今回は、実務では非常に使用頻度が高いと想定される、「預貯金債権の仮払い制度の創設」についてお話させていただきます。
1.特別寄与料の請求制度の創設の経緯
(1)寄与分とは?
寄与分が認められるには、被相続人に対し生前「特別の」寄与があったことが要件とされています。
そこで、「特別の」寄与として認められるための行為としては、これまでの判例上、大きく4つに大別されます。
- ア.労務提供型
相続人が、被相続人の営む事業を手伝うなどにより、結果として相続財産の維持や増加に貢献した場合です。 - イ.財産拠出型
相続人が扶養義務の範囲を超えて、被相続人のために財産を拠出(債務の肩代わり等)することで、結果として相続財産の維持や増加に貢献した場合です。 - ウ.財産管理型
相続人が扶養義務の範囲を超えて、被相続人の資産管理(収益物件の維持管理等)を行う事により、結果として相続財産の維持や増加に貢献した場合です。 - エ.療養看護型
相続人が扶養義務の範囲を超えて、被相続人の療養看護を行ったことで、医療費や介護費の拠出を抑えるなど、結果として相続財産の維持や増加に貢献した場合です。
上記のいずれかの要件を満たせば、その寄与分について法定相続分とは別途権利を主張することができるとされていました。
(2)寄与分の限界
ただ、ここには一つの大きな問題点がありました。
それは、寄与分はあくまで「相続人」にだけ主張が許される権利だったのです。
でも実際の現場ではどうでしょうか?
長男の嫁が長年無償で義母の療養看護をし続けたケースや、長女の夫が義父の営む農業に長年従事し資産の増加や維持に貢献したケース、子供がいるものの離れて暮らしており本人の兄弟が財産の維持管理、療養看護を行っていたケースなど、こういった親族間の行為においては、そもそも相続人ではないため、これまで寄与分に相当する権利の主張が法的に認められていなかったのです。
筆者の実務現場においても、遺産分割協議の場面で義理の親の介護に努めた奥様の努力がなかなか認められず、納得のいかない遺産分割を許容したご家族を見ることもよくあります。
(3)特別寄与者による特別寄与料の請求制度の創設
そこで、今回の改正相続法では、相続人でなくとも被相続人に対して「特別」に寄与した親族であれば、その相続人に対し「特別寄与料」を請求することができるとされました。
これまでの判例においても、相続人(夫等)の補助者として妻の寄与を認めるなど、間接的に認めることはありましたが、今回の改正で直接その権利を主張できるようになったのです。
2.特別寄与料の請求制度概要
改正相続法では、相続人以外の特別寄与について以下のように規定しています。
1.被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる
2.以下略
前述のとおり、元々寄与には大きく4つのパターン(労務提供型、財産拠出型、財産管理型、療養看護型)が考えられるとお答えしましたが、相続人以外の寄与においては条文上財産拠出型が除かれましたのでご注意下さい。相続人と違い、相続人以外における債務の肩代わりなどの財産拠出においては、求償請求等によって処理すべき問題となります。
そして、本条文で救済される対象は、あくまで被相続人の「親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)」のみとなります。
被相続人と何も身分関係がない人にまで請求権を与えることは紛争の複雑化を招く可能性があることや、とりわけ被相続人の親族の場合には、被相続人との間で、労務提供・財産管理・療養看護の行為に関し報酬を得るような契約を結ぶなどが困難であるため救済の必要があることから相続人以外の親族に特別に認められることとなったのです。
ちなみに、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6月経過したとき、もしくは相続開始から1年を経過したときは請求できなくなりますのでご注意ください。上記期間は想像以上に短いものです。
また、特別寄与料が認められた場合、請求された相続人側においては、各相続分の割合で各自に負担が生じますのでご注意下さい。
相続税法上においては、特別寄与料は遺贈と同視して相続税の課税が行われる予定となっており、また、相続人側が負担した特別寄与料の額は課税価格から控除することになる見込みです。
3.特別寄与料の利用にあたって
今回の制度創設の影響で、今後、相続人以外からの権利主張がより容易となり、遺産相続の場面において親族間で紛争になることが今後増えることが予想されていますが、そもそもこれまで泣き寝入りの側面を有した親族による請求であるため、一概に改悪だと捉えるとは当然ながらできません。
しかしながら、一度権利主張がなされると間違いなく親族関係に亀裂を生じさせることとなるでしょう。
また、税務上においても、任意に相続人が特別寄与者の権利を容認し、特別寄与料を支払った場合、その金額が過大である場合などは、どこまでが相続税の範囲なのか、どこからが贈与税の課税になる可能性があるのか未だはっきりとは分かっていません。
したがって、そういったことを防ぐためにも、生前にご本人が遺言や保険等で親族の功労に報いるための取り分の確保をして差し上げることが一番の解決策といえるのではないでしょうか?
税務上も遺贈や死亡保険金等であればその全額が相続税の課税対象になることは確実です。
尚、上記特別寄与料の制度については、2019年7月1日より施行され、制度がスタートしています。