「うちは資産家ではないので、相続財産目録は必要ない」とお考えの人もいるかもしれません。
いえいえ。相続財産目録は、資産の多寡にかかわらず、作成しておくと便利なものなんです。
相続財産目録とは、被相続人の財産の内訳を一覧で判別できるようにしたリストのことです。
財産目録は必ず作成しなければならないものではありませんが、遺産分割協議の資料、相続税の申告、相続対象財産の明確化、遺言書の作成など様々な場面で役に立ちます。
以下のケースに該当している人は、特に相続産目録を作成することをおすすめします。
- 相続の生前対策を考えている方
- 遺言書を作成しようとしている方
- 遺産分割協議を始める方
- 相続税の申告が必要な方
- 被相続人の財産の詳細が全く分からない相続人の方
- 相続放棄、限定承認を検討している方
また、上記には該当しない場合であっても、財産目録があればさまざまな手続きを円滑に進めることができます。
本稿では、相続財産目録を作成するメリットや作成方法、注意点を解説していきます。
【 目次 】
1.相続財産目録とは
相続財産目録とは、被相続人の財産の内訳や評価額などの全てを記載したリストのことです。
相続財産目録には、預貯金や不動産などプラスの資産だけでなく、借金やローンなど、マイナスの負債も全て記入し、合計額や差引額など相続財産の状況を示します。
相続財産目録を作成することで、財産の全容について把握することができ、相続をスムーズに進めることができます。
可能であれば、生前のうちから相続財産目録を作成しておくことをおすすめいたします。
2.相続財産目録を作成する目的
相続財産目録は、資産を見える化することで遺産相続に役立ちます。
資産の全容が把握できれば、遺産分割を公平かつスムーズに進めることができます。
また、借金や負債が多い場合は相続放棄をする判断材料になります。
(1)遺産分割協議の資料として利用する
遺産分割協議では、被相続人の遺産を「誰が」「何を」「どの割合」で相続するかを決定します。
相続財産目録がなければ財産の全容が分からず、協議を進めることができません。
当然ですが、遺産分割協議が進まなければ、財産の名義変更の手続きもできません。
(2)相続放棄や限定承認の判断材料になる
相続財産に借金や負債が多かった場合、相続放棄や限定承認をするのも選択肢のひとつです。
しかし、相続放棄や限定承認をするには期限があり、相続が発生した日から3ヶ月以内に手続きをしなければなりません。この期限が過ぎてしまうと、相続財産に負債があったとしても全ての財産を相続する単純相続をしたことになってしまいます。
相続財産目録で財産の全容を把握できていれば、相続方法をスムーズに決定することができます。
また、もし仮にマイナスの負債があることを知らずに遺産分割を実施し、3ヶ月以上経過した後に借金が発覚した場合、相続放棄は困難となってしまいます。そのようなトラブルを回避するためにも、相続財産目録の作成は有効な手段です。
(3)相続税の申告が楽になる
相続財産目録は、相続税の申告時にも利用できます。
財産目録を参照すれば、相続税申告の要否判断がスムーズにできます。
また、相続税の申告が必要となった場合には、相続財産一覧表を作成する必要がありますが、その際に財産目録を参照することで相続税申告が楽になります。
なお、相続税の申告後に漏れが発覚すると、追加納税や延滞税などのペナルティが発生してしまいます。相続財産目録を作成する際は、すべての財産が漏れなく記載されるよう注意が必要です。
また、相続税申告にも期限があり、相続開始を知った翌日から10ヶ月とされています。あらかじめ財産目録を作成しておけば、期限が迫って焦る場面をある程度回避できます。
(4)遺言書の作成がスムーズになる
被相続人が財産目録を作成して遺言書を作成する場合、財産目録を作成することで、「誰に」「何を」「どのくらい」分配するか把握しやすくなります。
また、これから自筆証書遺言を作成する場合は、財産目録はパソコンで作成しても大丈夫です。
2019年施行の民法改正(参考:法務省サイト「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」)により、自筆証書遺言を作成するときに添付する財産目録はパソコンで作成したものでも有効となりました。
ただし、自筆証書遺言の本体部分は自筆する必要があり、財産目録の各ページに署名押印が必要なので、その点は注意が必要です。
(5)資産の存在を伝える
被相続人が亡くなった後に、相続人たちで遺産を調査するのはかなり大変です。
例えば財産の中に債権があった場合に、もし相続人たちが存在に気付かなければ時効で消滅してしまい、相続できないこともありえます。
生前から財産目録を作成しておけば、相続人に資産の存在をしっかり伝えることができます。
また、調査にかける相続人の負担を減らすことができます。
(6)本人が作った相続財産目録があると、争族回避につながる?
もし財産目録がなかった場合、相続人の中で遺産の全容を把握している人、把握していない人に分かれてしまいます。その際、把握していない人が「本当は隠し財産があるのではないか?」と疑心暗鬼になってしまい、そこから争いに発展してしまうことがあります。
もし本人が作った財産目録があれば遺産が一目で分かりますので、相続人同士が疑心暗鬼になってしまうことがありません。
また、財産目録があれば一部の相続人が相続財産を隠匿することも難しくなり、より公平に相続を進めることができます。
自分の遺産をめぐって親族同士が争う、というのは故人にとって最も回避したい事態かと思います。
相続がスムーズに進むよう生前のうちに相続財産目録の作成を検討してみてはいかがでしょうか。
3.相続財産目録に記載する財産の種類
相続財産目録には、相続の対象となる財産全てを記載する必要があります。
不動産や預貯金などのプラスの資産だけでなく、借金や債務、ローンなどマイナスの負債もしっかり記載しましょう。
以下に、記載する財産の種類を列挙します。
各項目の記載事項、注意点は後掲する「5.相続財産目録の作成手順と注意点」を参照してください。
- 不動産
- 預貯金
- 有価証券
- 生命保険
- 自動車
- 動産類(絵画、時計、宝石類、骨董品など)
- その他
- 負債
負債の項目はプラス財産と同じくらい重要です。
これは相続放棄をするかどうかの判断基準にもなります。
4.作成前に必要な準備
相続財産の調査
相続財産目録を作成するためには、まずは相続財産の内容を適切な方法で詳しく調査を行う必要があります。
抜け漏れがあっては作成した意味がなくなってしまいます。
特に、被相続人ご本人ではなく、ご遺族の相続人が調べる場合には漏れが発生しやすいので注意する必要があります。
相続財産の調査は簡単ではありません。
預貯金等の場合は取引金融機関を調べて残高証明書の発行を依頼する必要があります。
また、不動産については役所や法務局で固定資産評価証明書や全部事項証明書を取得し、不動産評価額を査定するなど、必要な作業は多岐にわたります。
1人で調べるにはかなりの専門知識と労力が必要になりますので、司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
5.相続財産目録の作成手順と注意点
(1)相続財産目録の作成手順
相続財産の調査をしたら、財産内容を整理して表にまとめ「相続財産目録」を作ります。
財産の内容を分かりやすく、正確に記載することが大切ですが、決められた書式やフォーマットはありません。
以下に作成手順を記載します。
①「資産の部」と「負債の部」に分ける
財産を整理するために、まずは「資産」と「負債」に分けましょう。
②財産の種類別に内容を記入する
財産の「種類」「所在」「数量(評価額)」がわかるように記載しましょう。
また、評価方法や評価基準日時も記載しておくと便利です。
・不動産
不動産を財産目録に記載する際は、登記簿謄本等を確認して、土地については「所在」「地番」「地目」「地積」を、建物については「所在」「家屋番号」「種類」「構造」「床面積」を、正確に記載しましょう。
また、不動産の評価方法には、実勢価格・路線価格・固定資産評価額などさまざまな方法があります。どの方法を採用するかによって相続財産としての評価額が大幅に変わる可能性があるため、不動産に強い専門家に相談するとよいでしょう。
・預貯金
「金融機関名」、「支店名」、「預金の種類」、「口座番号」、「残高」を記載しましょう。
被相続人が既に亡くなっている場合は、銀行や金融機関に残高証明書を請求します。
・有価証券
「金融機関名」、「種類」、「銘柄名」、「数量」などの必要事項を記載しましょう。
これについても、被相続人が既に亡くなっている場合は、金融機関に残高証明書を請求しましょう。
・生命保険
受取人が被相続人の場合には相続財産に含まれます。「保険会社」、「種類」、「保険証券番号」、「金額」などの必要事項を記載しましょう。
なお、受取人が被相続人でない場合には相続財産には含まれませんが、相続税を算出する場合においては「みなし相続財産」として相続財産に含まれます。「500万円×法定相続人の数」が非課税限度額となり、その額を超えた部分を他の相続財産と合わせて、課税対象となる遺産総額を算出します。
・自動車
対象となる相続財産を特定できるよう「車種」、「型式」、「自動車登録番号」、「車台番号」、「個人名義・会社所有の区別」、「評価額」などを記載しましょう。
・動産類(絵画、時計、宝石類、骨董品など)
高額と思われるものは一点ずつ記入しましょう。
評価額が分からないものは、可能であれば鑑定に出すとよいでしょう。
・その他
ゴルフ会員権などが含まれます。漏らさず記載しましょう。
・負債
「借金」、「買掛金」、「未払い家賃」、「未払いの税金」などのほか、「保証人の地位」も該当します。
どこからの負債で、いくらの残債があるか明らかにしましょう。
③資産の合計額・差引額を算出
「資産の部」と「負債の部」それぞれの合計額を算出し、記入しましょう。
合計額や差引額など相続財産の状況を分かりやすく記入すれば、相続財産目録が完成です。
(2)相続財産目録の注意点
財産の特定ができるように記載する
相続財産の「種類」「所在」「数量」が把握できるように記載しましょう。
また、不動産情報や口座情報などは、つい簡略化して記入したくなってしまいます。
後々に財産情報をスムーズに特定できるよう、簡略化はせず可能な限り詳しく書きこむようにしましょう。
定期的に更新する
資産状況は日々変わりますので、生前に財産リストを作成した場合は、年に一度くらいは見直してアップデートを行いましょう。
6.相続財産目録に関する相談先
相続財産目録の作成は、必ずしも専門家に相談しなければならないものではありませんが、正確な財産目録を作成したい場合は司法書士、弁護士、行政書士などの専門家へ相談してみてはいかがでしょうか。
次に該当する方はぜひ司法書士への相談をおすすめします。
- 相続財産目録の作成方法が分からない
- 資産の全容を把握しきれていない
- 相続財産目録を作成する時間と手間を省きたい
また、司法書士は相続財産目録の作成だけでなく、以下の事例についても得意分野にしています。
- 相続のお手続き
- 贈与のお手続き
- 遺言書の作成
- 家族信託の設計 など<
- 遺産分割協議の資料
- 相続放棄や限定承認の判断材料
- 相続税の申告
- 遺言書の作成
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相続・贈与・遺言書作成などには悩みが付きものです。
財産目録の作成についてだけでなく、その他のお悩みもぜひ、司法書士にご相談ください。
まとめ
相続財産目録は、財産の全容を把握するための便利なリストです。
相続財産目録は、資産家でなくても作成しておくと便利です。次の場面で使えます。
相続財産目録には、プラスの資産だけでなく、マイナスの負債も漏れなく記入しましょう。
資産状況は日々変わります。生前に相続財産目録を作成した場合は、年に一度くらいはアップデートをしましょう。
相続財産目録の作成は意外と大変です。
一人で行うのが難しい場合は、司法書士、弁護士、税理士など各分野に強い専門家への相談を検討しましょう。