2018年7月、相続法制の見直しに伴い「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、法務局にて遺言書を保管するサービスを行うことを主な内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立し、2019年1月13日より改正の一部から段階的に施行されています。
民法には、人が死亡した場合に、その人(法律上、被相続人といいます)の財産がどのように承継されるかについて基本的なルールが定められており、この部分は一般に「相続法」などと呼ばれています。
この相続法については、1980 年(昭和55年)に改正されて以来、大きな見直しがされてきませんでした。
他方で、この間、日本においては平均寿命は延び、少子高齢化がより進んでいっている状況など、社会情勢の変化が生じており、今回の改正では、このような変化に対応するために、相続法に関するルールを大きく見直しています。
今回の改正は、今後の相続に大きな影響を与える内容となっておりますので、避けては通れない知識です。
今回の法改正によって今後の「相続」がどう変わるのか?を分かりやすく解説します。
今回は、特に注目されている「配偶者の居住権を保護する」ための方策について解説します。
【目次】
1.遺された配偶者を取り巻く相続の現状
2.配偶者居住権とは?
3.善管注意義務に要注意〈あくまで借主であるということ〉
4.まとめ
1.遺された配偶者を取り巻く相続の現状
そもそも、相続が発生すると遺産はどのように分けられるのかご存知でしょうか。
例えば、夫が亡くなり配偶者である妻と子が相続人となる場合、現行法で定められた法定相続分に従うと2分の1が妻、残り2分の1を子で均等に分け合うことになります。
残された財産を相続人全員で公平に分けることができれば、問題はありません。しかし、主な財産が自宅などの不動産だった場合、物理的に分割することができないので、売却して現金に換える必要があります。
もしくは、名義を子どもと共有状態にしなければならず、配偶者の居住する権利が不安定となってしまうことが懸念されていました。
妻は住み慣れた家に住み続けたいと考えていても、一方の子ども側は自分の子どもの教育資金のために現金が必要など、親子間で揉めてしまうことも多々あったのです。
厚生労働省の統計によると婚姻時の年齢差は男性が2、3歳上となっていますが、平均寿命は年々伸びておりは男性(81.09年)より女性(87.26年)の方が長いため、多くの場合、夫が亡くなってから数年から十数年、残された妻は一人で生活をしなければなりません。
しかし、先ほどの例のように遺産分割のために家を売却してしまうと、高齢で残された配偶者は住む家を失ってしまいます。
高齢で賃貸住宅を探すのも、最近は大家側が孤独死などのトラブルをさけるために入居拒否する事例も多く、居住権の確保に困難が生じる場合もあります。
このような状況を防ぐため、残された妻が引き続き住み続けることができる権利として「配偶者居住権」が設けられることになりました。
2.配偶者居住権とは?
家の権利を「居住権(一定期間または終身まで賃料を支払うことなく自宅に住むことができる権利)」と、「所有権(自由に使用・収益・処分する事ができる権利)」に分けて相続することが可能となり、「所有権」とは別に「居住権」として登記を行うことができます。
所有権と住むための権利を分離したことで、結果的に相続財産分配のための売却をする必要がなくなりました。
また、配偶者居住権の評価は通常の所有権よりも低い評価になるため、配偶者としての相続分を、より預貯金等の生活資金の確保に充てることができるようになります。
配偶者居住権は大きく①「配偶者居住権」と②「配偶者短期居住権」に分かれており、配偶者にとってより強力な権利は①の配偶者居住権となります。
①の配偶者居住権の設定期間は配偶者が亡くなるまでとされており、配偶者の居住空間の確実な権利確保が見込めます。ただし、①の配偶者居住権を配偶者が取得するには下記3つの方法によらなければなりません。
- ①相続人全員による遺産分割協議による取得(家裁の遺産分割審判による設定も可)
- ②遺言による遺贈
- ③被相続人と配偶者との間で配偶者居住権を取得させる旨の生前の死因贈与契約
いずれも困難である場合は、これまでの民法と同様のルールに従うことになりますが、家の売却や立ち退きなどを強要されないために、②の配偶者短期居住権が創設され、一時的な配偶者の居住権の確保を実現したのです。
短期居住権については、終期が通常の配偶者居住権の「死亡時」までと違い、「遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日」または「相続開始の時から6か月を経過する日」のいずれか遅い日となっています。
居住権を取得したいと考える配偶者が、遺産分割協議で他の相続人から住居を売却するように提案を受けたとしても、それに応じなければ遺産分割審判が成立するまで、事実上②の配偶者短期居住権を取得することになります。
また、遺産分割審判において家庭裁判所が①の配偶者居住権を、そのまま認める審判を行う事も大いに予想されますので、この権利は居住権の確保という意味で、強力なものであるといえるかもしれません。
3.善管注意義務に要注意〈あくまで借主であるということ〉
しかし、配偶者居住権は他の相続人(共有状態も想定)に対して、善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)を負うなど管理に関する様々なルールが定められています。
配偶者居住権が取得できたとしても、住居を利用する配偶者が適切な利用をしなければ、善管注意義務違反として、配偶者居住権を取り消されてしまう可能性があります。
そのうえ、賠償問題に発展するという可能性も十分に考えられますので、注意しなければなりません。
ちなみに相続手続きでは、所有権の登記と配偶者居住権の登記の両方を、司法書士に依頼するということが必要になります。
4.まとめ
もし、相続財産の中身において割合的に不動産(実家等の住居)の価値が高い場合は、今回の配偶者居住権の活用で、相続人間での利害調整が図りやすくなりました。
しかしながら、前述のとおり、配偶者居住権を与える場合は原則、
- ①相続人全員による遺産分割協議による取得
- ②遺言による遺贈
- ③被相続人と配偶者との間で配偶者居住権を取得させる旨の生前の死因贈与契約
が必要とされており、①の相続人間の話合いでまとまればいいのですが、まとまらない可能性を想定されている場合は②③により事前にご本人が準備を行わないといけません。
ご本人が準備できるのは元気なときだけ、どうか早めの対策を。
私の個人的な想いとしては、相続人同士がまるで他人(大家と借主)のようなルール設定になっていて些か寂しい気がします。
仮に遺言や死因贈与契約が無くても、相続人である親子間で気持ちよく譲り合って、配偶者居住権の確保のみならず、法定相続分を譲歩して配偶者に自宅所有権を全て認めるなど、子どもとして親孝行してもらいたいものです。
ちなみに、配偶者居住権に関する改正の施行日は、2020年4月1日からとなっています。