歳を重ねて、いざ老後を迎えた自分がこれまでの人生を振り返った時、それを記録に残すにはどうすれば良いか。一般的には遺言書がその役割を果たします。でも、もっと自由闊達に自分のこれまでの人生を書き記したい、家族や友人に残す言葉を記しておきたいという時は、エンディングノートに書き記すことをオススメします。
エンディングノートとは、その名の通り、自分の人生の終末について書き記したノートのことであり、終活の準備の一環として行われることがあります。遺言書と混同されることがありますが、遺言書との違いはたった1つ、法的効力があるかどうかという点です。
どちらも医療や資産、遺産相続などについて記載者が希望を書くことができますが、遺言書の場合法的効力が発生し、基本的に遺族はその内容に従わなければなりません。しかし、エンディングノートにはそれがありません。制度に縛られることなく記載者がより自由に書くことができ、それが近年、エンディングノートが普及し始めている要因の1つと考えられます。
書店や文房具店で市販されている様々な種類のエンディングノートを活用すれば非常に便利ですが、無地の大学ノートに書き記しても良いでしょう。
書き方は自由です。一般的には自身のお葬式への希望、預貯金や不動産といった財産の扱いの指示などを記すことがあるですが、家族や友人へのメッセージを残してもいいし、自身の気持ちを文章に書き連ねてもいい。絵を書き込んでも良い。写真や新聞の切り抜きを貼り付けても良いでしょう。中には、金融機関の口座番号や暗証番号といった個人情報を記録する方もいらっしゃいます。
ただ、ここで1つ注意しなくてはならないのは、どこにエンディングノートを保管しておくかということです。エンディングノートの記載者が保管場所を誰にも知らせずわかりにくい場所に保管してしまったために、遺族が大変な負担を強いられたという事例があります。
あまり知られていませんが、実は非常に重要なエンディングノートの保管場所。今回はその注意点やポイント等ことについて解説いたします。
【 目次 】
1. エンディングノートの保管場所を決める際の留意点
エンディングノートの保管場所はどこが最適か。一般的にどこが最適、ということが示されているわけではありません。エンディングノート記載者それぞれが置かれた状況や自宅の様子などが異なるためです。
仮にエンディングノートの保管場所として望ましい条件をあげるならば、こうなります。
- 盗難に合わない場所
- いざという時に見つかりやすい場所
盗難に合わない場所ということは、空き巣のような自宅への侵入者が簡単に見つけることができない場所ということになりますが、それでいていざという時にすぐに見つかる場所・・・
両者は相反する条件のように思われますが、エンディングノートの保管場所としてこの2条件を満たす必要があるのは、以下の理由からです。
まず盗難についてです。エンディングノートは記載者本人や家族、親族にとって大変重要なものになりますが、一般的に見るとただのノートであり、金銭的に価値があるようなものではありません。ただ、記載内容次第では金銭的価値を帯びてくる可能性があります。なぜなら銀行口座などの金融資産に関する個人情報が記載されている場合があるためです。
そうでなくとも、エンディングノートは記載者のこれまでの人生を振り返ってその想いを綴ったものであり、記載者の家族にとってはお金以上に意味のある、非常に重要な書類となります。よって、エンディングノートの盗難には厳重に注意した方が良いでしょう。
では、いざという時に見つかりやすい場所に保管する必要があるのはなぜか。基本的にエンディングノートは、記載者が病気を患った時や意識不明の状態となった時、亡くなってから葬儀の後に家族が見るものです。事前に、記載者が家族にエンディングノートの保管場所を伝えていれば問題ありませんが、家族に保管場所を伝える前に記載者本人にしかわからないような場所に保管してしまうと、残された家族がエンディングノートを確認できないという事態が発生します。
例えば、家族と離れて1人暮らしのエンディングノートの記載者が急病で搬送、救急医療で一命はとりとめたが、その後介護が必要な状態となった場合、それは家族にとって非常に重要な書類になります。
エンディングノート内の項目として、記載者の財産に関する事項や保険、不用品、仕事関係者の連絡先、そして飼っているペットについても記載されていることがあるためです。
以上に理由により、相反する2条件ではありますが、エンディングノートはこれらを満たす場所に保管することが望ましいということになります。
2. 一般的なエンディングノートのおすすめの保管場所
では、具体的にどの場所の保管するのが良いのか。この場所が良い、と書いてしまうと盗難対策にならないので、ここでは一般的にエンディングノートが保管されている場所についてお話いたします。
保管場所といってもそこまで大袈裟に考える必要はなく、やはり保管場所は自宅になります。盗難対策は必要ですが、それでも数十年に渡り誰も見ることがない天井裏のような場所に保管する必要はなく、日常生活で目につきやすいような場所に保管しておいても良いでしょう。例えば、以下のような場所です。
- 仏壇
- 本棚
- 食器棚
- 机、サイドテーブルの引き出し
- 金庫
これらは、記載者本人が亡くなった後でも比較的見つけやすい場所です。盗難対策の観点からもオススメできます。ただし、机やサイドテーブルは他の貴重品を保管しているご家庭が多いので不向きかもしれません。
あと作成中、編集中だからといって、テーブルの上などに置きっ放しの状態は極力避けるべきです。日頃から部屋の整理をしておき、空き巣に隙を見せない状況作りも重要です。
3. データ版エンディングノートのおすすめの保管場所
技術革新が著しい昨今、エンディングノートもデジタル化が進み、パソコンで作成するデータ版エンディングノートが誕生しています。
データであるため、手書きのものよりも自由度が格段に高く、文章はもとより写真や画像、動画での保管も可能です。データならではのメリットも非常に大きく、専用のアプリをダウンロードすれば、より簡単に作成することもできます。データは文章作成や修正、編集などが非常にやりやすく管理も容易です。これらはデジタル遺品と呼ばれます。
では、データ版エンディングノートの場合の保管はどうなるのか?この場合、紙媒体のものとは保管スタイルは全く異なります。
データ版であるために、保管場所はパソコン内、もしくはUSBや外付けハードディスクと言うことになりますが、Google Driveやdropboxのようなクラウドサービスを利用すれば、パソコンだけでなくスマホから閲覧や編集、修正が可能です。物理的にどこかに保管する、必要がなくなるわけです。
ただし、これにもデメリットはあります。エンディングノートは年配者が作成することが多いため、まずある程度のパソコンやスマホの知識が必要になるということです。
また、盗難対策のためにパソコンやスマホにパスワードを設定する場合、そのパスワードをメモに記入するか記憶しておく必要があります。うっかりメモを紛失してしまうと、二度とエンディングノートの中身を閲覧できないと言うトラブルが発生してしまいます。
クラウドサービスを利用する場合はネット接続が必要となり、ウィルス感染やハッキングなどの危険も発生します。
データ版エンディングノートを作成する場合、データ版のメリットとデメリットを踏まえた上で、適切に管理することが重要です。基本的には紙媒体よりも便利であり、保管も容易、そして長年にわたり劣化することがありません。今後、データ版エンディングノートを利用する方が増えてくることでしょう。
4. 避けるべき保管場所とその理由
ここまでお話してきたように、エンディングノートはその資料の性格から、保管場所に十分注意する必要があるということがご理解いただけたと思います。
ここでは、エンディングノートの保管場所としてふさわしくない、避けるべき保管場所とその理由についてお話いたします。
避けるべき保管場所は金庫、あるいは金融機関の貸金庫です。空き巣によるエンディングノートの盗難は、最も避けるべき事態の1つであることは言うまでもありませんが、かといって金庫に厳重に保管することが必ずしも正しいとは限りません。
先ほど一般にエンディングノートを保管する場所として金庫を例にあげましたが、例えば、記載者本人専用の金庫を購入して、そこに厳重に保管するということは避けたほうが良いでしょう。
家族がエンディングノートを閲覧するタイミングは、記載者本人が病気を患い極端に判断能力を失った時、あるいは亡くなってしまった時などです。葬儀の後、家族が遺品整理のためにすぐにその金庫を開けることができれば問題ありません。しかし、記載者本人しか知らない暗証番号などでロックされていると、エンディングノートの閲覧が極めて困難になります。
時間をかけて金庫を解錠、ようやくエンディングノートの閲覧ができたとしてもそこまでに時間がかかりすぎたために、そこに記載されている記載者の望みを叶えることができなくなってしまった、といったことも発生しています。
貸金庫での保管も同様の理由で避けたほうが良いでしょう。
ただ、家族がすぐに開けることができる金庫であれば、そこに保管することは問題ないかと思います。
5. エンディングノート保管サービスを利用するという方法も
このように保管方法が難しいエンディングノートですが、近年、弁護士や司法書士、税理士のような相続に関する専門家の事務所がエンディングノートを預かり保管するというサービスを行なう場合があります。
作成したエンディングノートを事務所に預け、いざ作成者が病気、もしくは死亡した時に、遺族は適切なタイミングでエンディングノートを受け取ることができます。法を専門とする事務所が他の重要書類とともに預かってくれるので、盗難の危険性もほぼないと思っていいでしょう。
もちろん費用は発生しますが、考えられる限り最も適切な保管場所と言えるでしょう。
利用を検討する場合は、ネットでエンディングノート保管サービスを行っている事務所を検索し、連絡をとって相場や手続きの方法、流れなどを相談してみましょう。お金などの条件に合い対応等で問題がなければ、そこで改めて依頼し契約を交わしても良いでしょう。
6. 保管場所を伝えるべき相手
では、エンディングノートの存在や保管場所を誰に伝えておくのが適切なのか。エンディングノート作成者の人間関係や様々な事情が絡むため、一概にいうことはできませんが、一般的には家族や親族などの血縁関係者、親しい友人等が該当します。
もちろん相続人もそれに該当すると考えられます。ただし、前述したように、エンディングノートには法的効力はありません。そのためエンディングノートに相続人の指定がされていたとしても、それが法的に有効になるわけではないのです。
被相続人であるエンディングノート記載者が、残された遺族のために、自身の銀行口座や暗証番号をそこに記しておくこともあるでしょうが、それと相続とは全く別の話になります。
自身の人生や気持ちをエンディングノートに託し、それを家族や親族が読んで故人を偲ぶ。それにふさわしい人がエンディングノートの次の管理者になるべきであり、作成者はそういう人を見極めてエンディングノートの保管場所を伝える必要があるでしょう。
7. まとめ
冒頭でもお話した通り、エンディングノートとは、自分の人生の終末について書き記したノートのこと。若くしてエンディングノートを作成しようという人もごく稀にいらっしゃいますが、その多くは人生の黄昏時を迎えた年配の方々です。
最初は軽い気持ちで書き始めたとしても、過去を思い出すうちに記憶が徐々に鮮明になり、ペンにも力が入る。やがてエンディングノートは、作成者にとって自身の人生そのものを書き記したかけがえのない代物となります。
文章作成が苦手だという人は、市販のエンディングノートを購入しても良いし、データ版エンディングノートの準備をして専用アプリをダウンロードしても良いでしょう。
市販のものは毎年更新され、次々と新しい工夫が施されたエンディングノートが発売されています。2021年度現在の最新版は、まるで20代の若者が使うかのような明るくデザイン性の高いものとなっています。
もちろん残された家族にとってもエンディングノートは、二度と手に入れることができない極めて貴重な資料です。それだけに作成者は、保管場所に十分注意しなくてはならないでしょう。
盗難対策のために厳重に保管でき、なおかついざという時にすぐに見つかる場所。作成者は、相反する2条件を満たす保管場所、保管方法を考えなくてはなりません。
それが残された家族に対する、作成者の最後の責任なのかもしれませんね。