【 目次 】
1.負動産とは
一人暮らしの親が他界し空き家となった一戸建ての住宅と土地を相続したが、移り住むこともなく、不動産の活用に必要な知識もなくただ管理の責任と固定資産税の納税義務が発生するだけの財産となってしまった・・・
地方の過疎化が進む中、このような不動産が多く発生しており多くの相続人を悩ませています。住む予定も使い道もなくただ管理の責任と納税義務だけが発生しているような不動産は「負動産」とも呼ばれます。
2.負動産の特徴
不動産を所有する経緯が様々であるのと同様、「負債となってしまった不動産」が負動産となった状況や経緯も様々です。
近年頻繁に発生している負動産の事例が、冒頭でもお話した親から相続した不動産が負債となってしまったケースです。住む予定がないため空き家になってしまうけれど、せっかく親が残してくれた形見だし、もし不要となったら売却すれば良い、とあまり深く考えずに相続し登記した不動産。
しかし、所有する以上は固定資産税や都市計画税のような税金がかかり、所有者にとって大きな負担となります。
土地だけならば負担は固定資産税等の納税のみとなりますが、建物と土地を相続した場合は、建物の管理義務をも負うことになります。
通常、空き家が建っている土地の固定資産税は、税額が6分の1に減額される措置が取られます。つまり、空き家と土地の双方にかかる固定資産税の負担が軽減されることになりますが、平成25年2月に施行された「空き家対策特別措置法」によりこの減額措置がなくなってしまったため、空き家と土地に対する負担が大幅に増えてしまうのです。
相続以外にも土地を所有する経緯はあります。例えば、不動産投資のために購入した不動産が負動産となってしまった、いわゆる不動産投資の失敗例です。
代表的な例は、不動産購入時期を間違えてしまったことによる失敗です。土地価格が高騰している時期に購入してしまうとその後土地の評価額は下がる一方です。しかも多くの購入者は、購入費用を銀行から借り入れています。そのため売却しても残りの負債を相殺することができず、利益を生むはずの不動産が負動産となってしまうのです。
大きな利益を見越して借金して購入した不動産、その失敗のダメージはことさら大きいと言えます。
相続や投資の失敗などで所有することになった負動産を所有する経緯は様々ですが、それらの特徴はとにかく金銭的なデメリットがあまりにも大きく、そして容易に手放すことができず長期にわたり所有しなくてはならないという点です。そのため何らかの対策が必要になります。
3. 日本で負動産が増加した背景
では、なぜ負動産とも呼ばれる不動産が増加したのでしょうか。その背景についてお話いたします。
まず少子高齢化等による不動産価値の下落、そして生活様式の変化です。以下はその典型例です。
父親がバブル景気の勢いに乗って土地を購入し、それを息子である自分が相続した。とはいえ、相続前から自分で購入した自宅を所有しており、また他の用途で使用する予定もないので売却したいと考えている。
かつてはとんでもない価格で売却できたらしいが、今は買い手すらつかない。知り合いの不動産屋に相談しているが回答はなく、それどころか、管理費や固定資産税などの負担が大きく持て余している状態だ。最悪、無料でもいいから手放したい。
不動産の相場は、その時代の世相や経済状況、社会情勢などに大きく左右されますが、今は不動産を購入する人が極端に少なくなっています。若い人の未婚化、晩婚化、非正規雇用の増加、共働き等の生活様式の大きな変化という事情がその背景にあると考えられます。
特に上記事例にあるように、親から相続した使い道のない不動産の増加により、買取されない不動産が供給過多の状態にあります。
事業をスタートさせるにも今は不動産が必須ではなくなってきました。かつては土地の購入や賃貸が必須だった店舗事業でもネットでの販売が可能となり、より効率的に事業をスタートさせることができるようになったのです。
また昨今ではコロナ禍の拡大・長期化により多くの企業で従業員に対しテレワークを採用、それにより広大な事務所スペースが不要となり、より縮小したスペースでの業務を行なうようになりました。
中には急激な社会の変化に対応が困難な企業もありますが、いずれテレワークでの業務が主流になると考えられます。
以上の結果により、不動産の果たす役割が大幅に制限され、負動産と呼ばれる不動産が増加している背景と考えられます。
4. 負動産の典型例
負動産の典型例は、親から相続した不動産、そして投資目的で購入した不動産など前述した通りですがそれだけではありません。前述した典型例意外に考えられる、非常に大きな負債となってしまう負動産の2種類についてお話いたします。
1つ目は「老朽化した分譲マンション」です。
約50年前の高度成長時代に大量に供給された分譲団地タイプのマンションの老朽化が進み、建て替え問題が発生しています。
もちろん建て替えすることができるならば問題ありませんが、分譲マンションは1つの建物を複数の権利者で共有するのが一般的です。建て替えには権利者の5分の4の許可が必要、マンション自体の解体には住民全員の許可が必要となりますが、所有者の高齢化や相続が発生しているが名義変更がなされていない場合なども考えられ、いずれにしても賛成を得るのは非常に困難です。
そして老朽化したマンションはもちろん立地次第ですが、いくら中古物件として平均価格より格安で売り出しても、買い手が見つからない場合が多く、手放そうにも売却が困難な場合が多いです。そのため、結局所有し続けるしかなくなります。
2つ目は「別荘・リゾートマンション」です。
バブル時代に乱立したリゾートマンションは現在大きく価格が下落しており、その一方で豪華な共用施設の維持管理費は非常に高額です。所有しているだけでお金が出ていく、まさに負動産です。
また、今後老朽化しつつある賃貸マンションやアパートも負動産になる可能性が高いと言えるでしょう。マンションの維持管理費や固定資産税は莫大であり、しかも年々入居者は減少していく傾向にあります。家賃収入による不労所得はおろか、アパート建設時の借金すら払えなくなってしまう可能性すらあり得るのです。
5. 負動産を所有し続けるリスク
前述したように、負動産を所有し続けることは負債を抱え込むことを意味し、それは非常に大きなリスクとなります。
ただ負動産を所有し続けることの最大のリスクは、「売るに売れない」という点にあると考えられます。
多くの地方で人口の減少による過疎化が進んでいることからもわかるように、今、不動産は供給過多の状態です。首都圏や政令指定都市のように開発が進み、土地価格が高騰している場所の不動産ならば大きな財産となる可能性もありますが、供給過多の地方の不動産を売却することは困難でしょう。地方を拠点とする企業も最近では多少見受けられますがそれほど多くなく、就職しようにも就職先である会社も求人も都市と比較すると極端に少ないため、そんな状態の続く地方では不動産の売買実績もそれほど多くないのが現状のようです。
また、首都圏であるとしても、前述のとおりコロナ禍による事業用不動産の需要は売買・賃貸ともに減少しているため、負動産となる可能性もあります。
もちろん買い手が見つかる可能性がゼロではありません。
しかし、買い手が見つかるまでの期間は長期になると予測され、その期間は所有者が維持管理を続けなければならず、固定資産税も支払わなければなりません。維持管理を怠ることで老朽化が進み、害虫や野生動物の栖(すみか)となって周辺住民とのトラブルに発展してしまうことも考えられます。
近年「1円不動産」という言葉が誕生した背景にもそのような事情があると考えられます。
売ることもできないため売却益など全く期待できない、それどころか所有するだけで毎月莫大なお金がでていってしまうというリスクから逃れるためには、たったの1円でも構わないので売却したい、という所有者の意図が表れています。
別荘・リゾートマンションについては所有し続けることによるリスクはさらに深刻です。設備が整った物件が多いため通常のマンションよりも維持管理や修繕にかかる費用が高く、また固定資産税も払わなくてはなりません。
しかも、売却も寄付も困難な場合が多く、周囲住民とのトラブルを避け良好な関係を維持するためにも所有者が管理せざるを得ません。いろんな意味であまりにも大きな負担であり、大きなリスクです。
6. 負動産を富動産に変える活用法
ここまでお話したように、不動産を負動産のまま所有し放置していると、所有者は金銭面でもかなりの負担を強いられてしまうことになりかねません。しかし、いくら負動産とはいえ土地は1つの資産です。使い方次第では負動産から有益物件、つまり「富動産」に変化させることも可能です。以下、そのおすすめの方法についてお話いたします。
まず親から相続した不動産です。ただ維持管理の手間と固定資産税がかかるだけの負動産となっているならば、建屋をリフォーム、リノベーションして売却、もしくは賃貸物件とすることができます。
物件の条件次第では安価なリフォームをすれば見違えるように綺麗になりますし、リノベーションすればより魅力的に生まれ変わります。
リフォームやリノベーションには費用が発生しますが、事前にしっかりと市場調査を行ない売却か賃貸の可能性があると判断するならば、そこに投資する価値はあると考えられます。
物件の場所が地方であったとしてもコロナ禍により一般の人の生活様式が大きく変わりつつある今、需要が見込める可能性があります。これまで通勤のため、と東京をはじめとする大都市圏などに住む人が多くいましたが、テレワークでの仕事が主流になってきており、地方の需要が高まる可能性があります。今後、事務所での業務のみならず、顧客との商談でも現地に行かずにパソコンで商談を進めるケースも増えていくでしょう。
市場調査や不動産専門家からの意見聴取は必要ですが、負動産であってもリフォームによって富動産へと変わる可能性はあります。
また、田舎暮らしが流行している昨今、コロナ禍により就業場所を選ばないワークスタイルが加速しつつあります。所有者の就職先や業種、業務次第では、リフォームした家に所有者自身が移り住んでもいいかもしれません。
近年では、老朽化した家を安価で購入し、リノベーションしてレストランやバーを開業する事例もあります。
また、古い建屋を解体して更地にしてしまうことも1つの手段です。更地にすることによって売却しやすくなるというメリットがありますし、買い手が見つかるまで時間がかかったとしても、更地ならば不動産の維持管理の手間はほとんどありません。
税金は上がる可能性が考えられますが、建屋の維持管理にかかる手間や費用を考えると、メリットは大きいかもしれません。
「老朽化した分譲マンション」についても、市場調査の結果次第では、リフォームすることで買い手、もしくは借り手がつく場合があります。もちろん所有者自身が移り住んでもいいでしょう。
「別荘・リゾートマンション」については、リノベーションすることで外国人や海外の不動産業者、投資家に対する需要が生まれる可能性があります。とはいえ、やはり市場調査は必要なので、負動産となってしまっている不動産ならば専門家に相談し検討するべきでしょう。
稀な事例として、国や地方自治体が線路や道路にするための用地として土地を買収する場合があります。そうなれば比較的大きな売却益が見込める可能性があります。
また、場所次第では地方自治体が寄付を受け付けていることもあるので、行政に問い合わせてみても良いでしょう。
負動産であっても、富動産に変化させる可能性は十分あります。不動産の活かし方をしっかりと把握して可能性のある方法を検討するべきと考えます。
7. 負動産を手放すか否かの判断基準
基本的に、不動産を所有することによる出費で生活が逼迫しているか、もしくは近い将来その可能性があるならばすぐに手放すことを考えるべきです。
もちろん前述したように、負動産であってもリフォームすることで富動産に変化させる可能性がありますが、リフォームする費用の捻出が厳しいのであれば、やはり手放すことを考えるべきであると考えます。
ただ不動産はその性格上容易に手放すことができず、どうしても維持管理や納税の義務が付きまといます。仮に不動産を所有することによって所有者の生活が逼迫している現状があるならば、出来るだけ早い時期に行政か弁護士、もしくは不動産の専門家に相談すべきです。行政ならば無料で相談にのってくれますし、弁護士や不動産の専門家ならば不動産を手放す際の注意点や業界の現状について法律に基づいた解説をしてくれますし、費用はかかりますが手続きを代行してもらえる事務所もあるはずです。
8. まとめ
不動産価値は上昇し続けると言われたバブル期の土地神話も今は昔、「負動産」や「1円不動産」などという言葉すら生まれるほど、場合によっては不動産の価値は下落することもあります。
一方で、首都圏や政令指定都市の土地価格は高騰していく傾向にあり、過疎化が進む地方とは対照的かもしれません。
一般的に首都圏や政令指定都市の土地価格は高騰することが考えられます。
不動産の価値はその時代の世相や社会情勢、政府の方針が大きく影響するものであり、断言はできませんが地方の土地がそのままさらに下落し続ける可能性は高いかもしれません。
今は、コロナ禍により一般の人の生活様式が大きく変化している真っ只中であり、変化の着地点がどうなるか次第で不動産の価値も大きく影響を受けると考えられます。
現在不動産に関し判明している事実は地方の過疎化に歯止めがかからず空き家が増加していること、そしてテレワークが一気に普及し始めたこと等です。
これらの事実がこれから先の不動産市場にどのような影響を与えるかの予測は、市場調査のプロやノウハウを持った不動産業界の専門家にお任せするしかありません。
ただ負動産に位置付けられる不動産を所有している方々は変わりゆく状況を見ながら、専門家への意見を聞き対処していく必要があるでしょう。
もちろん所有する負動産により生活が逼迫している人は早急に手放すことを考えなくてはなりませんが、金銭的に余裕のある人は、ただ負動産を所有するだけではなく、いかにして有効利用して富動産に変化させていくかを考えることも一つの方法です。
業務のテレワーク化が進む今、ただ所有するだけの不動産は負動産になるばかりです。
これからの時代、不動産所有者自身がいかにして自身の所有する不動産の有効活用について考えていくことが重要となってくるかもしれません。