2020年7月3日から4日にかけて、熊本県南部や岐阜・長野県を中心とした地域は予想を大幅に上回る豪雨(令和2年7月豪雨)に見舞われ、河川の氾濫や土砂崩れ等により各地で甚大な被害が発生しました。
被災された皆様には心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い再建をお祈り致します。
今年は年頭から新型コロナウィルスが流行し、史上初めての「緊急事態宣言」が発令されるなど、このコロナ禍による先行き不透明感や新しい生活様式による様々な変化に加え豪雨による災害等もあり、平穏な日常生活を送ることにさえ不安を感じている方が多いのではないでしょうか?
私どもの事務所には日々様々なお困りごとのご相談をいただきますが、このコロナ禍の期間中、生前相談や不動産に関する相談を特に多くいただいており、死後事務委任契約手続きなどのご依頼もいただいております。
個人の生活はもちろんのことですが事業経営者の状況は大変厳しく、こと高齢な中小企業経営者は事業承継を検討される方も少なくないようです。
事業承継する場合や廃業する場合にどのようなことを考え準備するべきか、相続対策にも触れながらお話ししたいと思います。
1.中小企業の事業承継 ~ 経営者の高齢化
日本経済の多くを占める中小企業の経営者は高齢である場合が多く、全企業の(約359万社のうち、中小企業は358万社と)99%以上にのぼるといわれています。
中小企業経営者の事業承継について経営者の高齢化が進んでいることもあり、国(窓口は各都道府県)は遺留分に関する特例・金融支援・課税特例などの制度を整備し、事業承継が円滑に行われるように支援しています。
2.中小企業の事業承継に関する支援制度
(1)遺留分に関する民法特例
中小企業経営者の相続において、経営者の相続人が複数いる場合、相続人の1人である後継者に自社株式を集中して承継させようとしても、遺留分を侵害された他の相続人から遺留分に相当する金額の支払いを求められた結果、自社株式が分散してしまうなど、事業継続の妨げとなる、遺留分問題があります。
遺留分とは、民法上、最低限保障されている相続人の取り分であり、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には最低限の相続分として遺留分が認められています。
遺留分は被相続人(先代経営者)の意思にかかわらず、相続人の権利として認められているため、他の相続人が過大な財産を取得し、自己の取得分が遺留分よりも少なくなった場合には、自己の遺留分に相当する金額の支払いを請求することができます。
中小企業経営承継円滑化法においては、遺留分が円滑な事業承継を妨げることがないよう、「民法の遺留分に関する特例」が規定されています。中小企業の後継者が自社株式を先代経営者から民法の遺留分の制約を受けずに承継できるように、一定の要件を満たす場合には遺留分算定の基礎となる財産に算入する自社株式の範囲や価額について特例を認めています。
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)の遺留分に関する民法の特例制度を活用すると、後継者及び現経営者の推定相続人全員の合意の上で、現経営者から後継者に贈与等された、
①自社株式を遺留分の対象から外す(除外合意)
②相続時の自社株式の評価額を贈与時点のものに固定(固定合意)
をすることができます。
「除外合意」により、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなるので、相続紛争のリスクを抑えつつ、後継者に対して集中的に株式を承継させることができます。
また、「固定合意」により、自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者の経営努力により株式価値が増加しても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。
経営者の相続における遺留分問題ついては、問題解決の選択肢のひとつとして、経営承継円滑化法の「民法の遺留分に関する特例」の制度趣旨、内容を理解しておきましょう。
(2)税制支援・金融支援
経営承継円滑化法においては、以下の支援も規定されています。
⓵税制支援(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)
後継者が非上場会社の株式等(法人の場合)・事業用資産(個人事業者の場合)を先代経営者等から贈与・相続により取得した場合において、経営承継円滑化法における都道府県知事認定を受けたときは、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除されます。
⓶金融支援(中小企業信用保険法の特例、日本政策金融公庫法等の特例)
事業承継の際に代表者個人が必要とする資金の融資を受けることができます。会社及び個人事業主には、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が用意されます。
制度の詳細、手続き等について把握しておきましょう。
⓷その他:持続化給付金制度
また、新型コロナウィルス対応の持続化給付金制度が創設されましたが、申請手続きは基本オンラインでの申請となっている上に必要書類が多数あり、申請手続きに不安がある方が多いようですが、各自治体でも申請のサポート体制を整えている場合もありますので利用するとスムーズに手続きが進むのではないかと思います。
3.事業の廃業をお考えの場合
後継者のいない場合や経営状態などから、やむを得ず廃業を検討される経営者の方もいらっしゃると思います
事業継続が困難で廃業する場合、手続きは多岐にわたります。
取引先の対応や相続対策など、ご自身で全て手続きをすることはかなり困難ですので司法書士や税理士など専門家へ依頼することをおすすめいたします。専門家へ依頼した場合、手続きはもちろんですが、専門家へ相談しアドバイスを受けることで現状が把握でき、何をどのようにしたいのか明確になり、安心を得ることができるでしょう。
4.事業承継手続きのまとめ
経営者が高齢の場合は事業承継に関する手続きだけでなく、併せて相続対策なども必要となる場合が多々ございます。
特に相続に関しては資産のある場合も負債のある場合も親族間で揉めることが多々ありますので生前対策をしておくことで安定した事業経営を続けることが可能です。事業承継や廃業に関する手続きは専門家へ相談し依頼する事で精神的な負担が軽くなり、滞りなく手続きが進みますので安心です。
また、家族信託を活用した事業承継をお考えの方も増えてきています。
認知症対策だけでなく、相続税対策や後継者の指定など、遺言では不可能な手続きも可能になります。
家族信託を利用した事業承継についての詳細・解説は、別記事にてお話させていただきたいと思います。
今後、さらに変化を求められるであろう状況におきましても、私たちはそれに対応して日々過ごしていかなくてはなりません。
事情承継や終活も含めた生前対策、また、相続発生後の相続手続きなどにつきましては普段から慣れている手続きではないため大変な負担が生じ、場合によっては思いもよらぬ結果になってしまうこともあります。
事情承継や相続に関するお手続きはご自身だけで解決しようとせず、司法書士などの専門家へ相談し、円滑に手続きを進めることをお勧めいたします。