略式の儀式で家族葬にする
- お葬式やお通夜のような儀式は行わず、病院や自宅から火葬場に直行する直葬にする
- お別れ会や偲ぶ会のような自由な形式の会を催す
著名人が亡くなった場合、数百人もの弔問客が入る大きなホールで大々的に葬儀や告別式が行われることがありますが、一般的ではありません。最近では、予算を低く抑えられることから、小さな葬儀場を借りる、もしくは自宅やそれに準ずる場所で済ませることもあります。
もちろん生前のうちに葬儀の形式の希望を家族や親族に伝える、もしくは自ら手配しておくことも可能です。
宗教も重要です。葬儀は、その家が信仰している宗教、宗派で行なうことが一般的です。例えば、日本で広く行われているのは仏教の浄土宗や浄土真宗、真言宗などですが、神式やキリスト教式もあります。
自分の家の宗教や宗派によらず、故人が独自で信仰している宗教で行なうことも可能です。
また、特異な例として生前葬もあります。これは亡くなってからではなく、生きているうちに自分の葬儀を行なうことをいいます。宗教儀式として行われることはほとんどなく、多くはこれまでお世話になった方々への感謝の気持ちを示す目的で行われます。
(2) 葬儀の内容
葬儀の内容やしてほしいことを決めておいても良いでしょう。例えば、「どのくらいの規模にするか」「どの地域で行なうか」「喪主を誰にするか」「霊園との契約はどうするか」という基本的なことを決めておけば、故人の望み通りの葬儀ができ、また遺族の手間を減らすこともできます。
また、細かい演出などを決めておいても良いでしょう。参列されるお客様の感情を揺さぶるような演出を設定しておけば、いつまでも心に残る葬儀となるはずです。
葬儀の内容は事前に家族に相談をしておきましょう。いくら人生最期のセレモニーだからといって、あまりに凝った演出、大規模な葬儀にしてしまうと遺族の金銭的負担が大きくなってしまいます。葬儀の相場感をしっかりと把握しておくことも大切です。
(3) 誰を呼ぶか
葬儀に誰を呼ぶかも重要です。リストを作成しておきパソコンに残すか、もしくはエンディングノートに記しておいても良いでしょう。
その人数次第で、葬儀の規模や会場の大きさが決まります。あらかじめ家族には伝えておきましょう。
亡くなった後すぐにハガキを出せるようにしておけば、遺族の手間を省くことができます。
(4) 遺影を撮っておく
葬儀において故人を示す上で極めて重要な遺影。遺族が故人の昔の写真から遺影にできるものを選ぶことが多くありましたが、近年では、生前のうちに遺影用の写真を準備しておく方もいらっしゃいます。
使い古された昔の写真よりも、元気なうちに今の自分を写真に納めて遺影にしたい、という理由からだと思われます。
遺影は葬儀の時だけ使われるものではありません。葬儀後、半永久的に自宅の仏壇に飾るご家庭もあります。それだけ長きにわたり使われる写真になる可能性があるので拘って作成することをお勧めします。
(5) 納骨の方法
日本で最も多いとされる仏教での葬儀の場合、故人は亡くなってから四十九日かけて冥界にたどり着き、そこで仏になるとされています。いわゆる「成仏」です。仏教のしきたりによると、納骨は亡くなってから49日後、成仏してから行われます。
キリスト教式の場合は亡くなってから1ヶ月後に行われるミサに合わせて、神式の場合は五十日祭に合わせて納骨が行われます。
このように、故人の信じる宗教が決まっている場合はしきたりが決められているので、事前に何かを決めておくといったことは必要ありません。
しかし、無宗教の場合は故人の希望が最も重要視されることになりますので、納骨の方法について希望があれば事前に家族や親族に伝えておきましょう。
2. 葬儀を生前に準備するメリット
自分の葬儀の準備を自分が生きているうちに行なうのは、決して気分の良いものではありません。自分が元気なうちは死ぬことなど考えたくもないし、もっと楽しいことを考えたいし、やりたいものです。
「自分が死んだ後のことなど知らない。後は野となれ山となれ、だ」
そのように考える人は決して少なくありません。しかし、自分の人生の幕引きを自分の望む形で潔く美しくやりたいという希望を持つ方や残されたものに迷惑をかけたくない、という思いを持つ方はたくさんいらっしゃいます。
そんな思いを実現する意味でも葬儀の生前準備は大きな意味を持ち、そして大きなメリットがあります。
(1) 自分の希望に沿った葬儀
自分が死んだ後の葬儀は自分にとってどんな意味があるか。それは宗教的な要素を含んだ疑問であるためここでは割愛しますが、基本的に死んだ後のことなど誰にもわかりませんし、自分の葬儀を自分で見ることなどできません。
ただ、どんな葬儀にしたいかを考えることは、自分の人生の幕引きの形を決めることと同義であり、それは残された自分の生をいかに充実したものにするかを考えることにつながるはずです。
死の床に伏した時、自分の人生は最高だったと心から思うために、葬儀の生前準備は大切です。
(2) 遺族の手間や費用を抑える
葬儀には高額費用が発生します。出来るだけ安く済ませるために各業者から見積もりをとり、省略できるところは省略する。日々の忙しい中で、遺族が集まって話し合い、内容的にも価格的にも納得のいく葬儀の準備をする。
葬儀の準備をする遺族の負担は大変なものです。
そこで、葬儀の生前準備をして細かいところまで決めておけば、その内容に沿った葬儀の準備をすることができ、料金を抑えることができます。
「あの人は死んでなお家族のことを考えてくれる人だった」
そんな人の人生はきっと素晴らしいものだったと思えるに違いありません。遺族は法事で集まるたびに故人との思い出を話すことでしょう。
3. 葬儀の生前準備を行うタイミング
さて、そんな多くのメリットが期待できる葬儀の生前準備ですが、どのタイミングで始めるのが理想でしょうか。
実は、どのタイミングと明確な基準があるわけではありません。もちろん早ければ早いほどいいとは思いますが、あまり若いうちから自分の葬儀の準備をするのは現実的ではありません。
かといって、病気で動けない状態になってからの準備は困難です。
あえて基準を設けるのであれば、それは「体が元気なうち」ということになります。あとは人生の節目の時を基準に決めればいいのです。
例えば、自分の孫が生まれた、自分の孫が成人した、仕事をリタイヤした、といったタイミングが節目であり、それをきっかけに考え始めてもいいと思います。
4. 家族葬を選択する場合の注意点
家族葬は比較的安価での葬儀が可能であり、また家族だけで最後の別れをしたいという場合にも適しているため、近年利用者が増えつつあります。
また、葬儀の生前準備においても家族葬を選択される方が多くいらっしゃいます。ただ家族葬だからこその注意点もあり、それを踏まえておく必要があります。
まず参列者の人数です。家族葬は少人数で行われるものというイメージを持たれがちですが、実は人数に制限はありません。あらかじめ参列者の数を把握しておかないと、家族葬のプランの変更を余儀なくされることがあります。当然料金も変わってきます。どの関係者まで連絡するかを決めておかなくてはいけません。
また、家族葬は参列者を限定する葬儀であるため、必然的に香典の総額が少なくなります。その分葬儀費用の負担額も増えるので、その点を踏まえて計画を立てておく必要があります。
なお、葬儀にお呼びしなかった方には会葬辞退や訃報通知を送ります。その際、「故人並びに遺族の意志により、近親者にて家族葬を執り行う」旨をお伝えしましょう。
5. 遺影写真を撮影する際のポイント
葬儀の生前準備が知られていない頃は、遺影の写真は数ある故人の写真の中から選んだり、背景を加工するのが当たり前でした。
しかし、生前準備においては、遺影用の写真を撮影することが可能です。自分でお気に入りの写真を選んでもいいし、新たに撮ってもいい。写真館でプロに任せてもいいし、葬儀社でも撮ってくれます。
撮影のポイントは、まるで悔いのない人生を全うしてあの世へと旅立つかのように、明るい笑顔で撮ることです。
6. 葬儀を生前予約する場合の注意点
葬儀の生前準備において、葬儀社に葬儀の予約しておくことも可能です。他の生前準備とは異なり、これについては死が目前に迫る状況になった時点で行なうことが適当でしょう。
例えば、癌で余命宣告を受けた、介護が必要な体になってしまった場合などが当てはまります。
とはいえ、結婚式のように「〇〇年□□月△△日に」という予約はできません。いくら直前に迫っていると言っても、いつその日が来るかは誰にもわからないので当然です。
葬儀社での生前予約もメリットがあります。亡くなってから慌てて葬儀社を探す必要がない、故人の希望を取り入れることができるので費用を安く抑えることができるといったメリットを見込むことができるので、個人にとっても遺族にとっても安心です。
ただし、注意点もあります。
生前に自分で葬儀社に予約しておく場合は、必ず家族にその旨を伝えておかなくてはなりません。でないと遺族が新たに別の葬儀社に葬儀の依頼してしまいます。
葬儀社は葬儀の依頼があった時点で、祭壇やご遺体の安置準備等の手配を始めます。葬儀社に事情を話せば何らかの対応をしてくれる場合もありますが、あまりに急だとキャンセル料を請求されることもありえます。
また、葬儀社が倒産してしまう可能性もゼロではありません。事前に葬儀費用を入金していた場合は、お金が無駄になってしまいます。
葬儀社の候補をいくつかピックアップして資料を取り寄せ、ご家族とともに検討されることをお勧めします。
また、中には会員制の葬儀社もあります。会員になることで様々な特典やサービスを受けることができる場合があるので、会員価格やサービス内容を確認した上で会員になることを検討してみても良いでしょう。
7. 葬儀の生前準備に関する相談先
では、葬儀の生前準備をどこに相談すれば良いのか。役所や法律事務所が相談に乗ってくれる場合もありますが、葬儀のプロである葬儀社に相談することが最も適当だと考えられます。
法的な知識や宗教、儀式の知識なども豊富なスタッフが多く在籍しているので、安心です。その他葬儀を執り行う会社は全国に存在していますので、どの地域の方でも相談することができます。
もちろん相談するからと言って、そこで生前予約をしなければならないわけではありません。ネットで検索すれば、相談受付の窓口を設置している葬儀社がありますので、まずは相談してみましょう。
まとめ
近頃よく耳にする「終活」という言葉。自分の身の回りの整理や自分の遺産を相続させる相続人の決定、遺言書やエンディングノートの作成など、人生の終焉を迎える準備をする活動をいいます。
自分の人生を見つめ直し、残り少ない人生をどのように過ごすかということを考えるための崇高な活動ですが、もちろん家族のためでもあります。
人は人生の終焉を間近に控えた時、残された家族のために財産を残したい、出来るだけ迷惑をかけずに逝きたい、という思考に及びます。
葬儀の生前準備もまた終活であり、家族への負担を軽減させるためにこれほど効果のある活動はないと言ってもいいでしょう。なぜなら、葬儀ほど手間も費用もかかるものはなく、遺族にとってあまりにも大きな負担であるためです。
愛する家族が幸せに暮らしていくために最期にできる家族孝行、それこそが葬儀の生前準備ではないでしょうか。