超高齢化社会の進む現代日本の抱える問題は多くありますが、その一つとして介護が必要とされる人口の増加があります。
様々な理由から介護施設に入居できず自宅で介護を受けながら生活している方は多く、その中でも介護する人・される人の双方が65歳以上である「老老介護」の割合は6割に迫っているという調査結果が2020年7月に厚生労働省から示されました。(2019年の国民生活基礎調査より)
老老介護は介護する側の負担は大きく、介護疲れを原因とする事件も度々起きており、このようなニュースを聞くたびに心が痛みます。
介護を必要とする65歳以上の高齢者の増加や老老介護について、政府は在宅介護・介護予防等を重視した政策を示し、地域包括ケアシステムシステムの構築を推進するなどしていますが、それでも思うようなサービスを受けることがきない人々も多くいるようです。
このように、進む超高齢化社会は介護問題をはじめ様々な問題を抱えていますが、この高齢化が進んだその先にはさらなる問題が待ち構えています。
老老介護と同様に、高齢な親や配偶者や兄弟姉妹が死去し、年老いた子や兄弟が相続人となる「老老相続」という現状があります。
財産を相続するのであれば、高齢であっても特に問題はないのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんがそうではありません。
老老相続は高齢であるがゆえに様々な面から不都合が生じてしまうのです。
老老相続の一番の問題点は、相続人が認知症を発症する可能性が高く、相続手続きに支障をきたすことですが、高齢であるがゆえに相続財産に含まれる不動産や預金等現金などが流通しにくいことなども挙げられます。
【 目次 】
1.老老相続の問題点
(1)認知症の発症
高齢であっても心身ともに健康である方も少なくありませんが、突然認知症を発症し、あっという間に話を理解することができないということも珍しくないでしょう。
私の事務所へも意思疎通ができないご両親を含む相続手続きについての悩みを抱える方々のご相談が日々寄せられます。
また、健康であっても突然脳梗塞で倒れるなどの可能性も高くなり、一命は取り留めたとしても意思疎通が難しくなることも考えられます。
このように、高齢になればなるほど認知症等のリスクは高くなり、相続人の中に意思能力の欠如した方がいる場合は遺産分割協議を行うことができず、法定相続割合で分割することになります。
法定相続割合で相続手続きをした場合、税金面で不利になる場合や不動産が共有名義になる可能性があるなどデメリットが生じます。
共有名義の不動産の問題点は、売却する場合共有者全員の合意が必要となりますが、認知症者は判断能力がないために成年後見制度を利用するなどしなければ売却を進めることができません。
後述していますが、売却できずに空き家になるケースもあり、その場合は管理費用の面だけでなく防犯面などについてもリスクが高まります。
このように共有名義の不動産は様々な問題を抱える可能性が高くなります。
また、判断能力のない相続人を含めて遺産分割協議を成立させたい場合、成年後見制度を利用することもできますが、その場合は利益相反とならないように第三者である専門家が選任される場合がほとんどです。
成年後見制度の利用については月々報酬が発生することに二の足を踏む方が多く、そのため遺産分割協議を断念し、法定相続通りに相続するケースが多いのが現状です。
いずれの手段にしても、認知症を発症してしまうと相続手続きが複雑になってしまいます。
(2)実家の空き家問題
老々相続は被相続人・相続人ともに高齢で自宅不動産を所有しているケースが多く、ご両親の実家不動産を相続しても住むことなく空き家になることが珍しくありません。
住人がおらず空き家となった不動産にも管理費や税金など一定の経費もかかりますし、老朽化した屋根や壁などを修繕する費用もかかるため、想像よりも費用や手間がかかってしまいます。
相続財産に負債がないのであれば相続後に不要な不動産を売却すればよいのですが、立地条件の悪さなどで売却でができずにお困りであるというご相談は大変多くいただきます。
「自分の死後、子や孫に手間と費用のかかる『負動産』を相続させたくないので相続放棄したい」という、切実な悩みを訴えるご相談者様もいらっしゃいます。
売却の可能性が低く、手間と費用のかかる不動産を相続したくない場合は相続放棄手続きを取りますが、次に不動産を管理する者が決まるまで管理義務はなくなりません(民法第940条)。固定資産税などの支払いをする必要はありませんが、自分の持ち物と同じように管理する必要があります。
管理義務を回避する方法としては家庭裁判所へ相続財産管理人選任の請求し、相続財産管理人が相続財産の清算を行いますが、相続財産管理人選任申立は多額の予納金等の費用がかかることや、清算手続完了まで最低1年以上の期間が必要になります。
したがって、相続放棄手続きが認められ、相続財産管理人が選任されればすべてが解決して終わる、という単純な話ではありません。
空き家については既に社会問題となっていますが、老々相続の増加に伴い、相続した実家が空き家になるケースは今後さらに増加していくのではないでしょうか。
(3)代襲相続・数次相続の発生
老々相続では被相続人だけでなく相続人も高齢である場合が多いため、代襲相続や数次相続が発生している場合は少なくありません。
相続人と疎遠である場合は連絡先を知らない場合もあると思われますので、遺産分割協議がスムーズに進まない可能性があります。
また、相続が発生して時間が経過するほど代襲相続や数次相続の発生により相続人が増加することで手続きが複雑化します。
⓵代襲相続
「代襲相続」とは、法定相続人である子や兄弟姉妹が死亡または相続権を喪失している場合(相続欠格・相続廃除)、本来の相続人である者の子が相続することを言います。
被相続人の子(第一順位)が死亡している場合は被相続人の孫、被相続人の兄弟姉妹(第三順位)が死亡している場合は被相続人の甥姪が相続人となります。
⓶数次相続
「数次相続」とは、相続開始後、相続手続きが完了していない間に相続人の一人が死亡し、次の相続が開始することをいいます。
2.老々相続でトラブルにならないための生前対策
このように、老々相続は被相続人・相続人ともに高齢であり、その子たちも老齢である場合も考えられるため、様々な問題が起こる可能性があります。
前述している通り代襲相続や数次相続が発生し、また、相続人の中に離婚・再婚を繰り返している場合などはさらに相続人が増え、会ったことのない相続人と話し合いをしなくてはいけない可能性もあります。
事前に遺言書を作成し対策をしっかりしておくことで、相続人同士の不要な争いを防ぐことができる場合がありますので、残される相続人様のことを考えて早めに生前対策を進めるようにしましょう。
遺言書にはいくつかの形式がありますが、一般的には自分で作成する「自筆証書遺言」と、遺言者と2人の証人とで公証人役場へ行き、公正証書を作成する「公正証書遺言」を利用することが多いでしょう。
(1)自筆証書遺言のメリットとデメリット
自筆証書遺言のメリットは費用をかけず、自分一人で作成できることです。
証人も必要ありません。
デメリットは、不備のある場合、遺言が無効になってしまう事です。
自筆証書遺言については2018年に相続法が改正され、財産目録部分についてはパソコンで作成可能になりました(自筆証書遺言の方式緩和)。
また、2020年に自筆証書遺言の保管の申請が可能になり、2020年7月以降に法務局に保管申請した遺言書につきましては家庭裁判所での検認は省略されます。(自筆証書遺言保管制度)
ただし、法務局に保管申請したとしても遺言の内容の良し悪しについては審査されるわけではありません。
(2)公正証書遺言のメリットとデメリット
公正証書遺言は公証役場で公証人が作成した遺言書です。
証人2人以上立ち合いのもと、遺言者は公証人に口頭で遺言書の内容を伝え、公証人が文章にまとめ作成します。
メリットは公証人が作成しますので、不備で遺言が無効になるという心配がありません。
デメリットは費用がかかる事です。
3.生前の元気なうちに遺言書や家族信託で対策を!
超高齢化の進む日本には、上記で述べいていますように相続問題のほかにも、介護や医療、年金など多くの問題が山積みです。
特に相続問題に関しましては、被相続人の意思通りの相続になる事ももちろんですが、残された相続人同士がもめないように配慮すべきでしょう。
財産にはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含まれますので、借金のある場合や空き家になる可能性のある不動産をお持ちの場合は、生前からできる限りの対策をすることをおすすめします。
冒頭に述べいてますが、老々相続では相続人が認知症を発症する可能性は多分にあります。
認知症になってからでは手続きは大変困難になりますので、生前の元気なうちに相続の専門家へ相談し、遺言書を作成し、相続手続きをスムーズに進めましょう。
また、最近利用者が増えてきている「家族信託」は認知症対策としてにメリットは多く、自営業者の方の場合、いずれ親族へ事業承継をお考えの場合はメリットが多い制度ですので検討しても良いではないでしょうか。
遺言書作成や家族信託など、生前の元気なうちに対策をすることで、突然相続が発生した時にでもスムーズに相続手続きを進めることができます。
どのような生前対策や相続手続きが自分たちにとって最適なのか専門家へ相談し、相続人全員が納得できる円満な相続になるように早めの対策を心がけるようにしましょう。