相続財産に借金などの負債が含まれる場合、相続放棄手続きにより借金を背負わずに済むことができます。相続放棄手続きは法的な手続きであり、自身が相続人であることを知って3ヶ月以内に手続きをしなくてはなりません。借金などマイナスの財産を相続せずにすみますが、プラスの財産も相続することができなくなりますので、十分に検討した上で手続きをする必要があります。また、遺産分割協議で財産を引き継がないと宣言する遺産放棄(財産放棄)とは異なり、相続放棄手続きが認められると初めから相続人ではなかったことになります。
相続放棄手続きは決められた期限内に、相続放棄申述書や戸籍謄本など必要書類一式を家庭裁判所に提出する法的な手続きです。しかし、遠方に住んでいる場合や会社勤務の関係等で、家庭裁判所の窓口へ直接持ち込むことが困難な場合もあります。そのような場合、申述書類を郵送することにより手続きすることは可能なのでしょうか?
必要書類の取得方法、申述書の記述方法、注意点などについて詳しく解説します。
【 目次 】
1.相続放棄手続きは郵送のみでも可能
相続放棄申述は書類一式を管轄の家庭裁判所へ郵送することで手続きが可能です。
相続放棄手続きは家庭裁判所に申立てる手続きで、被相続人(故人・死亡した人)が最後に居住していた住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てます。そのため、自身の居住地と被相続人の最後の居住地が離れており管轄の家庭裁判所へ出向くことが困難な場合がありますが、そのような場合は相続放棄申述を郵送することが可能です。もちろん家庭裁判所の受付窓口への持ち込みも可能です。
また、その後の照会書なども郵送で手続きができますので、家庭裁判所に出向かずに郵送のみで手続きを完了することが可能です。
2.戸籍等の必要書類も郵送で取得可能
戸籍謄本は本籍地のある市区町村役場へ保管されています。窓口へ出向くことができない場合でも、郵送で取得することができます。取得するためには以下の書類を各市区町村役場の担当部署へ送付して請求します。
- 戸籍交付申請書(各市区町村指定の様式に記載・押印)
- 請求者(申述人)の本人確認書類のコピー
- 手数料(定額小為替)
- 返信用封筒
- 郵便切手
相続放棄手続きには被相続人と相続放棄手続きをする相続人の戸籍謄本が必要です。被相続人と相続放棄申述をする相続人の関係を証明するために提出する必要があります。必要な戸籍は相続順位によって異なります。
戸籍謄本の収集作業は時間がかかります。特に郵送で取得するのであれば余裕を持って収集作業を行いましょう。
3.郵送で相続放棄を行う手順と注意点
1.相続放棄手続きに必要な書類
相続放棄に必要な書類は以下の通りです。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)
- 被相続人戸籍謄本
- 相続放棄申述をする相続人の戸籍謄本
- 手数料(収入印紙800円)
- 郵便切手(必要分)
- 返信用封筒
2.郵送による相続放棄手続きの手順
郵送で相続放棄申述を行う場合の手順は、家庭裁判所の窓口に持ち込む場合とほとんど変わりません。相続放棄申述書の記入ミスがある場合、時間がかかってしまいますので慎重に記述しましょう。
【 郵送による相続放棄手続きの手順 】
1.必要な戸籍謄本の収集
2.被相続人の住民票除票の取得
3.相続人の調査(養子縁組や認知された子等の調査・確認)
4.負債や財産の調査。不動産がある場合は不動産謄本も取得しておく
5.管轄の家庭裁判所の把握
6.戸籍謄本等の必要書類が揃ったら、申述書・返信用郵便切手等と一緒に管轄の家庭裁判所へ郵送
1から6までを、熟慮期間である3ヶ月以内に行います。
また、申立人の相続順位や代襲相続が発生している場合などにより、必要な戸籍謄本の条件が変わります。
3.相続順位によって異なる戸籍謄本の条件
①申立人が被相続人の配偶者の場合
被相続人の戸籍謄本は、被相続人の死亡記載のあるもの
②申立人が第一順位相続人(被相続人の子・孫など直系卑属) の場合
- 被相続人の戸籍謄本は、被相続人の死亡記載のあるもの
- 申立人が孫の場合、本来の相続人である子の死亡記載がある戸籍謄本
③申立人が第二順位相続人(被相続人の親・祖父母など直系尊属) の場合
- 被相続人の戸籍謄本は、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本
- 被相続人の子で死亡者がいる場合、その子の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 同順位相続人に死亡者がいる場合、その相続人の死亡記載のある戸籍謄本
④申立人が第三順位(被相続人の兄弟姉妹や甥姪)の場合
- 被相続人の戸籍謄本は、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本
- 被相続人の子で死亡者がいる場合、その子の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 同順位相続人に死亡者がいる場合、その相続人の死亡記載のある戸籍謄本
- 申立人が甥姪の場合、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
4.郵送で相続放棄を行う場合の注意点
①期限の余裕を持って申し立てをする
前述した通り、自身が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てなければなりません。郵送で相続放棄申述を行う場合は、期限に確実に間に合うよう、余裕を持って送付しましょう。特に戸籍の収集は時間のかかる作業になりますので、申し立て期限である3ヶ月が迫っている場合や、ご自身が第三順位相続人の場合、費用はかかりますが司法書士などの専門家へ依頼するとスムーズに手続きが進みます。
②郵送するときは配達証明など記録を残す
申述書類は簡易書留や配達証明など記録の残る方法で郵送すると安心です。また、送付先の家庭裁判所へ届いているかどうかの確認も念のためしておきましょう。
③相続放棄申述書の写しを取っておく
相続放棄申述後、数週間〜1ヶ月程度で照会書とよばれる裁判所からの質問状が届きます。相続放棄申述した内容について虚偽なく答えなくてはなりません。その際、相続放棄申述書と異なる回答をすると相続放棄が認められなくなる可能性がありますので、申述書は写し(コピー)を取っておき、申立て内容に沿った回答をするように心がけましょう。
4.相続放棄申述書の作成方法
1.相続放棄申述書の書式
相続放棄申述書は裁判所指定の書式があります。下記裁判所のホームページよりダウンロードすることができます。相続人の年齢(申述人が20歳以上か否か)によって書式が異なります。
2.相続放棄申述書の書き方
相続放棄の申述書は、以下の手順で作成しましょう。
①日付の記入、申述人の署名押印
申述書を作成した日付を記入し、申述人(相続放棄をする人)の署名押印をします。
押印に使う印鑑は認印でもかまいません。
②申述人について
本籍地や住所は、戸籍謄本や住民票の通りに記入します。住所や電話番号は連絡の取れる必要がありますので、実際の住所が住民票の住所と異なる場合は、実際の住所を記述します。
- 申述人の本籍地(取得した戸籍謄本の通りに記述)
- 申述人の住所(住民票の通りに記述)
- 申述人の氏名
- 申述人の生年月日
- 申述人の職業(未成年の場合は小学生、大学生などで可)
- 被相続人との続柄
③法定代理人について
申述人が20歳未満の未成年または成年被後見人がいる場合、親権者または成年後見人が「法定代理人」の欄に記入します。裁判所から連絡を取れる必要がありますので、親権者または後見人の住所・電話番号・氏名を記入します。
④被相続人について
被相続人の欄には本籍と最後の住所地・氏名・死亡年月日を記入します。被相続人の戸籍謄本、住民票除票等で確認し、正確に記述しましょう。
- 被相続人の本籍地(被相続人の最後の戸籍謄本の通りに記述)
- 被相続人の住所(被相続人の死亡時に住民登録していた住所。住民票除票で確認)
- 死亡年月日(被相続人の最後の戸籍謄本に記載してあります。)
⑤相続の開始を知った日について
申述の理由の欄にある「相続の開始を知った日」は書き方に注意しましょう。
「相続の開始を知った日」とは被相続人の死亡した日ではなく「被相続人の死亡を知った日」です。被相続人の死亡当日に通知されたのであれば「相続の開始を知った日」と「死亡日」は同一ですが、疎遠な関係で数週間・数ヶ月経過後に知らされた時に初めて被相続人の死亡を知ったのであれば、その知らされた日を「初めて死亡の事実を知った日」として記述しましょう。
「相続の開始を知った日」は、相続放棄の期限に関わる重要な事実になります。死亡日から3ヶ月以上経過している場合は、自身で判断せずに、相続放棄の専門家に相談しましょう。
⑥放棄の理由について
5つの選択式になっています。自身の相続放棄する理由に近いものを選びます。どれにも当てはまらない場合 は「その他」を選択し、具体的に理由を述べましょう。
【 放棄の理由(選択式) 】
- 被相続人から生前贈与を受けている
- 生活が安定している
- 遺産が少ない
- 遺産を分散させたくない
- 債務超過のため
⑦相続財産の概略について
財産調査の結果、把握できている相続財産について記述します。土地や建物などの不動産については、取得した登記簿謄本の通り、地目や広さなどを記述しましょう。現金や有価証券については、各金融機関に問い合わせ、残高証明書を取得するなどして記述しましょう。
財産調査をしても正確にわからない場合もありますので、現在判明している内容を記述しましょう。虚偽の記載をしていなければ、多少の誤差があるとしても相続放棄申述は受理されます。
- 土地(農地・山林・宅地など)
- 建物
- 現金
- 有価証券(株式)
5.相続放棄の管轄裁判所
1.管轄の家庭裁判所について
相続放棄申述は必要書類や資料とともに家庭裁判所に提出します。提出する家庭裁判所は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
管轄裁判所を調べる場合はこちらの裁判所の相続放棄申述に関するサイト「4.申述先」で調べることができます。
→ 「相続放棄申述の管轄裁判所」 (※外部サイトへ移動します)
2.被相続人の最後の住所を知る方法
被相続人の最後の住所地である相続開始の場所(相続開始地)は、「住民票の除票」または「戸籍の附票」で調べることができます。しかし、被相続人の死亡より5年経過すると、保存期間が過ぎたとして情報が削除され、「住民票の除票」や「戸籍の附票」が取得できなくなるケースがあります。その場合、該当する住所地および本籍地に、該当人物はいないことを証明するため、登記簿上記載されている住所を管轄する市町村役所に廃棄済証明を発行してもらいます。
住民票の除票 | 転出・死亡等で、除かれた住民票で現住所と前住所が記載されている。被相続人の最終居住地の役所へ請求する。 |
戸籍の附票 | 戸籍作成されて以降の住所地が記載されている。戸籍原本と一緒に保管されているため本籍地の役所へ請求する。 |
6.裁判所へ出向く必要があるケース
稀なケースですが、申述内容に不明瞭な部分があるケースや、裁判官が事実関係を明らかにするため必要と判断した場合には呼び出されるケースがあります。その場合は裁判所に出向く必要があります。
まとめ
今回は、相続放棄申述の照会の有無を確認する方法や必要書類、相続放棄申述の照会可能な期間などについて詳しく解説しました。
相続放棄申述は郵送でも対応可能ですので、管轄の家庭裁判所が遠い場合でも無理なく手続きすることが可能です。戸籍謄本なども郵送で取得できますが、役所とのやりとりに時間がかかる場合もありますので、時間の余裕を持って手続きを進めていきましょう。また、申請書類のミスがあると手続きに時間がかかりますので、住所や本籍地などは正確に記述しましょう。
相続放棄手続きは法的な手続きのため期限もあり、戸籍の収集など専門知識の必要な作業や時間のかかる作業もありますので実務に長けた専門家へ依頼して手続きを進めると良いでしょう。また、ご自身の状況によっては相続放棄よりも遺産分割協議での手続きがメリットのある結果になるケースや、家族だけでなく他の相続人との関係も考慮すると限定承認手続きが適しているケースもございます。どのような手続きが最適であるかの判断は容易ではありませんので、相続手続きに精通した専門家在籍の司法書士事務所へ相談・手続き代行を依頼すると良いでしょう。