不動産は価値のある資産でありますが、場合によっては有効利用ができず経費だけがかかる「負動産」となることもあります。
これまでは少子高齢化や都心部への企業・人口集中に伴い、地方の不動産需要減少が著しい状況でありましたが、昨今ではコロナ禍の影響で都心の好立地のマンションやテナントなどでも空室の目立つ地域もみられます。そのため「不動産は財産」という従来の価値観が変わりつつあります。相続財産に不動産が含まれており、当然のように相続をした結果、所有しているだけの状態になり、管理費と税金だけが毎年かかっていくことにもなりかねません。
このように価値のない土地(不動産)の所有権を放棄したい場合、どのような手順で進めていくと良いのでしょうか。土地評価の基準、寄付・贈与などの対処法などについて、詳しく解説いたします。
【 目次 】
1.土地の価値が決まる基準
地価(土地の価格)は土地の形状や立地、面している道路の路線価、都市計画区域・用途地域などさまざまな条件が関係して決められます。同じ地域でも交通の利便性や商業施設までの距離など、様々な条件で土地の評価は異なるケースがあります。その中でも、主に地価を決める基準となる下記3つの指標があります。
1.路線価〜課税価格を算出する基準となる土地評価額(国税庁が公表)
路線価は土地の課税価格を決める基準となる評価額で、「相続税路線価」と「固定資産税路線価」の2種類があります。このうち、土地の取引価格は相続税路線価を基準に算出されます。
【 相続税路線価 】
国税庁より毎年7月にその年の1月1日時点の価格が公表されている。公示地価(国土交通省が公表している土地の値段)の約8割の価格で定められている。道路に面した土地価格で、相続税と贈与税を算出する基準となる。
【 固定資産税路線価 】
市町村より毎年3月末にその年の1月1日時点の価格が公表されており、3年に一度の基準年度に見直される。公示地価の約7割の価格で定められている。
2.公示地価〜土地取引をする際の指標となる標準地価格(国土交通省が公表)
国土交通省が毎年発表する土地取引の指標となる価格です。公共事業や一般の土地取引での基準価格となっており、課税目的の指標ではなく、適正な地価形成に寄与する目的で示されています。
3.基準地価〜土地取引をする際の指標となる標準地価格(都道府県が公表)
都道府県が毎年発表する土地取引の指標となる価格です。国土利用計画法施行令に基づいた価格になっています。目的は公示地価とほぼ同様ですが、都市計画区域内を対象としている公示地価に対し、基準地価は都市計画区域外の住宅地・商業地・工業地、また宅地でない林地なども対象としています。
2.価値のない土地を所有し続けるリスク
今は利用していなくても将来利用する予定がある場合や、評価の高い土地であれば所有しておいても良いかもしれませんが、辺鄙な場所や立地条件の悪い土地など、価値のない土地を所有することは様々なリスクがあります。
1.固定資産税が毎年かかる
1月1日時点で不動産を所有している人には、毎年、固定資産税と都市計画税が課税されます。誰も住んでいない空き家や利用していない土地や田畑であっても、1月1日時点で所有していれば税金がかかります。
固定資産税と都市計画税は、土地・建物それぞれに課税されます。また、土地の固定資産税は路線価に基づき算定され、税金が安価であっても何十年も払い続けていると面積が広大であればその分税金はかかります。価値のなく需要のない場所にある土地であれば売りたくても売れず、ずっと固定資産税を払い続けることになる可能性があります。
2.定期的な手入れをするなど管理が必要
何も手入れをせずに土地を放置していると、雑草や草木が生い茂るなどの問題が発生します。樹木などの枝が道路まで伸びて通行の邪魔になるケースや、荒地となり不法投棄や景観悪化などにより近隣からクレームを受ける等のトラブルが発生するリスクがあります。
3.建物がある場合、倒壊・滅失により損害賠償の可能性
古い家が建っている場合は滅失・倒壊などの恐れや、台風など自然災害により建物の一部が倒壊し、通行人が怪我を負うリスクや近隣に被害が及ぶケースが考えられ、それにより損害賠償責任が生じる可能性もあります。また、実家を相続して空き家のまま放置している場合、放火や空き巣などの被害のおそれや、害獣が住み着く可能性もあります。
4.相続人に負担がかかる
実家不動産など、自身は思い入れがあり売却するつもりがないとしても、自身の死後、相続人は価値のない不動産を相続することになり管理費用などが負担になるケースがあります。相続すると売却や贈与等でない限り手放すことは容易ではなく、固定資産税を払い続け、管理義務を背負うことになります。また、相続放棄手続きを申し立てると所有権の放棄は可能ですが、他の財産も受け取ることはできなくなります。
3.土地の所有権放棄の可否
所有している土地の所有権放棄はできませんが、相続発生時に相続放棄手続きをすることで土地の所有権放棄が可能です。ただし、相続放棄手続きは、土地だけでなく相続財産全てを放棄しなくてはなりません。
相続放棄が受理されますと土地の固定資産税の支払い義務はなくなります。しかし、次にその土地を管理する人が決まるまで管理義務は継続しますので、自己の財産と同一の注意を払って管理する必要があります。民法にも以下のように規定されています。
「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意を持って、その財産の管理を継続しなければならない(民法第940条)
不動産の管理義務から逃れるためには、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てをします。ただし、相続財産管理人選任申し立てには数十万〜数百万の予納金が必要になります。
相続放棄をした場合も、不動産の所有権の放棄は認められますが、次に不動産を管理する人物が決まるまでは管理義務は残ります。管理義務から逃れるためには相続財産管理人の選任を家庭裁判所へ申し立てます。その後さまざまな手続きを経て、引き取る人が誰もいないと決定した場合、最終手段として国庫へ帰属します。
このように、価値のない不動産物件を手放すということは簡単ではなく、大変な労力と時間がかかり、専門知識も必要となります。
【 相続により取得した土地の管理不全の問題について 】
相続により取得した土地の管理が負担となっていることや、所有者不明な土地の増加が問題となっていることから、国も法整備を進めています。希望者は相続により取得した土地を国庫へ帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属法」が2021年4月21日(同年4月28日公布)成立しました。2年以内を目処に施行される予定です。
4.売却できる可能性を確認する方法
基本的に自分名義の土地は購入を希望する相手がいれば売却できますが、売却が困難な土地もあります。例えば土地計画法により市街化を抑制する市街化調整区域の場合、住宅や商業施設などを原則建築することができませんので売却は難しいでしょう。農地も法律上の制限があり、簡単に売買はできません。所有する土地がどのような用途地域にあるかを市町村役場などで調べておくと安心です。インターネットで検索すると情報を得ることはできますが、2種類の用途地域として指定されている場合もあるため、自治体の担当窓口へ直接問い合わせると良いでしょう。
市街化調整区域は用途地域が限定されるため、売却することができない場合は土地の活用方法を検討してみてもいいでしょう。周囲の状況や土地の広さなどにもよりますが、以下のような活用方法が考えられます。
【 市街化調整区域の土地活用法 】
駐車場 | 初期費用が安いが、建物を立てないため固定資産税が高い. |
太陽光発電 | 低リスク・補助金制度あり安定収入。ソーラーパネルの設置費用は高い。節税効果なし。 |
高齢者施設 | 許可や広大な土地が必要。一定の要件満たせば補助金制度あり。節税対策にもなる。資金と運営会社の確保が必要。 |
5.不要な土地を国に寄付することは可能か
所有不動産を手放したいという自己都合による理由で国は簡単に寄付を受け付けてくれません。国や自治体は税金が収入源であり、不動産の固定資産税は大きな税収減です。利用価値のある土地や建物などの不動産であれば寄付を受け取ってもらえるケースもありますが、利用価値がない場合は管理費など経費もかかりますので寄付であっても受け取ってもらうことは困難でしょう。
土地など不動産の寄付についての相談方法は自治体により手順は多少異なりますが、自治体の不動産の寄付担当者へ相談し、国や自治体が土地の調査をする、という手順で進められるようです。調査の結果、必要と判断され寄付が認められるケースもありますが、寄付を受けても使い道のない場合や、維持管理費のかかる土地の場合は引き取る理由がありませんので、寄付を受け付けてもらえる可能性は極めて低いでしょう。
6.法人・個人に寄付できる可能性
1.法人へ土地を寄付する
法人に土地を寄付することは可能です。辺鄙で一般的には売却しにくい土地であっても、受け取り先の企業にとっては利用価値があるケースもあります。また、一般の法人だけではなく、社団法人や学校、NPO法人などの公益法人にも寄付することは可能です。
しかし、寄付した土地をそのまま利用する場合を除いて、受け取る法人側が土地や建物そのままを寄付として受け入れることはほとんどありません。寄付を募集している法人は多数ありますが、そのほとんどが、「原則、受け取リは現金化の後」としています。土地をそのまま受け入れない理由として、現金化する手間がかかることと、寄付者が入手した金額よりも高額である場合、そのプラスの差額分に対してみなし譲渡所得課税がかかるなどの問題が発生するためです。(みなし譲渡所得税は寄付した人に支払い義務があります)
2.個人へ土地を寄付する
個人への寄付は、双方が合意できれば可能です。しかし、売却をせず寄付するということは利用価値や評価の低い土地であると思われますので、個人へ土地を寄付するというケースはあまりないでしょう。隣地の所有者であれば狭小地や変形地であっても、寄付を受け入れてもらえる可能性はあります。抵当権が設定されている場合は抹消登記などの手続きも含め双方話し合い、進めていきましょう。
また、個人への寄付は受けた人は不動産登記費用の他に贈与を受けたとして税金がかかります。贈与税は課税価格が高額であるほど税率が高くなりますので、相手にきちんと説明して理解を得た上で行いましょう
7.不要な土地を相続後、相続放棄する場合の注意点
一度相続をした不動産を、利用価値がないなどの理由で所有権放棄することはできません。相続放棄をする場合は、自身が相続人であることを知ってから3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をする選択をして、手続きをしなければなりません。また、相続放棄手続き後を取り消すことも原則できませんので、相続するのか、相続放棄をするのか、期限内に十分考慮した上で手続きを選択しなければなりません。
相続をした後で土地を手放したい場合は、売却または贈与を検討することになります。
売却する場合、都市部は比較的売却先が決まりやすい傾向にありますが、流通性の低い田舎の土地や山林などは買い手が見つからず、売れたとしても安価での売却になる可能性があります。複数の不動産業者に依頼して査定してもらうと良いでしょう。その際、地方の自然豊かな場所であれば別荘地としての売り出しや、移住希望者を対象にした空き家バンクへ登録することも一つの方法です。
まとめ
今回は、土地の所有権放棄に関する注意点や、価値のない不動産を持つことへのリスクや処分方法などについて詳しく解説しました。
相続財産の中でも不動産は簡単に手放すことのできない財産ですので特によく考える必要があります。資産価値があると思い相続したものの、利用する目的や予定がなく、立地条件も悪い土地であれば、売却も贈与も困難になります。所有している限り固定資産税や管理費用を負担しなくてはならず、自身の死後、相続人が引き継ぐことになり、相続放棄が認められても管理義務から逃れることができず大変な負担となる場合もあります。また、共有名義になっている土地の処分や、名義変更されていない被相続人の父である祖父名義のままの土地など、不動産の相続・売却は様々な問題が含まれるケースがあります。
このように、相続財産に不動産が含まれるケースでは、状況をできる限り正確に把握して相続手続きを選択する必要がありますので、不動産や相続の専門家である司法書士へ相談して対応してもらうと安心です。現状を把握せず自身で判断し、相続や相続放棄をすると、思ってもみない結果になる場合もありますので専門家に相談することをおすすめします。
不動産に関する手続き、そのほかの生前贈与・遺産分割・相続登記手続きなどは、専門家在籍の司法書士事務所へ相談・依頼をして、スムーズに手続きを進めましょう。